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transmigration  作者: さーどん
第三章【HELP】
14/41

《誰か》1

目を開ける。


その先には静かな病室の天井が広がっている。



ゆっくり体を起こすと、胸部に鋭い痛みが走った。



そうか。事故にあったんだっけ。


…まるで他人事のように感じるけど。



「…」



一体僕はどれくらい寝ていたのだろうか?

まだ日もそこまで沈んではいない病室は、まだまだ明るい。時計を見ると1時16分を指していた。




「…ゆかりさん……?」



試しに名前を呼んでみるも、真っ白な部屋に変化はない。



かに思われたが。


ばんっという音と共に、乱暴に病室のドアが開いた。


硬直している僕を尻目に、見慣れた幼馴染が僕の肩を掴んで叫んだ。



「なぁ!健ちゃん…ゆかは!?どこにいるか知ってるか!?」



「…慶?」


















「…ゆかりさんがどこにもいない?」

「そっ、そうなんだよ!昨日美樹が見たってのが最後で!様子がおかしいって言うんだ!!」



混乱しきっているのだろう、慶が過呼吸になりかけながら必死に叫び続ける。



「…、い、家は…?ゆかりさんの家知らないの?」

「そっそれが…俺も、美樹も知らないんだ」

「分かった、僕がゆかりさんの家に行く」

「その怪我で行かせられるかよ!?俺が行くから住所書いてくれ頼む!!」



メモに震える手でゆかりさんの住所を書く。


書き終えたメモをバッと取って慶が「いいか!?ゆかは俺が探すからお前は絶対安静にしとけよ!!」と言い残し飛び出した。




…ドアが乱暴に閉まる音と共に、再び病室は静寂に包まれる。



「…ゆかりさんがいなくなった…」



原因は分かる。僕の事故が原因だろう。


でも、ゆかりさんはある程度冷静な思考がある。

友達がいると言うのに、無闇矢鱈にいなくなったりはしない。

人に心配をかけないことを第一に考える人だ。


なのに、どうして。





もう、その答えは出かけていた。




(……ジャック、君ならあり得るんだ……)



彼女がもしもジャックなら?



…誰よりも優しい彼なら、何よりも僕のことを優先してしまうだろう。

彼女ならば何より優先するであろう友達の心配をかえりみなかったのも、彼ならゆかりさんの友達を知り得ないから当然だ。



僕がずっと考えていた事…彼女の体がジャックの記憶を拒絶しているなら、様子がおかしいと言うのも、体調不良のためと言うことになる。…もしくは……



よく小説で見る事、…事故によって彼と彼女の意識の重なりが生まれてしまったのかもしれない。



なぜなら、僕は彼を庇って彼の目の前で死んだ経験があるのだから。



それによる問題は分からない。分からないけど、ひたすら嫌な予感がする。




「慶…ごめん」



多分君じゃどうにもできない。僕がやらなきゃ誰にもできないだろう。




だって僕は、ジャックの親友なんだから。




再び起き上がり、ベッドから出る。


一歩歩く度に胸が痛む。



痛む胸を押さえながら着替え、誰にも見つからないように病室を出た。













「やぁやぁ、やっぱり脱出して来たんだね。…慶に止められてたでしょう?」



病院から出て、10分もたっただろうか。



だいぶ歩いたためか、胸の痛みも最高潮だ。そんな僕に話しかけたのは由奈さんだった。




「…まあ」

「冷たいね、私には」


そう。僕は彼女が苦手だ。


と、言うのも、付き合いづらいわけではないがつかみどころのなさすぎる彼女は、全く奥が見えない。

だから苦手だった。



「……君こそ慶以外には随分口調が違うと思うけど」

「…よく見てるよねぇ、ストーカーなの?君は…。

まあそんなこと聞きたかったわけじゃない、私はゆかに昨日あったんだよね…もちろん、美樹よりも後、たぶん私が最後にゆかにあった」




「…最後にあったのは美樹さんじゃ?」


「いや、私。…美樹は確か朝ごろだったはずだけど」


動揺する僕を見て、へらへらとした表情を一切崩さずに由奈さんは続ける。


「そんな事より…由香里は誰なのか知ってるんでしょ君は」

「…は?」



話がいくらなんでも飛びすぎだ。



「…何の話?」


「あれ、気の所為じゃなかったら……」





「君はジャック、とか言う人と仲がよくなかったっけか。…違う?」




…は?




「なんで…ジャックを知ってるんだ?」


「ははは、まあその辺りは気にしないで」


「っ、気にするに決まってるだろ!?答えてよ!!」



へらへらとし続ける彼女に、思わず、胸ぐらを掴んだ上に荒い口調になってしまった。



顔の前で手をひらひらとさせながら、「冷静になってよ、私は大したこと知ってるわけじゃないんだから」と由奈さんは言うと、初めて無表情になる。





「私は君たちと同じ基地で医療の管轄に回ってたよ?看護婦さんってやつだね。君は私の上司だったんだから君のことも知ってる。

だからジャックさんと君が親密な関係だったことも知ってる」

「…」



「そして、私は多少なりともジャックさんとも話した。腕を悪くしてたよね。その時に彼を診たから。」

「……」



「だから、好みとか…いざって時にでる癖が似てるゆかに違和感を感じるよ私だって。あんまり関わってなかった私でも感じたんだもん、君だって感じたでしょう」

「……うん」


ここまで一気に言うと深呼吸し、僕を睨みつけながら由奈さんは口を開いた。


「だからゆかと接触したのかな?……こんなことになるとは?」

「…………」



「多少は考えたわけだね?」

「…………」



「沈黙は肯定と取るけど」

「…うん……」



「肯定なら別に黙っててもよかったけど」




力の弱まった僕の手を、服から離しながら由奈さんはため息をついた。



「…で、その胸はどうするの。血が出てる。…今なら病院に戻れるけど」


「戻る訳にはいかない…ジャックをあんなにまでしたのは僕かもしれないから、ほっとけない…僕、ずっとジャックに会いたかったし」


「……君が行っても、もう君がジミーさんだとは気づかないかもしれないよ。きっとゆかは今の、普通の高校生である時代と君と一緒にいた時代のことをごっちゃにしてる」


「……それでも行かなきゃ」


「…最悪も、考えなきゃならないよ。その怪我だと」


「別に構わないよ。僕が倒れるくらいで済むなら」




「……もう、私が止めても無駄ですかね?」

「無駄だよ。それとも僕が倒れるまでここで喋らせる?」



由奈さんはゆっくり頭をかくと、息を吸った。



「…じゃあ…多分、ゆかはまだこの町から離れないだろうから頑張って。…ください。」

「うん。…ありがとう…ねえ、ジャックなら、どこにいると思う?」




「それを私に聞きますか?」と呆れた顔をすると、暫し由奈さんは考える。



「…君たちの思い出の場所かなんかある?」

「…えっ」



…思い当たるのは、あの草原だ。


「…草原?」

「…えっ」



美樹さんはしまった、というような顔をした。


「ゆかがそこを探してた!………あぁ、私…教えちゃった…!!…もう時間がないかもしれない…」

「は…え?」

「急がないと!…あぁあ…」



「ゆかが…ジャックさんが行きそうな場所!どこだと思う!?」

「ジャックが行きそうな場所…!?」




ジャックが…行きそうな場所…






『…すげぇ』

『…ここ…まさにそうだな。綺麗だ。』





『……じゃ、俺が見つけてやる』




フッと、彼の言葉を思い出した。



見つける…?


見つけやすい場所?



……どこなら、見つけやすい?



…高いところならいろんなところを見渡せる。

見つけやすい場所があるならきっと…




「屋上」

「え?」



思わず走り出した僕にむかって、「どこ行くの!?」と叫ぶ由奈さん。




……ごめん、美樹さん。あとで説明するから。




胸がすっごく痛い。…痛いけど今は走らなきゃ。


どんどん気が遠くなって行く。血が足りてないんだろうな。


今倒れちゃダメだ。














……向かう先は、僕らの学校だ。










No.8 リサ

・金髪を後ろで結った髪型

・強かな性格。常に冷静沈着。人を覚えるのが得意

・ジャックに密かな恋心を抱いていた

NEW DATA・転生後→由奈

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