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8.さわやか太陽

「いやー、お美しいですね。本当に美しい。写真で見た時もそう思いましたが、実際に見ると全然違う。本物の方がハツラツとしていて……すごく魅力的です」

「はぁ……。あ、いえ、そんなに褒めていただくほどでは……」


 時雨で着物を着付けてもらい、さらにつぼみによるメイクを終え、案内されたのは日本料亭だった。

 目の前に並ぶのは食べるのに気を使いそうな豪華な料理の数々。

 料理の乗ったテーブルの向こうには、つぼみの見合い相手の男性――北斗太陽が名前と同じように目を輝かせて座っていた。最初はつぼみの母と北斗の母も一緒に居たのだが、「ここは若い者同士の方が話しやすいでしょ。オホホホホ」と言って去っていってしまったのだ。二人きりにされて良かったのか悪かったのか……。

 つぼみの母が居ない分、バレる心配が減った。しかし同時に、向かいに座る男と嫌でも会話をしなければいけなくなる。


(なんで私がこんな目に……)


 本来ここに居るべきはつぼみだ。気まずい雰囲気に押しつぶされそうになるたび、つぼみへの苛立ちが募る。

 北斗に視線をやると、彼はにこりと優しく微笑んでいた。


「美しいという言葉は貴女のために作られたのではないかと思うくらいです。お見合いの相手が貴女で本当に良かった」


 袖の中で鳥肌が立つのを感じた。

 北斗は無駄に爽やかな男だった。日に焼けた肌や服の上からでも分かる筋肉質な体は、何かスポーツをやっている事を示している。顔も……石橋や与田とは違うタイプで、整っているとはいうよりは明るく懐っこい印象を与えている。その上、三千院家の一人娘と見合いをするほどの家柄であり、年齢も二十四と、つぼみに程よく釣り合う。

 歯の浮くセリフに目をつぶりさえすれば、これほど良い人はいないのでは? と言いたくなるくらいに良い。


『良い人そうな人ですよ』


 手をテーブルで隠し、こっそりとつぼみにメールする。

 するとすぐにつぼみからの返事が来た。


「それでも嫌」


 ちなみに彼女からの返事はワイヤレスイヤホンで直接優奈の耳へと届いている。


『会うだけ会ってみれば良いじゃないですか』

「私には運命の王子様がいるんだもの。他の人とお見合いなんて不貞行為できないわ。第一そんなの失礼じゃない」


 見合いに身代わりを出す行為も失礼になるだろうと、優奈は思った。


「つぼみさん、趣味はなんですか?」

「バ、バトントワリングです」


 咄嗟に口から出てしまった。それは優奈の特技だった。


「そうなんですか。意外……ですね。着物だからでしょうか? あまり運動している姿が想像つかない」

「そうですか?」


 北斗への返事もいい加減に、優奈は手がつりそうになる勢いで携帯のボタンを叩いた。


『すみません。つぼみさんの特技がバトンになりました』

「かまわないわ。どうせ今日を最後に、二度と会うことはないんだから」


 ここまではっきりと拒絶されていると北斗に同情してしまう。もっともつぼみは北斗だから冷たいのではなく、見合いをする気がないので冷たいのだが。


「俺……じゃなくて、私も運動やってるんですよ。サッカーと陸上」

「楽な話し方で話してください。北斗さんの方が年上なんですから、かしこまられると私の方が恐縮してしまいます」

「はい、じゃあ……普通にするよ。つぼみさんも普通に話してよ、ね」

「私は……年下ですから、これが普通です」

「残念。つぼみさんのタメ口、聞いてみたかったのに」


 いたずらっぽい笑顔を見せられ、ちょっとだけドキリとしてしまった。無邪気な笑顔が絶妙的なギャップを作り出していた。


「もう一つ、質問があるんだけど良い?」

「はい、なんですか?」

「俺、つぼみさんのこと本当に気に入っちゃった。もっと傲慢でお嬢様お嬢様した人が来るのかと思ってたら、全然そんなことなくてすごく話やすい。スポーツもするって言うなら、本当に俺にぴったりだと思うんだよね。でさ、つぼみさん……本当はなんて名前なの?」

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