1-13日本食?
その後もクリス――クリスタレスは当主の継ぐ名らしいのでそう呼ぶことになった(本名は教えてくれなかった)は穏やかな笑みを浮かべながら歴代の”純血”についての講義をした。途中から語りになっていて、三人目のイギリス人家族の話辺りから飽きてきたのだが、アキは辛抱強く聞いた。
先代、文代さんとその弟公彦さんは大阪万博に行く前日にここに来たそうだ。ばらばらの場所に着いた二人だが、スキラートの公爵家に拾われた弟が無事に姉を探し出したのだと言う。
この話の合間にちらほらとクリスの家族の話やスキラートの近代史に触れた。
アキは大まかな歴史は知っていたが近代史には疎いので次々飛び出る固有名詞に頭をくらくらさせながら何とか意識を保った。
一通りクリスが満足するまで語るとすでに昼時を過ぎていた。疲れて帰りたいと言うのもあって、ご馳走すると言うクリスに遠慮しまくったのが、地球人マニアな彼には逆効果だったらしく、”一度は遠慮すると言うニホンの文化ですねッ”とキラキラした目で言われる。
アキは顔も知らない文代さんに言いたかった”空気を読むと言う文化をきちんと伝えてください”と。
そしてひそかに学院でKYをはやらせてやると画策したりしなかったり。
結局押し切られて3階の図書館利用者専用の食堂の中の異様に広い個室に案内された。アキはこれは食堂とは言わないだろうという気持ちを心の中に仕舞いこんだ。
レストランさながらの店内(?)に比べても上品かつ高級感あふれる内装。誰が使うのさ、って王宮図書館だからお偉いさんか。
きょろきょろしながら席に着くと、クリスはウェイトレス(もう食堂とは言うまい)さんに”いつものものを”といった。
なぜか麗しい顔のクリスが一瞬だけ居酒屋のおっさんに見えた。”おい、いつものたのむ”
わくわくしながらメニューを出されるのを待っていたら、ウェイトレスさんはアキに見向きもせずすたすた去っていった。
若干身構えていたアキは思わずぽかん、と彼の背を見つめた。するとクリスが今日のメニューについて説明する。本当は今日は月に一度の休館日だそうだ。
確かにあまり人を見なかった気がする。
「なんでクリスさんは地球の人の研究をしてるんですか?」
「チキューの人とはアースの民のことですか?」
質問を質問で返されてしまった。
クリスさんによれば、初期にこの地を開拓した人々の手記から、地球人はアースの民と呼ばれるそうだ。
有名な原因譚なので一般的に見ればアースの民が来た=なんかちょー有名な人がきた、という式が成り立つ。
時を経て来る人数も減り、先代のときもハリウッドスターさながらに騒がれたと言う(本人談)
やがて運ばれてきた食事にアキは目を丸くした。漆塗り(っぽい)お盆の上には(ブサイクな顔の)焼き魚、(紫の)大根おろし(?)、なぜかアスパラ入りの味噌汁、雑穀ご飯に、巨大なきゅうりとチーズの和え物がのっていた。
きゅうりは食べごろに切られているが、それでも分かる。でかい。半端なくでかい。お化けきゅうりだ。
してやったり、と微笑むクリスにすすめられて、アキは遅めの昼食に手をつけた。一番無難な雑穀ご飯から。
ご飯ののったスプーンを口元に運ぶ。スプーンで食べることにかすかな……いやものすごく抵抗を覚えながら口に含んだ。
「おいしいですか?」
めちゃくちゃ期待されている。キラキラした目で見られている。キラリ、キラリラ、キラレスト。この場合は最上級で。
しかしアキは答えることが出来なかった。口を手で覆わないようにするのが精一杯だった。(実際持っていこうとして、テーブルにぶつかった)
相変わらずキラレストアイズを向けてくるクリスには申し訳ないが、こればっかりはどうしようもない。……辛い。
涙をこらえて麦茶を飲むと、小さくため息をついた。
「すみません……辛いの苦手で」
うそである。丸っきりうそである。アキは納豆にからしを混ぜるし、すしもわさび入りで食べる。ただこの雑穀ご飯(?)が規格外なのである。
それはまるで白米に七味をぶっ掛けたような味がした。
ちらりとクリスさんを見ると少し残念そうな顔をしている。…………私は悪くない。
文化祭が近いので一週間ちょいくらい更新出来なくなります。
申し訳ないです(><)