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9.婚約の危機

 ――本当はなんて名前なの?

 言われている意味を理解するのに、時間がかかった。


「あれ? もしかして気づいてないと思ってた? そんなわけないじゃない」


 北斗はテーブルに身を乗り出し、優奈の腕を掴みあげた。


「目の前でずっと携帯握りしめられてたら、嫌でも気づくって」

「あ……」


 一瞬の隙に、握りしめていた携帯電話が北斗の手に渡っていった。

 ダメだ。取り返さないと。そう思って出した手は見事に宙を掴んだだけだった。


「えっと……お! 俺意外に好評価! 良い人そうか……俺ってそんな風に見えてたんだ」

「ダメです!」


 再び取り返そうと手を伸ばすが、ひらりひらりとかわされてしまい上手くいかない。

 これというのも着物などという動きにくいものを着ているのが悪い。せめて洋服だったらテーブルをさほど気にせず動けるものを。袖が料理に引っ掛かりそうで、どうしても動きが取りづらい。


「んーこれって君から送った分しか残ってないね。もしかして受信したメールは消しちゃったのかな? でもそれだと、送信メールを残しておく意味もないし……。ねぇ、受信はどうしたの?」


 悪戦苦闘する優奈の様子を気にすることなく、マイペースを保ったまま北斗は問いかけた。


「知りません!」


 大きく身を傾け、優奈は必死に手を伸ばした。

 次の瞬間、足がテーブルに引っ掛かりバランスを崩した。


「危ない!」


 間一髪。北斗の支えによって転倒は免れる。


「あ、ありが……」


 目の前には目的の携帯電話。咄嗟に差し出した北斗の手にしっかりと握られている。

 お礼の言葉が途中だったことも忘れ、彼の手ごと両手で握った。


「あーあ、捕まっちゃった」


 言葉とは裏腹に、声色には焦った様子もない。むしろ分かっててやっていたのかと思うほど落ち着いている。


「放して下さい」

「うん」


 あっさりと携帯を解放した彼。急変した態度に戸惑いを隠せない。


「あのなんで……」

「え? だってもう確認したし。君が本当のつぼみさんじゃないって裏が取れたから、これ以上その携帯に用はないんだよ。ところでさ、本当の名前はなんていうの? そろそろ教えてくれたって良いでしょ?」

「……優奈」


 本名を名乗るのはためらわれたが、ここまで来てしまった以上もう取り繕う事は出来ないだろう。


「優奈ちゃんか……うん、北斗優奈。良い名前だね」

「は? ……はあぁぁぁぁぁ?」


 短い単語に集約されたとてつもなく重い意味合いに優奈は絶叫した。

 色々なことをすっ飛ばし過ぎだろう。


「あれ? 気にいらなかった? ……まいったな、ファーストネームならともかく、苗字の方を変えるのはちょっと難しいんだよね」

「違います! そういう事じゃなくてですね。どう考えても、今このタイミングで言う事ではないでしょう!」

「だからさ、俺言ってるじゃない。優奈ちゃんの事気に入っちゃったからお嫁に欲しいって」

「一言も聞いてませんよ! なんですか急に嫁って!」

「だってこれお見合いだよ」


 言われてはたと気がついた。そうだ。ここはお見合い会場で、自分はお見合いをしに来ていたのだと。


「でも!」

「俺と君でお見合いをした。で、俺は君を気にいった。だから求婚してる。……何か問題ある?」


 ありまくりです。と、言いたかった。

 けれど身代わりを仕立てたのは三千院家の方で、それを知った上で北斗家が良いと言ったのなら求婚すること自体に問題はない。


「問題……は無いですけど……でも! 私じゃ何も決められないので」

「オッケー! 三千院家には俺の方で話しておくよ」

「え……」


 状況が悪化している。柔らかく断ったつもりが、なぜか婚約が進む方向に向かっている。


「ま……」

「お待ちなさい!」


 正義の味方よろしく、スパンッと音を立てて襖を開き登場したのは、事の発端であるつぼみその人だった。

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