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transmigration  作者: さーどん
第二章【彼】
13/41

《キミ》3

最後に思い出すのはいつも僕の絶命の瞬間。




最後の最後に彼の顔を見られたのがせめてもの救いだっただろうか。




…けれど、せめて最後に見るのは、あんな絶望した顔で無かったならよかったのにと朦朧とする意識の中で思った。




























全てを思い出した頃には、僕は『ジミー』ではなく『田中健吾』として生きていた。




小学校の頃は、それなりに友達もいたのだけれど、ある日突然妙に大人びた考えを持った僕に対して、不気味に思ったのだろうか。それとも別の理由か。



人は僕に近寄らなくなって行った。



学年が上がって行くごとに少しずつ友達は減って行って、小学五年生になる頃には僕が本ばかり読むようになったのもあって友達と呼べる人はごくごく少数になってしまった。



なんとなく中学へ行って、なんとなくーーーというよりもジャックが昔興味深そうに見つめていた、機械を使える仕事へ就ける工業高校へ上がった。




彼に会えるかもしれないという、僅かな期待を込めて。





そこで、望み通り。


また彼に出会った。






「由香里です!…ん?なんですか?…えぇ?苗字?あっ忘れてたねぇw


…あっ…すいません。敬語ですね忘れてました。はい。


吉田、吉田由香里!よろしくお願いしまっす!」






もう【彼】じゃなくて、彼女になっていたけれど。






もちろん、最初は気付かなかった。



クラスの中で、誰とも話さずにいる僕にも頻繁に声をかける彼女に対して、ジャックとは真逆のタイプだなぁなんてことすら思ったほどだった。




そして、今年もまた彼に会えなかったと、落胆していた頃だった。



遅刻してしまうと焦っていたのだろう。



寝坊して焦って走る僕の目が、右から来ている車に気付かないで飛び出した由香里さんを見つけた。



彼女を後ろへ勢い良く引っ張ったために、運動をあまりしてこなかった僕は、バランスを崩し倒れてしまった。



そんな僕に、ぎこちない作り笑いで手を差し伸べた彼女の姿に、


かつて森で彼が僕に差し出した手を思い出した。




















僕は、その日彼女が眠ってしまった(?)のを心配そうに見つめる彼女の友達に、「僕が送るから大丈夫」と言って帰らせた。




もしも、彼女がジャックの生まれ変わりであるのなら、話して確かめたくもあったからだ。




ところが、ゆかりさんと一緒に帰った後日、彼女は激しい頭痛があると休んでしまった。



…もしかすると、僕が近付くと、【彼】の記憶にも近付く事にも繋がるために、体が拒否しているのかもしれない。









(そんなに嫌われていたんだろうか)と、葛藤したけれど、彼に会いたくて会いたくて仕方がなかった僕は、【彼女】が【彼】である可能性があるならば、接触したいと思った。







だから、家を訪ねたのだけれども。




彼女のその時の格好は下はジャージ、上は…




いわゆるブラジャーというやつだった。







彼女は、驚いたわ混乱したわで思いっきり叫んでしまった僕におどろいたのか、真っ赤になって謝りながら焦って転びまくっていた。







落ち着いた彼女は、



「イヤイヤヘイキデスヨ。ワタシコソオミグルシイモノヲ」


なんて言ってロボットのようにカクカクとお茶を運んでくれた。



…やっぱり落ち着いてはいなかった。








「…今日、どうしたの?突然訪ねて来て…」



ある程度落ち着いた(ように見える)彼女は、まだ赤い顔のままで僕に尋ねてきた。




「…あっその、……まあ、月曜…さ、交流会あるらしいからさ…。」

「あぁ…そんなもんもあったっけなぁ…」

「っ……。それでさ、近所だし…一緒に買い物してくれないかなぁって。」



実際は、ただ彼女が彼であるなら話したいと思って来たのだけれども。



もちろんそんなことを言うわけにもいかないから、焦って最寄りの行事を口に出した。



そうしたら、キラキラと目を輝かせて、「え!?いいの!?」と言って喜んでいた。



心底感動したように。





そんな彼女は、かつての彼があの場所へ初めていった時とそっくりだった。













その後、引っ越して一年経つというのに、なぜか近所の菓子屋を知らないと言った彼女と駄菓子屋へ行った。



子供のようにはしゃいで、千円分もお菓子を買い込んでいたのには、とても驚いた。









(…あぁそういえば、ジャックも甘いもの好きだったな…)











「にしても今日健吾君明るいねぇ!」


そう言い出した彼女を、驚きながらみた。



それと言うのも僕の表情の変化に気付くことは、長年一緒に過ごしてきた幼馴染ですら今はなかったから。


「え?」

「いつも少しうつむいてる印象があるんだよね。席近いからよく見るんだけどさw」

「あぁ…そうかもw」








「君俯いてるよりちゃんと前向いてる方が面白いんだけどなぁw笑った顔綺麗だし」





『なんか笑ったの綺麗だったなぁって。』




彼がかつて言っていた事と、表情までそっくりに彼女は言った。



ハッとして、彼女を見ると、「?」という顔をしていた。



【彼】は【彼女】であると、はっきり分かったのと同時に、





あ、やっぱり彼女は、何も覚えていないんだな…と、絶望してしまった。







「…君、よく恥ずかしげもなくそう言うこと言えるね。そういうところホントいいと思うよ。」


























それから、頻繁に彼女の家に行くようになって、彼女は【彼】であることに確信に近い感情を抱くようになった。



特に、彼であると確信したのは得意教科の事だった。ゆかりさんは昔と違って頭の出来があまり良くないようで、英語以外の教科がズタボロだった。



そう、英語以外。



僕らのかつていた場所は、英語圏だった。でも、僕はあまり記憶ははっきりしていないから、英語で会話ができることはない。



けれど、彼女ははっきりと喋ることができていた。




単なる偶然だったのかもしれない。


でも、もしも由香里さんが彼の生まれ変わりであるのなら、できるなら、昔の僕らみたいに。



あの頃みたいな関係になれたら。




そう思った。






だから、彼女に、遊びに行こう、と誘った。





そういうと、彼女は顔が真っ赤になるほど喜んでくれた。
















その約束の日が来て、彼女はわくわくした顔をしてショッピングモールへつれていってくれた。





僕は冷房が苦手だったため(寒すぎて、昔ジャックと一緒にいた基地を思い出すから)外をぐるぐると回った。





「…綺麗だねぇ〜」


噴水の前に来た時、彼女が言った。





そういえば、彼は噴水よりも滝の方が好きだって言ってたな…




「うん。……でも僕は滝とかそういうのの方が好きかな。」




「? そうなの?」

「…なんとなくねw君は?」


「そうだなぁ〜わたしも海とか好きだなぁ」



「…そっか。」


…海か。


そういえば、彼と海の話とか、したことなかったなぁ。




…してたらどうなってただろ?


彼は、綺麗なものが好きだから、喜んでくれただろうな。





…あぁ、もっと話しておけばよかった。




ぼんやりとそんなことを考えて、ハッとして彼女の方を見る。


少し困ったような顔をしていた。


少し焦って言葉を紡ぐ。





「…森とか。僕は好きだけど君は?」



…あ、そういえば彼は、森に来ると顔色が悪くなってたっけ。


…苦手なのかもしれない。だんだん、「もう少しここにいるか」と言うくらいにはなっていたけれども。




「…森か。」



ゆかりさんは、少し言葉を詰まらせた。






「……森は、…なんとも言えないな」

「…!……なんで?」

「森に入るとなんか嫌な感じするんだよなぁ〜。なんか、ここにいたくないっておもうような。…でもなんか、逆に出たくないって気持ちも出てきてさ」



…そんなこと、考えてたのかな。




彼女の顔をみながら、「そうなんだ。」と言って微笑んだ。




そうすると、ゆかりさんは僕をみた後苦しそうな顔をして、頭をおさえた。




「ゆかりさん…?どうしたの?」

「……」

「…ゆかりさん?」


もしかして、森…?


そういえば、彼と出会ったのも森だった。





もしかして、以前考えていたことが本当なら、彼の記憶と接触しかけたから彼女の気分が悪くなっているのではないか。


「……ゆかりさん!ゆかりさん!!」

「えっ!?…あっごめん、ぼぅっとしてたwどうしたの?」



…あれ。平気そうになった?


前に頭が痛いと言っていたときは学校を休むほどだったのに。




けど、これ以上こういう話を続けるのは苦しいかな。



「あのお店とか…何置いてあるのかな」

「あぁあの辺はちょっとした小物とか…」


少し楽しそうに教えてくれる彼女をみて、僕も楽しくなってくる。


「じゃああっちは?」


彼女は「あ、あれはねー…」と言うと、僕の方を見て、すこしばかり瞬きをぱちぱちと数回して何かを考え出した。


そして、


「…かんわいぃー…w」


と、確かに呟いた。





その言葉を聞いて、僕はすこし鳥肌が立った。



『……かわい』



……彼も、そんなこと言ってたな。それを思い出したから。





「ごめんwかわいいなんて言われても嬉しくないわなw」

「……まあ、いやじゃあないけどさw」




あぁ、覚えてなくても、こういうとこは変わんないんだな。



やっぱり、彼は彼なんだ。そう思うと、とても嬉しくなった。



「なんか、嬉しそうな顔w かわいいって、嬉しいの??ww」


「…えっ、僕そんな顔してたの」



「うん、かなり嬉しそうな顔だけどw」

「……あ、うん…そっかw 嬉しい…のかも」




生まれ変わってから、感情が表にでなくなったと思っていたけれど、彼女といると昔みたいに出てしまうのかもしれない。




…あぁ、なんだかすっごく楽しい。



自然に、もう小学生から考えたこともないような感情が頭に浮かんだ。



…そういえば、さっきゆかりさんは海は好きだっていったっけ。




……海か。僕も行ってみたいな。




誘ったら、どう思うだろう?



流石に突然すぎるだろうかと、少し迷ったけれど、ゆかりさんに言ってみることにした。



「…えっと、あのさ、君って…」


そう言って、ゆかりさんの方をみた時。


「ん?どうした?」





………あり得ないものが、少し遠く、彼女の後ろに見えた。






…………大型トラックが突っ込んでくる……!?




「…っは、!?」



急いで彼女を彼女を車の来ない方へと突き飛ばす。




…あのスピードだと、僕は逃げられない……!



「……健吾く、!?」


思い切り突き飛ばしたため、背中を打ったのか少し苦しそうに顔を上げる。



……………僕が轢かれる直前に見た彼女の表情は、かつて【僕】が最期に見た表情とそっくりだった。







どぉんという音とともに、激しい痛みと骨や内臓がひしゃげる音が聞こえた。



口の中が鉄のような味で満たされ、だんだん景色が白くなっていく。遠のいていく。











その時は…あ、死ぬのかな。なんて思った。




















けれども、気付いたら、こうして、病院の硬いベッドで、規則的に鳴り響く音を聞きながら横たわっている。




(…死んだら、彼の思い出をずっと見てられるのかな……)



昔、そんなこと考えてたっけな……









まだ、僕は死ねそうにないな。


やっと、生きてもいいかな、なんて思えるようになったんだから。








……ゆかりさん、さっきまで側にいたのに。どこへ行っちゃったんだろう。






………動けるようになったら、探さなくちゃな………


























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