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0-4アイ・アム・エスパー?



かちゃり、と万年筆を仕舞う音が響いた。窓を見やるともう月が高く登っている。

いや、月ではなくルテラ、と地平線に見えるのはルジィ、だったか。

取り敢えず夜であることに変わりはない。


インクが乾いたのを確認し、パタリとノートを閉じた。上品な装丁のそれは、日記だった。

もちろん日本語で書かれているが、日付けは二つある。勿論日本と、ここスキラート共和国のものだ。


───7/28(日)、8/5(ス)


先程書いたばかりの文字がインクの滲み具合まで鮮明に思い出された。

この屋敷に来たのは丁度30日前の、日本時間6月29日だ。日記をつけ始めたのは、15日前。


毎夜こうして数えてはため息をつく。そうしてその後は無理矢理この国のことに意識を戻すのだ。


そうしなければ、自分を保てないのだ。だから出来るだけ、これからのことを考える。


例えば礼儀作法の授業を思い出したり、食事を思い出したり。

毎日こうするものだから、世間知らずの私につけられたやや顔色の悪い教師は見る間に健康になっていった。

つまり私は優秀な生徒だったと言うことだ。

確かに褒められて味をしめたのもあるが、何より失敗した私にばれないように眉をひそめられるのが恐ろしかった。

きっと怒られるとどうすればいいかわからないと言うのもあったろう。


明希はこれに理由があるなど想像もつかなかったのだが、余りに非現実的な“日常”に現状を感謝しつつも享受する、という姿勢をとっていた。


物思いに耽る明希を、ノックの音が現実に引き戻した。

この控えめなノックはおそらく侍女だろう。


「お嬢様、ダニエル様が心配していらっしゃいます。夜更かしはお控え下さいませ」


少し空いた扉から人目をはばかるように声がかけられた。明希は“お嬢様”と呼ばれてまた妙なむず痒い感覚に襲われた。

ともすれば笑い出してしまいそうだ。しかし彼女は至って真面目なのが問題である。


「シュリー、少し聞きたいことがあるんですけど……」


明希は、“さん”という言葉をどうにか飲み込んだ。───特に彼女は年上だから、どうしても明希を畏縮させてしまうようだ。

余りに日本人らしく言い淀んだ明希に、二十歳ごろの侍女は小さく礼を取った。


「それでは失礼致します」


シュリーは扉に向かって一礼する(軽く膝曲げるのだ)とするりと部屋に入ってきた。

そして明希の座っている丸いテーブルの向こう1.5メートルで立ち止まった。全く、毎回毎回計ったように正確だ。


明希は昼間渡されたばかりの白い封筒を取り出し、シュリーを呼んだ。

彼女は心得たように明希のすぐ近くに歩みよる。──どうやら明希は規格外だと認識してきたらしい。侍女(ふつう)ならあり得ないことだ。


「スキラート学士院でございますね。才能があれば誰でも入れますが貴族の間では一種のステータスのようなものです」


資料には華やかなガーデンや豪華な寮の絵が白黒で印刷されている。


「生物学科と天文学科に別れています。16歳から入学する留学生も居ますし、何より学士院出の泊が付きます」


流石と言うべきか、彼女は明希の知りたい事を正確に認識していた。

シュリーはこれまで明希が“とても遠いところ”に住んでいたと知っている数少ない関係者の一人だ。

"どこ"かは誰も知らない。


──行った方がいい、いや、行かなければならない。


理由もないのに、そう思った。いや、もしかしたら感じたと言う方が正しいかもしれない。

この感覚を、誰が知ろうか。

現実を正しく脳で認識した瞬間、ハンマーで胸の真ん中を思い切り叩かれたような気がした。


本当はこの封筒を受け取った時から決まっていたのだ。

明希は学士院に、いや、新たな環境に、何かを求めていたのだ。


(行かなければならない)


驚くことはない。ずっと昔から取り決められていた事なのだ。

明希は静かに決意を固めると、シュリーに礼を言った。するとシュリーは何か言いたそうにしながらもしっかりとした足取りで退出した。




明希は、実は長いものに巻かれているのに気付かなかったのである


そしてこんな初心者の小説にお気に入り登録して下さる方々ありがとうございます!

よろこびのあまり思わずベッドから飛び下り自殺しそうになりました。

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