1-1旅のお供!グミもどき
次の日の昼過ぎ、落ち着いたころに入学を決定した旨を伝えると養父はすぐに入学届を用意してくれた。というより、用意してあったと言う方が正しいような気もするがまあいいだろう。
10日後、学院から承ったという書状と入学時に必要な物品リストが共に送られ、なにやら難しげなことが書かれた書類のようなものにサインして再び送り返した。
シュリーは少し寂しそうだったが、年末年始の女神の休日(と言うらしい)に帰ると言うと、嬉しそうにご馳走を用意しておきます。と言った。
まだ荷物も揃っていないがまあ、そこはご愛嬌である。
その後も準備は着々と進み、あれよあれよと言う間に8月25日、つまり入学式の6日前になっていた。(1ヶ月はきっかり30日である)
無事に制服も届き、荷造りも終えた。日用品を詰めた大きな鞄は24日に馬車に積まれた。
筆記用具や日記、財布などを入れた肩掛け鞄は丈夫な革でできている。
25日に屋敷を出て、馬車で4日かけて王都の学院へ向かうのだ。この馬車は言わずもがな屋敷の主たるダニエル・アークライトの所有するもので、トマスは熟達した馬のプロでありアークライト家唯一の専業(?)御者だ。
勿論馬車は一つしか所有していない。
残りは全部売っ払ったからである。
馬車に乗る明希は外の景色を目で追い続けていた。
制服の上品なロングスカートが小さく揺れる。コルセットの類を必要としない白のスカートはドレスと言うより、現代風のスカートに近く、紺のブレザーのような上着とよく合っていた。
明希の泊まるのは中流貴族用の宿はどれも綺麗で食事も申し分なかった。
道中は市を歩くこともなく、二日目には外をみるのもすっかり飽き飽きしてしまったのだが、三日目からはかれこれ40年近くアークライト辺境伯に仕える御者のトマスがなにかとお菓子類を買ってくれた。
「お嬢様、見えてきましたよ」
柔らかなトマスの声に、最後のグミもどきを口に放り込んで、外の様子を伺った。
学生専用と思われる道は夜ということもあってか、静かで警備をする衛兵以外は人っ子一人居なかった。
小さな門をくぐった馬車は年若い衛兵の誘導に従って然るべき場所に停車した。
明希はトマスが来る前に扉を開け、軽やかに地面に降り立った。
次いで座席の反対側にあった大きい方の荷物に手を伸ばそうとすると、荷物の代わりに衛兵とは違う軍服を着た青年がいた。
端正な顔をしたその青年は流れるような動作で馬車からおりると、鮮やかなブルーの瞳で明希を見据えた。
「はじめまして」
明希はそれに返答するように小さく会釈をする。
彼の手には明希の荷物があった。
「私は特別棟の警備の総責任者、エドアルト・プライスレスです。新入生のアキ・ホーノキ・アークライト様で間違いありませんね?」
彼───エドアルト・プライスレスは無表情のまま一息に言い切った。
明希は一瞬呆けて、エドアルトが自分に質問したのに気付くと、慌て頷いた。
「あ、はい。そうです」
「それでは特別棟にご案内します」
エドアルトは間髪を入れずにそう言うと明希の鞄を持ったままさっさと歩き始める。
明希はトマスに目礼すると慌てて後を追った。