ユウマ君の絵日記(夏休みの友)
『はじめて』というのは、何でも楽しいものです。
それはユウマくんにとって初めての夏休み。初めての宿題、初めての観察日記、勉強さえも楽しい、初めての夏休み……ところが、絵日記だけは楽しくなかったのです。
「何を書けばいいんだろう」
さっぱり思いつきません。
そこでユウマ君は、台所でお料理をしているお母さんのところに行きました。
「おかあさん、絵日記に書くことがないから、どこか連れて行って」
お母さんは「ほほほ」と笑いながら濡れた手を拭きます。
「お出かけしなくてもいいのよ。夏休みでお家に居れば、学校に行っているときには気づかない発見があるでしょう? それを書くのも面白いと思うわよ」
「はっけん?」
「そうねえ……お手本を書いてあげるわね」
お母さんが書いてくれたのは、これです。
学校がお休みなので、お母さんが頑張っている姿を見ることができます。
お母さんはお洗濯も、お掃除も上手です。
お料理ももちろん上手で、一番得意なのはビーフストロガノフです。
おまけに可愛らしくて、いつまでも若々しく、スタイルも抜群です。
僕の好きなアニメのキャラクターで言うと、【配慮】にそっくりです。
「本当にこれでいいの?」
不安そうなユウマ君の頭を、お母さんは撫でてくれました。
「これで完璧よ。ユウマが書いたっぽく見えるように、難しくない言葉を使ったからね。それに、大人向けのアニメじゃなくて、ユウマの好きな【配慮】にしたのも、小学生らしさを演出する工夫なのよ」
「ふうん?」
納得のいかないユウマ君は、お休みでテレビを見ているお父さんの所に行きました。
「はっはっは~。それはお母さんの題材の選び方がおかしいのさ」
お父さんは大笑いして、それから鉛筆とメモ用紙を取り出しました。
「いいかいユウマ、絵日記の絵なんてただの添えものだ。日記である以上、その本体は文章にある。日常の一こまを切り取り、それをいかにドラマチックに盛り上げるか。そこに作文の真髄があるんだよ」
お父さんが書いてくれたのはこれです。
蝉を捕る……いや、狩ると言ったほうが正しいだろう。
夏の賛美歌を大声で喚き散らすこの虫は、飛び立つ瞬間に己の強欲が溜め込んだ液体を天水のように垂らすのだから。あれの直撃を避けるつもりなら、ゆめゆめ油断などしないことだ。
俺は虫取り網を立て構え、足音を消して大樹へと近づいた。
「お父さん、ありがとう。もういいよ」
「なんだよ。ここから戦闘シーンが始まるんだぞ」
「あ~、うん。宿題だから、自分で書くよ」
優しいユウマ君はそう言いましたが、本当はお父さんの文章が難しすぎたのです。『夏の賛美歌』なんて、何のことやらさっぱりです。
困ってしまったユウマ君は、お茶を飲んでいるおじいちゃんのところへ行きました。
「絵日記だと思うから難しいんだよ。先生へ『楽しいことがあったんだよ~』というお手紙を書くんだと思ってごらん」
さすがはおじいちゃん。言うことがまともです。
そして、おじいちゃんもお手本を書いてくれました。
拝啓 酷暑の候、先生様におかれましては優雅なバカンスなどお楽しみのことでございましょう。
さて、僕は取り立てて変わりたることもなく、昼日差しの暑さを昼寝でしのぐ毎日でございます。それでも、日の落ちる夕刻に縁台で蚊遣りの煙と共に饗されるスイカなぞ食らうときには、夏の風情というものをしみじみと感じるのであります。
「お、おじいちゃん?」
「ふむ、絵日記だから、拝啓はいらないかな?」
「そういうことじゃなくてね……」
どうやら自分で頑張るしかないようです。さてさて、ユウマ君は絵日記を書き上げることができるのでしょうか?
夏休みはまだまだあるのですから、大丈夫だと……思いたいところです。




