1-16脳内お天気お姉さん
登校初日目、9月1日。入学式後の昼休み、指定された教室に行く前にアキは食堂でアランと昼食を摂っていた。
ちなみに本日は雄牛のフリカッセ(細かく切ってソースに煮込む)、ムール貝のサラダ、チーズパンにした。……少し重いのでフリカッセは少なめにしてもらった。
入学式は滞りなく進んだ。
集合した中庭は大きな木々に囲まれ、上品に整えられた小道と無駄に石が敷き詰められていないこともあって自然味豊かであった。それでも向けられる視線が和らぐわけではなく、唯一の知り合いであるアランに話しかけられたこともあってか(彼は普通科代表として壇上で挨拶した。優秀)とてつもなく居心地が悪かった
まあ前述したように滞りなく進んだのは良かったが、アキは緊張しすぎて肩が凝りそうだった。芸能人とかはこんな気分なのだろうか。
しかしアランは気付いているのかいないのか、涼しい顔で微笑んでいる。食えないのか、はたまた気付いていないのか……おそらく後者だろう。
アキはため息をサラダと一緒に喉の奥に押し込むと、そっとアランに目を向けたやっぱり食べる量は多い。しかも結構。アキの2.5倍は食べている。
目の前で次々に肉(それは正に肉!)を消費するアランをうっかり見てしまったアキは無意味に疲れた。先にフリカッセを済ませておいてよかった。
アランは私にいろいろなことを話してくれた。とくにこの学校の決まりごと、暗黙のルールみたいなのはものすごく助かった。……逆に言えば他のは結構どうでもいい戯言だった。
二回連続で同じ国から来たというので、巷では日本語が流行っている、とか。しかも貴族内での(とくに高位の)若い方々に人気で、この学園も(これは少し前からだが)風学期を秋学期、雨学期を梅雨学期などと呼ぶ生徒がいるとか(渋いな)。
時代にのっとっていれば確かに(痛)カッコいいのかもしれないが、いかんせんアキはよそ者なので分からない。しかも元ネタが分かるだけあって、ウケる。物凄く。とくにクローゼ殿下とかカッコつけるクローゼ殿下とか渋いクローゼ殿下とか。
あの顔でカッコつけて梅雨とか言われた日にはもう無理だ。秋よりさらに日本くさくてウケる。この前もさりげなく秋学期とか言ってたけど、そうか、あれはさり気なくカッコつけてたつもりなのか。
分からなくってすいません……ププッ。
ただこの国は共和制を敷いているとはいえ差別がなくなったわけではなく、特に女性差別は未解決どころか、この学院に女生徒が入れるようになったことさえ驚くべきことで、これを始めた公爵家はは諸侯から果ては農民にまで、学問をするなんてと蔑まれたという。
しかもこれは過去のこととなったわけではない。この状況でそこまで親しくない私にその話をする所はある意味尊敬するが、彼の突拍子のなさと語り癖には、あまり嬉しくないが、慣れてきた。
むしろ1ヶ月で習得できなかった一般常識が分かって良かったという面がある。一部聞いていないが。
皆さん、学校に入学して一ヶ月の自分を思い浮かべてほしい。
一ヶ月もすればほとんど学校生活には慣れるだろう。しかしあなたは突然全寮制の学校に転校することになった。
新しい学校の決まりごとは知らないし、代々こうだ、と言う決まりごとも知らない。部活動も少しだけ気まずい。といったところだろうか。
そこでアランは転校先にいる世話やきでKYだがいろいろ教えてくれる頭のいい級長である。
めちゃくちゃラッキーではないか。
ただ困るのは彼がモテそうだということだが、女生徒は5人だしまあみんな(日本語でカッコつける)クローゼ殿下に行くだろうという希望的観測。
世の中のお姉さま方は懐が大変広くていらっしゃるので、いろんな人のファンになるでしょう。
私の脳内お天気お姉さんが、傘マークの棒を片手ににっこり微笑んだ。