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黄泉国道中あの世行

作者: ぺけお

とある小さな集落の、娘が川に落っこちた。

流れ流れて息絶えて、手足ふやけて溶けきった。

涙を流す両親を、じっと空から眺めてた。

水に浸され、砕かれて、消える体を見送って、ただふよふよと浮いていた。

何処まで飛んでも、あの世は見えぬ。

あるのはかつての場所ばかり。

上天するには如何する。黄泉国道中あの世行。


さぁまず何処へ行きましょう。

当てなく彷徨う若娘、いつしか知らない場所にいた。

広がる景色は彼岸花。暗い夕暮れ血色の巣。

ここは地獄か天国か、いやまだ現世の中にいる。

田畑を走る子供らを、見つめ娘は羨んだ。

田畑の子供は竹林へ。

夕暮れ夕暮れ帰らにゃならん。

されども、子供は駆け出した。

「まだ家なぞには帰らぬぞ。」

陽が落ちるまで、あと少し。あと少しだけと、皆遊戯。

途端、子供が落っこちた。

足を滑らせ穴の中、冷たく暗い穴の中。

泣けど喚けど、助け来ず、声なぞどこにも届かない。

日が暮れ獣がやってきて、子供ら食われてこてんと死んだ。

夜更けの獣と彼岸花。月が出でれば笑いあう。


童を食った獣ども、追って着いたは、竹林の、飛沫飛び散る滝の下。

闇に照らされ光る岩。

そこに住まうは、呑気な河童。

「もしもし、お嬢。いかがして。」

皿を傾け問いかけた。

「行く道違え、迷ったか。ならば案内いたしやしょう。

滝を潜れば、霊界(れいかい)(どう)。先へ進んでごらんなせぇ。

わっちはお嬢が気に入った。また会いやしょう、また来世。」


滝を潜れば黄泉の道。

死の蔓延りし、理の、鬼火の照らす一本道。

先行く道には、こんこんと、水湧く黄金(こがね)の泉あり。

あの世の道はまだ長い、ちょいとここらで休もうと、

娘は泉へ立ち寄った。

中を覗けば、たちまちに、娘は泉へ落っこちた。


気づけば娘は宙ぶらりん。

大きな杉の太い枝、両足荒縄巻きつけて、両手をあげて揺られてた。

畝って飛び出た木の根っこ、異形の老女が立っている。

「若い娘がおっ()んだ。娘の面を剥いだろか、はたまた刻んで食ったろか。」

酷く歪な顔をして、老女は小太刀を持ってきた。

細い手足で木に登り、娘へ小太刀を振り上げた。


そらそら、当たれ。

そら、当たれ。

顔に当たれば顔剥ぐぞ。

他に当たれば食ったるぞ。

娘の魂食ったるぞ。


ところが小太刀は空回り、娘に当たらず、縄を切る。

括った荒縄断ち切られ、娘はすとんと落っこちた。

娘は慌てて逃げてった。


逃げ行く先には、蓮の花。

暗中輝くその花の、薄桃色の美しさ。

黄泉の中ごろ幾らか来れば、そこは水郷、桃源郷。

辺りを走る子供らは、かつて田畑を駆けていた、獣に食われた阿呆ども。

「おっとう、おっかあ、おいらが悪い。言いつけ守らず遊んでた。

鐘が鳴っても帰らずに、足を挫いて、動けずに、しまいにゃおっ死に、黄泉の国。」

嘆き悲しむ子供らは、水郷見っけて喜んだ。

「ここは天国、あの世の楽園。言いつけ守らず家出ても、

おいらは天国、天国行。」

すると男がやってきて、子供の背中を引っ叩く。

「去ね小僧。ここは水神、我らの都。」

清き衣のその男、水神様のおひとりで、とある大河の守り神。

黄泉の半ばの桃源郷、水神どもの住む都。

水神様は、娘に言う。

「惨く数奇な運命の、若い娘がまた一人、不帰(かえらず)の地へとやって来た。」

帰らず帰れず変えられず。

娘は、男に(ゆる)された

連れられ入るは桃源郷、神の世界の幻想郷。

「娘は人の子、穢れし子。されど、我らは受け入れよう。

娘の定めを憐れもう。この地で安寧、暮らすが良い。」

昔々のその昔、生贄にされた村娘。

水神様に救われて、あの世で、そっと、過ごしたそうな。


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