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transmigration  作者: さーどん
第二章【彼】
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《キミ》2

彼に対する感情というのは、なんとも言い難いものだった。




それは僕が覚えていることがあまりにも曖昧だからというのもあるのだろう。




其処にあるのは尊敬でもあるだろうけれど、親愛もあったし、同情もあったのではなかろうか。



けれど、その他にあるモヤモヤとする感情に、未だ答えが出せない。










ある朝のことだった。



その日僕は普段ギリギリまで寝ているのに割にも合わず早く起きてしまい、寝ぼけながらも心配そうなジャックに『散歩に行って来る』と言って外に出ていた。



ゆっくり歩いていると、だだっ広い中に、仄かに朝日の見える草原についていた。




歩いてものの30分くらいの場所にこんなところがあったとは。




ジャックはこういうところ、好きかもしれないな。


不意に思いついた僕は、彼を呼ぶため走り出した。


休憩時間も限られているし、早く行かなきゃな。そう考えながら。






眠そうなジャックを引っ張って、もう一度戻ってきた時、僕がみた時よりもはっきりと周りが見え出していた。





薄いピンクに照らされた草原は、この世のものとは思えないほど綺麗だった。



『っはぁ…!』



ジャックらしくないはっきりとした驚嘆の声があがった。



それを聞いて気分が良くなった僕は得意になった。


『ね、すごいでしょ?』

『…すげぇ』


ゆっくりとつぶやくと、僕の方を見た彼の顔が朝日で綺麗に染まっていて、とても嬉しそうだった。



『ここ、どうしても見せたかったんだ!…朝日でさっきより綺麗になってるし、すごいね』



そう言っていた僕の顔は、相当気分が高まっていたのもあって、満面の笑顔になっていたように思う。



その顔を見た彼は、惚けた顔をして『……かわい』と言った。


それを聞いて、


『……え?』


と思わずつぶやいてしまった。



それを聞いた彼はハッとして、耳まで真っ赤になった。



『……………いや、なんでも……』



と言って目を逸らしてしまう。


そして、足元を見たままこう言った。


『…花が、綺麗だなって』


…耳まで真っ赤にしたままで。



その様子をみて、僕までなぜか顔が熱くなった。


あー、君の方がよっぽど可愛らしいじゃないか、とも思った。






『………そっか。』



できることならばその様子をもうしばらく見ていたかったけれど、時間もないので軽く返しておいた。



『おう』

『でもさ、こんなにいっぱいお花があったら花冠でも作れそうだね』



軽く呟いた僕の言葉に、ジャックは眉を顰め、首を捻った。



流石に子供っぽかっただろうか、とビクビクしていると、ジャックはゆっくり口を開いた。


『…? はなかんむり?』



あまりにも舌足らずなその言葉に、僕は彼が花冠自体がわからないことに気付いた。


あぁ、そっちがわからなかったのか。


そう思うと思わずふわふわした気持ちになって、あははと笑ってしまった。




それを見て怪訝な顔をするでもなく、ただただ僕の言葉に期待してくれる彼。



あぁ、楽しいな、とあんなにも思ったのは後にも先にも彼といる時以外はなかったと思う。


だから、僕は彼に言った。



『じゃあ作ってみようか。あと集合まで1時間くらいあるし』





その時の彼の表情は、とても嬉しそうで、


頭に未だしっかりと焼き付いている。







『ここをちょっとひねって…花を差し込む…んだっけ』

『そうそ…う…』


彼の手元を見ると、僕よりも結び目も見えにくく、かつ綺麗な色合いの、派手すぎず、かといって地味すぎるようでもないこれまで見たことがないような…



……一言で言えば、とてもとても上手い花冠があった。


『?』

『…君、僕より花冠上手い』



僕の住んでいたところだと僕が一番うまかった自信があったのに。それが顔に思いっきり出てしまった。



『…それも十分綺麗だけど』

『君ほどじゃないよー…なんでそんなに綺麗なの?』


思い切りぷくーと頬を膨らますと、ジャックはふっと笑って、持っていた花冠を僕の頭へ引っ掛けた。


『…わっ』

『……おっ。似合う』


真面目な顔で言う彼のせいで、また顔に熱が集まっていく。


『そ、そう?そうなの?』

『おう』

『…それ喜んでいいことなの?』


そうぼそっと呟いて、一つ仕返しがてら、彼が喜びそうなものを思いついた。


『…あっ!じゃあこれどうかな!』

『?』

『ちょっと待ってね〜…』


黄色い小さな花を摘んで、茎の部分を輪っかにする。



『…できた!ちょっと手出して〜!』

『……?』

『いいからー!ね?』


そう言うと、ジャックは少し躊躇した後、ゆっくりと右手を出した。


『…はい』


そう言って出した彼の右の薬指に花の指輪をはめた。


『ふふっ、ほら!どうかなぁ…!』


彼の顔を見ると、キラキラとした目で指輪を見つめている。


『…綺麗だ』


そう言って、じいっと見つめている彼に問うてみた。


『……気に入ってくれた?』



そう言うと、彼は少し赤くなった頭をゆっくりと前へ傾け、頷いた。


『…よかった』


その様子をみて、ホッとして言うと、その顔を見た彼が先ほどよりも真っ赤になって暫くふさぎこんでしまった。


恥ずかしかったのかなあと和んで、僕も特に何も言わずその日はお開きとなった。






ちなみに、僕はその日寝る直前にもしも彼が左の手を出していたらと考え、軽く悶えてしまった。











































それからも僕らは、その場所へ行くようになったと思う。



僕がはっきり覚えているのは、……これが最後なのだけれど…














その日も、なんとなしにそこへ行った。


『オレンジって、白に良く映えると思うんだ』


僕は、草原を見ながら何と無く思った。


『…突然どうした』

『あはは、なんとなく…かな。…君はどう思う?』


そう言うと、彼は少し考えて答えた。


『…俺も。そう思う』



『…あっ。でも白より緑の方が映えるよね。ところどころ白っぽくなったりしてるし、すっごく色が綺麗』

『…ここ…まさにそうだな。綺麗だ。』


自然に笑顔になってそう言ったジャックを見て、嬉しくなってふふ、ほんとだ、綺麗だねと言った。


『……夕陽って綺麗だよね。もっと近くで観れたらいいのに』

『…それは死ぬだろ。熱いし、第一宇宙だろ。…呼吸できねぇよ…』


それは知ってるんだ。と言いかけ、


『…え、ロマンがないなぁ、』


と言い直した。


あ、でも。ここは彼もいるし、とても落ち着くし。



『でもここが最高かも』


そういう思いで、僕は後に少し付け加えた。



僕が他の綺麗な場所をいっぱい知っているからだろうか。


そう言うと、少しぱちくりと不思議そうに瞬きして僕を見て、『なんで』と言った。



『…それ言わせる?…………あぁ、もうちょっと経ったらいう…よ』

『…今言わねえの?』

『…恥ずかしい』

『…なんで』

『うぅもぅー…』


いつもそれなりに察してくれるのに、どうしてこういう察しは苦手なんだろうなぁ。


そう考えながらうぅーと暫く呟いていた。



『…でももっと広い草原があったらもっと映えるんだろうな』

『…ここ、あんま広くねえのか』

『もっと広いとこがあるらしいよ。本でちらっと見たくらいだけど』



彼がここに来た時からなんとなくは気づいていたけれど、彼は決して頭が悪いわけではないのだけれども、幼い頃から知るべき知識を知らない面があった。




だからここよりももっと広いところがあることを想像できなかったのだろう。



黙り込んでうつむいてしまった。




『いつか、いってみたいなぁ。』

『……そう、だな。』

『…僕、頭悪いし不器用だから…見つけるのに時間かけすぎちゃいそうだな…』



僕がそう言うと、ジャックは少しかなしそうな顔になった。






けれど、少し目をつぶったあと、ゆっくり息を吸って、ジャックはこう言った。



『……じゃ、俺が見つけてやる』


『? 君が見つけてくれるの?』

『…お前より俺の方が、手先も器用だし』


そう言いながら、ジャックは可笑しそうにヘラッと笑った。


からかわれたんだろうなと、むうと少し機嫌が悪くなった。


それを見たジャックは、少しの間笑った後ゆっくりと続けた。


『…それに、体は丈夫だし、……頭は多少弱いけどなきっと滅多なことじゃ死にゃしねえし。…きっと時間もかかんねえよ』


体は丈夫って…だって君は、怪我ばかりしてるじゃないか。



相当無理もしているだろうに。




『……君、十分か弱いよ?』

『…そうか?』



心底驚いた顔をしたジャックを見て、可笑しくなって『わかってなかったんだね』と言いながら笑った。




あぁ、それにしても照れ臭いな。そう思いながらゆっくり呟いた。




『……そうだなぁ。そうしたら、案内してね。楽しみに待っとくから。』




それから暫く、お互い照れ臭そうに黙っていたものの、不意に母と父のことを思い出した。



…そういえば二人は、離れて以来会えずに、死んでしまったんだな。と。





『…でも、いつかね、離れたらきっと会えなくなっちゃうから』



だから、思わずつぶやいていた。



『…?』


『…ほら、なにが起こるかわからないでしょ?それに僕は…』


弱いから、君より先に死んでしまうだろう。



そう言いたかったのだけれど、彼の顔を見て『…いや、なんでもない』と言った。



彼の顔をこれ以上曇らせたくなかった。






そうして黙り込んでいると、彼が口を開いた。



『…じゃ、……探すよ』




『…えっ君、探すって…?』

『…そりゃ……そんままの意味。お前を探す。…見つかるまで、絶対』


彼は僕を最初はまっすぐ見ていたけれど、赤くなりながら顔を伏せた。



けれど、口調は最後までしっかりとしていた。







僕は、何もしていないのに。



僕は、君に助けてもらってばかりで、支えてもらってばかりなのに、




どうしてそこまでしてくれるの?



そう考え、ぼうっとしてしまった。





彼と目が合う。すごく優しい目をしていた。



『……そっか。見つけてくれるの、楽しみにしとくよ。』









そう言うと、その顔を見た彼が、ふわっと表情を緩ませて『あぁ。』と言って笑った。
























僕が覚えていることはあまりにも少ない。





だけれども、彼のその声が、目が、笑顔が、いつまでも僕の記憶に残って…




何百年経とうと忘れられそうにない。
























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