1-24モンスターエド
次の日のことである。
一日の授業が終わり、手提げ袋に教科書を片付けていたアキに少しだけ深刻な顔をしたアランがやってきた。言わずもがな、日直の仕事のためである。
「ねぇ、昨日の資料室、今日の朝はちゃんと閉まってたみたい。廊下であの先生に会っちゃてさ」
アランは参ったよ、と言うようにため息をついた。そしてどちらからともなく歩き出すと、いつものように鍵を借りに行った。今日も例の肖像画のところに監視に来る人がいるらしい。
少し空が曇り気味なのが関係あるのかないのか、なぜか鍵の番をしている警兵隊さんが妙に疲れているように見えた。
「なんか、思ってたより普通の人だったなぁ」
アランが管理室の扉を閉めながらぼそりと呟いた。誰のことなのかは大体見当がつく。
「エドですか?」
アランはふと振り返るとアキが隣にいることにまるで今気付いたかのような顔をした。チャ、と中指で上げられた眼鏡の向こうもいつもより少し元気がなさそうだ。
「僕の叔父は王宮に勤めているんだけど、存在するだけで周囲に多大な迷惑をかける人で……特にエド隊長のことは昔から聞いてたからよほど迷惑を掛けてるんだろうと……」
アランはしばらく考え、ああそうか、あの人の言っていることを信じたのがいけなかったのか、などと呟いていた。
「でも、王宮に勤めてるんならエドとあんまり接点なくないですか?」
「ああ、一応今はね。でも彼ってクローゼ王子殿下に直接仕える騎士だから、彼にくっついてここの警兵隊隊長に一時的になったらしいよ。ああいう式典には元の隊長が出てくるけど実質的にはいまあの人が隊長みたいだし」
「ああ、だからあの人も特別棟に住んでるんですね」
「え、そうなんだ?それは知らなかったな。……はぁ」
「どうしたんですか?眼鏡に粗大ゴミですか?」
「あ、本当だゴミついてる……じゃなくてまず眼鏡に粗大ゴミはつかないからね!」
「すみません、思わず」
「なんで思わず!?ってそうじゃなくてさ……」
アランががくりと肩を落とした拍子にずるり、と眼鏡がずれる。そういえば彼は妙にエドに緊張していた。
「エドって……やっぱり偉い人ですよね」
「?ああ、うん。……でも僕は叔父に変なことばかり聞かされてたからね」
言うや否や、再び青ざめるアラン。変なこと。変なこと。―― 一体何を聞かされていたんだろうか。
「例えば……半径一メートル以内に近づく人間をちぎっては投げちぎっては投げ。あとは、不快な言葉を聴くと問答無用で発信源を池にドボン。鋼の肉体は普段は隠されているが満月の夜には身長は二倍になり、頭から角が生える。そして普段自分を心の中でののしっている人間を襲いまくる。ひとたび目をつけられれば無事ではすまないとかナントカ……」
「どこのモンスターですか、それ」
「……うん。なんで今まで気付かなかったんだろう」
「謎ですね」
「うん」
そして決意を新たにしたアランと、彼に長年にわたってご認識されていたエドと共に、日直の仕事をこなしたのだった。