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第9話 校庭の地上絵

 ある日。

 いつもどおり学園に登校してみると、校庭に巨大な地上絵が出現していました。

 もちろん巨大といっても、校庭にある地上絵ですから、ナスカの地上絵と比べたらずーっと小さいことにはなるのですが。


「おお~! こりゃまた結構なモンが出現しやがったな!」

「そうですね、アニキ!」

「オレ様の好奇心という名の血が騒ぐゼ!」

「さすがです、アニキ!」


 校舎の窓から身を乗り出しながら、ヤンキーと釘バットはこんなふうに大はしゃぎ。

 喜び勇んで原因究明に乗り出す決意を固めました。


 ちなみに今日は珍しく、不思議ちゃん探検隊の本格的な活動をするのは、放課後まで待つことになりました。

 理由は簡単、サボりやすい授業がなかったからです。

 休み時間や昼休みは、校舎の最上階から校庭を見下ろし、地上絵を確認することに費やしました。


 ヤンキーの命令で、釘バットがケータイで写真を撮ってあります。

 その写真を見る限り、校庭に浮かび上がった模様は、実際にナスカの地上絵にある図柄と同じように見えました。


「それにしても……地上絵が出現したっていうのに、運動部の部活は普通にやってるみたいだね~」

「それどころか、体育の授業だって普通にやっていたみたいだぞ!」

「誰も気にしてないのかなぁ……」

「地上絵が出現するくらい、どうってことはないだろ!」

「そのとおりです、アニキ!」


 私たちは、その「どうってことのない」現象の原因究明なんて活動をしていることになるわけですが。


 ともかく、まずは現場に足を運ぶのが捜査の基本です。

 私たちは靴に履き替え、校庭へと出ていきました。

 そこには、やっぱりというか当然ながらというか、まだ地上絵が存在していました。


 いや、むしろここで、綺麗さっぱり消えてくれていたほうが、私としてはありがたかったと言えるのかもしれません。

 今日は早めに家に帰って、自分の部屋の模様替えをしようかな~と考えていたのですから。

 もっとも、不思議ちゃん探検隊なんて活動があるおかげで、放課後、暗くなる前に家に帰れるなんてことは、ごくわずかしかないのですが。


「地上絵はナスカにあるのと似たような感じだな。クモにサルにハチドリにクジラにコンドル……。他にもいろいろな幾何学模様が描かれてるな!」

「そうですね、アニキ!」


 とてもウキウキしているふたりに反して、私の気分は冷めていました。

 だって、昨日までなかった校庭に地上絵が出現しただけですよ?

 実際にナスカにあるような巨大なものならいざ知らず、校庭に幾多もの図形が出現しているだけなんて、夜中にこっそり忍び込んだ誰かが描いたイタズラ意外にありえません。


 原因究明もなにも、あったもんじゃないのです。

 しいて言うなら、犯人探しということになると思いますが……。


 犯人を見つけたところで、どうなるものでもない気がします。

 だいたい校庭に描かれた絵なんて、どうせ簡単に消せるわけですし。

 すでに体育の授業や運動部の部活の影響で、かなりの部分が消えかかっているのですから、放っておいても問題はなさそうです。


「う~ん、あたしは納得いきません!」


 不意に釘バットが叫び出しました。どうしたというのでしょう。


「どうしてトマトとかジャガイモとか唐辛子とかホオズキとかの模様じゃないのかと思うと、憤りすら感じてしまいます!」

「???」


 私には、釘バットがなにを言わんとしているのか、まったく理解できませんでした。


「あっ、重要なナスを入れ忘れてました!」


 追加が来ても、さっぱりです。

 ただ、ヤンキーにはわかったようでした。


「どういうこと?」

「つまり……『ナス科』の地上絵、と言いたいってことだな!」

「そのとおりです! さすがです、アニキ!」


 え~っと、どういうこと……?


 そこまで聞いてもわからなかった私に、ヤンキーはさらに説明を加えてくれました。

 トマトやジャガイモや唐辛子やホオズキも、ナス科の植物なのだということを……。


「要するに、ダジャレだったと……」

「そのとおりです!」


 満面の笑みを浮かべながら答えてくれる釘バットでした。

 どうやら釘バットは、虫とか動物とかだけじゃなくて、植物なんかにも詳しいようです。


 それはともかく、私たちは本格的な調査を開始します。

 といっても、調査はすぐに終わりを迎えることになるのですが。


「ねぇ、この地上絵の線って……」

「うむ。ちょっとおかしいな!」

「アニキ、どこがですか?」


 釘バットの疑問に、ヤンキーは人差し指を伸ばし、地上絵の線ギリギリまで近づけました。

 つん。

 指先が、こんもりと盛り上がっている土に触れます。


「盛り上がってますね、アニキ!」

「うむ、そうだな!」

「イタズラで棒とかを使って描いたなら、へこんでるはずよね……?」


 そうなのです。地上絵の線は、へこんでいたのです。

 イタズラではないという可能性が高くなってしまいました。

 ですが、だとするといったい、どういった理由でこんな地上絵ができたというのでしょうか?


 その答えは、すぐそばの土の中からひょっこり現れました。

 ひょこっ。

 土の中から顔を出した、ヒゲを生やした毛むくじゃらの顔を持った小さな生物……。


「……これって……」

「モグラですね!」


 釘バットの大声に驚いたのか、モグラは地中に潜り、そのまま地表すれすれを高速で移動していきました。

 これまでに出現していた地上絵の線と、まったく同じような軌跡を残しながら――。


「つまりこの地上絵は、モグラが浅い位置を移動したせいでできた模様だった、ってことだな! 納得した!」

「はい、納得しました!」

「納得できないよ~! どうしてモグラがナスカの地上絵と同じ模様を描いてるの~!?」

「偶然の産物だろ!」

「もしかしたら知的なモグラなのかもしれませんよ?」

「ええええ~~~~っ!?」

「これにて一件落着!」


 私は納得がいきませんでしたが。

 ヤンキーが終了を宣言したのですから、ここは従うしかありません。


 うん。

 帰って部屋の模様替えをしよう。

 若干現実逃避気味にそんなことを考えながら、私は校庭をあとにするのでした。


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