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1-25大雨注意報


アキが罰則を貰ってから、一週間が過ぎた。

監視には毎回エドが付き、初めはどもってばかりいたアランも、幾分かなれてきたようでエドとも普通に会話するようになっていた。もともとクローゼ殿下にくっついてきた形で警備の総責任者と言う立場にあるエドが、こんな生徒の罰則なんかに付き合っていてもいいのか、などと思った。


しかし彼自身は暇だからな、とすっぱり切り捨てた。

もともとこの仕事(こういう罰則はよくあるらしい)もくじ引きになりかけたのを彼が引き受けたそうだ。老け顔に似合わずボランティア精神満載である。……老け顔は関係ないか。


毎回毎回微妙な期待と共に朝食後に例の資料室を調べていたのだが、昨日からはもういいか、たいしたことじゃないし、という一言により打ち切られている。休みの日をはさんでも資料室は全く変わった様子もなかった。

あえて言うならば、机の上に置いてあったルテラの観察日記がなくなっていたことぐらいだろうか。普段使われないから、アキは怪しいと思ったのだが、ここは資料室なので教授が取りに来ないとも限らないし、きっと天文学科の教授が片付けたのだろう、言う二人に納得したのだった。



放課後、用事があると言うアランと別れを告げ、アキは特別棟に向かった。


柵越しにクローゼ殿下以下眉目秀麗かつ地位や金や頭脳や武のある人にうーきゃーぴーと言うために集まるご令嬢時々ご婦人も見慣れたものだ。

特に日直をしていると、窓から良く見えるのだ。


たいていが町の小金持ちや下流、傍流もしくは三代限りの貴族なのだが時々明らかに上物(じゃらじゃら)の服を着た女性もいる。プライドが許さないのか彼女たちはたいてい叫ばない。黙って笑っていて、彼女たちの周りには小さな円ができていて、他の女性をちらりと横目で見ながら佇んでいる。何を考えているかは当然ながら手に取るように分かってしまうのだが。彼女たちは常に静かだ。

だからアキはいつも、ああいわゆる下の身分の人は馬鹿ね、節操ないわね、とか思いながら実はクローゼ殿下とか見に来ているんだろうなとか思いながら静かに窓の鍵を閉めていくのである。


他の人もそんな普段から叫びまくっているわけではないのだが、興奮して小声できゃーとか言ってたり友人をばしばしひっぱたいたり(痛そうだ)しているのを見かける。

漫画か!ドラマか!アニメか!はたまたゲームか小説か!と言いたいところなのだが、悲しいかな現実である。かくいうアキの母校でも種類は違うが似たようなことがあったものだ。彼女がただ、はうあーとか思いながら友人と遠巻きに眺めていたのは言うまでもない。


アキは人ごみと言うものが苦手で、いつもはクローゼ殿下が帰ってくる前か(一年は三年よりは幾分か早く終わるのだ)日直で終わって人が佩けてしまってから帰る。

しかし明日は休みと思い、日直に慣れてきたこともあって手早く終わらせてしまったことが間違いだった。全くもって、大きな間違いだった。


クローゼ殿下がちょうど特別棟に入っていくところを見たのである。彼は最後ににっこりと笑って手を振ると、柵と垂直にある重い扉を閉めた。小さな悲鳴めいたものとため息が響く。


つまり私は彼を見終わって帰っていく彼女たちと柵越しにある意味鉢合わせてしまうのである。かといって思いっきり引き返すにはもう遅い。逆に目だってしまう。

そうして結局、早足で特別棟へ帰って行ったのである。


少しうつむいて歩く私に、見たわけでもないけれど、視線が、突き刺さっている気がした。


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