1-18 暴かれる裏の顔(笑)
扉を開けた瞬間、目の前に立っていた黒いローブの怪しい人物にアキは一瞬固まった。
(明らかに、怪しい)
しかし君子危うきに近寄らずとも言うので、無言でアキは道を開けた。
横にそれてかるくローブの人物を伺っていたのだが、どうも動く気配がない。かといって押しのけて通るわけにもいかない。
声をかけようか道が開くまで書棚をぶらつくか迷っているうちに目の前の人物はフードを被ったまま足音ひとつ立てずにすすす、とアキに詰め寄った。
アキは予想外の至近距離に思わず体をのけぞらせる。
口元を引きつらせるアキにかまわずぐいっと顔をさらに近づける彼女。フードの間から見えた顔は整っていて、丁寧に手入れのされた白い肌は真っ黒な髪に映えた。
彼女は軽くフードを上げ、アキと目を合わせるとニタア、と笑った。
「ごきげんようぅ」
「ご、ごきげんよう」
そのまま静かに身を引いた彼女にアキはほっとして体勢を元に戻した。
ローブの下から見える制服から、彼女がこの学院の生徒なのは分かるのだが、あまりに個性的でどう接していいかが分からない。
少ない女子同士よろしくと言うべきだろうか?それとも女子が少ないのは大変ですかと聞くべきだろうか?
それともここは妥当に自己紹介かな……。
フードの彼女は相変わらず怪しい笑みを湛えたまま佇んでいる。しかも今度は手帳を出してなにやら必死に書きとめてだした。
「アキ・ホーノキ・アークライトです。――――あの、よろしく御願いします……」
「しってるわ」
「あ、はい」
見も蓋もない彼女の物言いにアキは苦笑した。
しかし一介の新入生まで知っているとは。もしかして私が女だからだろうか?
「あなた」
「はい」
「いい!いいわ!その目!最高に冷笑が似合うわよ。敗者を足蹴にしてヒールで踏みつけて高笑いするところが見たいわ。そう、後は数々の男を手のひらで転がしてその様子を鑑賞する孤高の権力者ね!自分にすがり付いて来る弱者を謎めいた笑みで不安にさせ、ゲームを後ろで操り、くるくる踊る哀れな犠牲者を冷徹な笑みで地獄に突き落とす!!」
興奮したのか何なのか、熱く語りだした彼女はさりげなくアキが一歩後ろに引いたのにも気付かず、物凄い勢いで今度は自己紹介を始めた。
「私はエミリー・ウィルソン。研究科の生徒なの。あなた転校生ね?女の子同士仲良くしましょう。学科が違うからあまりあえないけど困ったことがあったら言ってね。うふふふふ」
一応エミリーとしてはまともに自己紹介したのだが、どうも最後の笑みが少々怪しい。
「はい、ありがとうございます」
所謂“愛想笑い”を浮かべて礼を述べるとエミリーは満足そうに微笑んだ。
ただ問題なのは彼女が満足そうに微笑むと、外からは口元しか見えないので、怪しい人物がにやりと笑ったようにしか見えないということだろうか。
「特に!」
エミリーは少し声を荒げてそういった。
「はい」
「あの茶髪の陰険野郎には気をつけて」
「あ、はい……」
此処で茶髪の知り合いといえば私には殿下しかいないのだが、THE王子フェイスにTHE高貴な人っぽい振る舞いな彼が陰険なのだろうか?あ、裏の顔とか?多重人格的な?
それならちょっと渋い言葉にはまっていても頷けるかも……あの顔で多重人格その1武士道にアツいとか。
エミリーに当たり障りのないほどの相槌を打ちつつ、アキはひっそり笑うのだった。