《誰か》2
由奈さんと別れ、20分ほどたった。
走りに走ったせいだろう。もう血が包帯からシャツに滲みそうになって、焦る気持ちと裏腹に足は動かなくなった。
しかたがない…少し、少しだけ休まないと。動くようになったらまた走ればいい。
そう思うけれど、
……時間がない…時間がないのに…!!!
どんどん過ぎる時間に、急く気持ちが動かない足を無理やり動かしたその時。
「健ちゃん…なんでこんなところに?」
ここで一番あってはいけない人にあってしまった。
「健ちゃん、病院にいろっていっただろ!!」
「…ごめん」
「謝らなくていいから!…救急車呼ぶから!待って」
「よっ呼ばないで!!呼ばなくていい!!」
「なんで!!!今にも死にそうな顔してるのにほっとけるか!?」
…あぁこういうお節介なとこが昔気に入ってたっけ…
慶の顔がジャックそっくりだったからかもな…そんなことを考えながら、ジャックに恐ろしいほど似ている慶の顔を睨め付ける。
「…時間がないんだ…頼むから行かせてくれない?」
「時間がないのはお前の怪我の方だろ!?ゆかはただの家出かもしれないし…」
「…そんな軽いもんじゃないんだよ…通してよ…!!」
あまりにも僕が粘るから、さすがの慶も不思議に思ったのだろう。
驚いたような顔をしながら救急車を呼ぼうとする動きを止め、僕をみた。
「…健ちゃん、そういえばずっと昔からゆかの事知ってるみたいな言い方だったよな、ずっと…」
「うん…知ってたよ、ずっと昔から」
「…もしかして、なんでゆかがこんなことになったかも…」
「知ってる。…由奈さんと話して、確信した」
由奈さんの名前を出すと、ピクっと慶の表情が動いた。
「…由奈もやっぱ、知ってたのか」
「………」
「何も知らなかったのは俺と美樹だけってことだったのか?」
「いや。ゆかりさんもなにも知らなかった」
「つまりどういうことだよ?もしかして…二人ともなに考えてんのかよくわからないと思ってたけど…
お前と由奈でわざとこうなるようにしたのかよ!?」
「そんなことするわけないだろっ!?」
思わず叫んでしまい、胸が一気に痛みを増す。
「ごほっ…」
「あっ…!ごめん…!俺、混乱してて…その、」
「大丈夫…大丈夫だから…」
すう、すうと深呼吸を2回する。
「…ごめん、通して…ゆかりさんを見つけないといけないから…お願い…」
「…ついて行っちゃいけないのか?俺は」
「………ごめん」
「……あとで説明してくれ。…全部。全部だぞ」
「…!!…ありがとう、慶」
慶と離れ、よたよたと走り出した。
後を振り返ると、心配そうに見つめる慶が見えた。
ーーーー今頃、あいつはなにしてるかなぁ。
ゆっくり階段を登りながら、由香里は考える。
正確に言えば、思考の上では『ジャック』であった者だ。
もう、それもいろいろなものがミキサーにかけられたようにめちゃくちゃに、乱暴に混ぜ合わせられているのだけれど。
手に握っているのはハサミ。
……口元には、彼女の特徴であった笑顔はもうなかった。
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