表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/33

1-20お久しぶりです

ほんの三時間ほどだったとはいえ、アキにとっては久々の楽しい時間になった。

何しろ怖さ半分、申し訳なさ半分で、辺境伯の屋敷にいた頃は人の少ない時間を見計らってこそこそと家政婦に付いていっていたので、同年代のアランと話すのは久しぶりに思い切り笑い、そして美しい学院に癒される素晴らしいひと時となっていたのである。

 

この寮に来てから今日でちょうど5日目である。

ここに住む生徒は2人だけであると言う殿下の言葉通り、この寮で他の生徒に会うことはなかった。

さらに、アキが少し早めに寮を出ることや、一階のロビーや廊下をあまりうろちょろするわけでもないので、殿下とは全くといっていいほど会わなかったし、エドを見かけても軽く挨拶をするくらいでこの寮の住人とはほとんど接点がなかった。

 

まあ二人のことはともかく、この部屋にも馴染んできてアキは自然とリラックスすることができた。意外と順応性が高いのかもしれない。

壁は染みひとつない。木製のしっかりした机に、ああ入学式のプログラムを後で片付けなければ。

規則正しく並んだ教材、少し大きめのベッドには藍色の猫……猫?

 

(夢じゃなかったっけ……)

 

例の猫に非常に似ているのだが(毛並みは相変わらずふっかふかだ)中途半端に会っていなかったのでなんと話しかければいいのか……と言うか夢じゃなかった?あれ?現実だった?

現実ならアースの民について聞きたいことがごまんとあるのだが。

まあいい。

 

「あの、カルロスさん……」

 

「カルペンティエールだ」

 

(喋ったぁぁああ!!)

どうやらやっぱり現実だったようです。

 

「もう一回言っていただいても、いいですか……」

 

「カルペンティエールだ」

 

「カルペティールさん?」

 

「カル・ペン・ティ・エール」

 

「カル・ペ・ティ・エール」

 

「違う。ペン」

 

「ぺム?」

 

辛抱強く指導するカルペンティエールだがなぜかどうもアキの発音が気に食わない。実際に発音するとほとんど違いはないのだが、人間より聴覚が優れているせいか彼は気になって仕方がないのだ。

指導は続く。

 

「カルペンだ」

 

「カルペヌ?」

 

「いや―――いいキルスと呼べ」

 

「ええ!すみません!申し訳ないです。どこが違うのでしょうか?あの、ほんとすみません!」

 

キルスはベッドの真ん中で悠々と座りながら言った。

 

「だからキルスと呼べ。妙な名前で呼ばれるよりましだ……」

 

「みょ、妙……。いえ、あの直しますから」

 

「面倒くさい。それにいちいち長ったらしい苗字で呼ばれるのも鬱陶しいから気にするな」

 

「あ、はい。ホント申し訳ないです」

 

キルスは綺麗な藍色の長い尻尾をひょいひょいと空中で躍らせた。片目を眇めているようなのだが、いかんせん愛らしい猫の姿では威厳なんてものは微塵も漂ってこない。

 

「珍妙な。そこはありがとうではないのか?なぜ謝る?」

 

「あ、え?すみません……」

 

脱線に脱線を繰り返し、なかなか核心を聞くことができないでいるアキであった。

英語っぽく発音してもらうとカルペンとカルペムがあんまり変わらないのが分かると思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ