1-15 郷愁
アキは一人で自室につながる廊下を歩いていた。
珍しく変な方向に歩き出さなかったエド(日によって違うのだろうか)は、アキを特別棟のまで送り、入り口に着くやいなや、あまり出歩くなと釘を刺し、仕事があるからもう行く、と足早に去っていった。
偉い人は忙しいのだろう。
そう結論付けるも違和感が拭えない。何でわざわざ迎えに来たかということである。
何しろ会って三日だし、わざわざ送り届けてもらうような(また気安くそれを頼めるような)仲でもないし、何より私が望んでいない。
殿下――クローゼ殿下とか……いやいやさすがにそれはない。他人以上知り合い未満くらいの付き合いだ。
もちろん外出を制限される理由など全く思い当たらなかった。
考え事をしながら無意識に扉を開けると、妙に閑散とした室内に思わず立ち止まった。窓から入るぎらぎらとした日差しがまだ日の傾いていないのを物語っている。
何だ……足りない……ああ、キルスか。
一通り問答すると、あんなに帰りたがらなかった、と言うより頑として帰ろうとしなかったキルスがなぜいないのか妙に気になった。
散策?いやいや妥当に情報収集?
でも人の目から慎重に隠された純血のアイリオの里は十分安全だし、大陸制圧するには数が少なすぎる。それに彼らは人間ではないので価値観は全く違うから意味もない。
老いるのが遅く予知能力に優れた彼らは賢者の一族とも呼ばれる知恵の深い一族で、500年前人が生きれたのも彼らのためであるし、人にとって彼らは神秘の存在なので危害を加えるとも思えない。
考えれば考えるほど頭が混乱してきた。
「夢、とか……?」
思わず呟く。
いやいやでも昨日いたし、でも痕跡ないし、いや妄想にしては精密すぎるし、でも記憶は曖昧だし、記憶は確かなはずだし、まあ曖昧といえば曖昧……わからん。
結局キルスに関しては夢かもー、と言うことで結論付けた。ついてないけどついた。
まだ寝るには早い時間帯なので、明日行く場所おさらい、式典プログラム確認。
もちろんそれではあまり時間はつぶせない。
仕方ないのでJ-POPからROCK、果てはクラシカルに至るまで小声で熱唱しまくって時が過ぎるのを待つ。
禁止された手前、外に出るのも控えるとストレスが溜まる。
もちろん本当に溜まっているかは知りません。専門家じゃないので。でもこういう時にストレスって溜まるんじゃないだろうか。
歌を歌うはいいが思いっきり歌えないといらいらするし、歌うのをやめると歌った分日本のことを思い出してやるせなくなる。
ここへきて一ヶ月たった今も、私の心は日本に取り残されたままだった。
小さな簡易ソファのクッションに顔をうずめ、小さくうめく。
生まれてはじめての感情ではない。ここへ来た当初などもっとひどかった。しかしここまできてしまうとどうすればいいか分からなくなる。
アキは無理やり明日の入学式について考えながらシャワー室に向かった。
ルテラの沈む頃、ルジィの真上の頃ロングスリップの中で小さく体を丸めた彼女の隣に藍色の猫がするりともぐりこんだ。