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第7話 チャイムの音

 キーンコーンカーンコーン……。

 チャイムの音が鳴り響きます。


 それは、学校に通っている私たちにとっては、ごく日常的に聞こえてくる音です。

 耳慣れています。

 耳慣れすぎて、チャイムが鳴ったのに気づかないことなんかもありますが。


 音程が上がったり下がったりしながらではあるものの、うちの学園のチャイム音は、キンコンカンコンというのが合計4回鳴るようになっています。

 ごくごく普通のタイプだと思われます。


 あっ、チャイムが鳴り始めたな~、席に着かないとな~、と思いつつ、先生が来るまでは~、と無駄なあがきをしながらお喋りを続けている中。

 最後の4回目のキンコンカンコンが鳴り響いたのですが……。


 キーンコーンカーンケンッ!


「ケンッ!?」


 思わずスピーカーを凝視してしまいました。


「な……なに? 今のチャイム」

「最後が詰まった感じだったな! ま、放送機器の故障とかだろ!」

「そうですね、アニキ!」


 普段なら原因究明に乗り出しそうなものですが、ヤンキーは完全にスルーのようでした。

 もちろん釘バットだって、ヤンキーが動かなければなにもしません。


 ……まぁ、べつにいいか。


 そう思って気にしていなかったのですが。

 授業が終わったときのチャイムでもまた、同じようなことが起こりました。


 キーンコーンカーンコケッ!


「コケッ!?」


 またしても、思わずスピーカーを凝視してしまいました。


「まだ直ってなさそうだな!」

「そうですね、アニキ!」

「でも、なんだかニワトリの鳴き声みたいな感じに……」


 放送機器の故障で、そんなふうになるのでしょうか。

 不可解に思いましたが、実際に聞こえてきたのですから、そういうこともあるのでしょう。

 気にせず休み時間を過ごします。当然ながら、ヤンキーや釘バットと一緒に。


 そして休み時間終了を告げるチャイムの音が鳴り響きます。

 なんとなく予想はしていましたが……。


 キーンコーンカーンバケラッタ!


「バケラッタ!?」


 いえ、予想の範疇を超えていました。


「絶対におかしいよね!?」

「ふ~む、確かにそうだな~」

「故障とは思えなくなってきましたね、アニキ!」


 ヤンキーもだんだんと乗り気になってきたようです。


「あっ、だったら授業が終わったら……」


 私は次の休み時間に不思議ちゃん探検隊の活動をしようと提案するつもりだったのですが。


「んじゃ、行くか!」

「合点でさぁ、アニキ!」

「ええっ!?」


 当然ではありますが、ヤンキーが授業中とかそんなことを考慮するはずがありませんでした。


「ほら、パシリ! 行くぞ!」


 ヤンキーは私の手を強引に引っ張って走り出します。

 猪突猛進です。直往邁進です。暴走特急です。


 次は日本史の授業だったな~。

 並木先生、いつもいつもごめんなさい。

 などと考えながら、廊下を走り抜けていきます。


「ところで、チャイムの放送装置とかって、どこにあるんだ?」

「わかりません、アニキ!」

「私も知らない~……」


 どうやらヤンキーは目指す場所もわからずに走っていたようです。

 五里霧中です。暗中模索です。集団迷子です。


「よし!」


 ヤンキーがなにかひらめいたみたいです。


「困ったときは職員室!」

「合点でさぁ、アニキ!」

「えっ!?」


 今は授業中……と指摘する隙さえ与えてはもらえませんでした。



 ☆☆☆☆☆



 職員室のドアを勢いよく開けると……。


「そっちに行きました!」

「お願いします!」

「ダメ、届かない!」

「きゃ~、フンを落とした~!」


 なにやら騒がしい状況でした。

 これはいったい……?


 よく見れば、先生方が向けている視線の先には、一羽の緑色のオウムがはばたいていました。

 そしてそのオウムは、開け放たれたドアのほうへ――つまり、私たちのほうへ飛び込んできました。


「あなたたち、捕まえて~!」


 並木先生の声が響きます。

 うちのクラスで授業のはずなのに、まだ職員室にいたんですか?

 なんて言っている場合ではありません。

 教室を飛び出してサボる気満々の私たちには、そんなことを言う資格もないわけですが。


 ともかく、私と違って素早いヤンキーは、飛んできたオウムを見事キャッチしました。


「おおっ! アニキ、さすがです!」

八ッ場(やんば)さん、ありがとう~。助かったわ~!」


 釘バットと並木先生から賞賛の言葉を向けられ、ヤンキーはまんざらでもなさそうな表情です。

 捕まえたオウムをカゴの中に入れて、職員室の騒動は終息を迎えました。


「でも、どうしてオウムが職員室にいるんですか?」

「それはね~……」


 私の疑問に返ってきた答えはこんな感じでした。


 数日前から、チャイムの放送設備の調子がおかしくなり、鳴らなくなってしまいました。

 修理にはもう少し時間がかかるらしく、それまでは代わりの方法を使おう、ということになりました。

 そこで登場したのが、並木先生の飼っている、オウムのコロッケちゃんでした。


 コロッケちゃんは、モノマネが大変上手なオウムです。

 学校のチャイムの音だって、お手のものでした。……オウムに手はありませんが。

 そんなわけで、時間になったら職員室の緊急放送用マイクを使って、コロッケちゃんのマネするチャイムの音を流していたのだそうです。


「あっ、だからさっきのチャイム、おかしかったんですね!」

「そうなの~。コロッケちゃん、慣れが生じて茶目っ気を出しちゃったのかしらね~? それで叱ったら、飛んで逃げちゃったのよ~。あなたたちが来てくれて助かったわ~」


 納得納得。

 ……なわけがありません。


「って、なんでオウムを使うんですか! 録音した普通のチャイムの音を流すとか、そういう感じでいいじゃないですか~!」

「ええ~? だって、コロッケちゃんの上手なモノマネをみんなにも聞かせてあげたくて~!」


 どうやらこの先生も、ちょっとおかしいようです。


「学園長先生も認めてくれましたし~」

「学園長さん公認!?」


 この学園、大丈夫でしょうか。

 不安になってきます。今さらという気もしますが。


「ま、それじゃあ、オレ様たちはこれで!」

「にししし、バイバイ、先生!」

「で……では……」


 ともあれ、謎も解明しましたし、一件落着です。

 私たちは職員室を出て、中庭辺りにでも行って活動成功の余韻に浸るつもりだったのですが。


「は~い! ……って、そうは行きませんよ~? 教室に向かいますから、あなたたちも一緒に来なさい!」


 逃走は失敗に終わりました。

 並木先生も、こういうところは普通の教師なんですね~。


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