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1-10もふもふ

「その昔、この大陸は我ら猫の一族のものだった。我々の本性は猫、ただし実体を持った幻の。ゆえに自在に姿を変えることも出来た」


青年はゆっくりと紡ぎ出すように語った。覆いの取られた光石が彼の藍色の髪を綺麗に照らし出している。


「500年ほど前、我々の初めて見る知能を持った者―――ヒトが大陸の西に現れた。我々は彼らの姿を模し、歓迎し、交流を持ってやがて我々は婚姻によっても結ばれるようになった。彼らは我々の知らないものをたくさん持っていた」


明希はアークライト邸での授業を思い出した。猫の一族―――アイリオはその血が濃いほど予知の力に優れているが、純潔は絶滅したとかどこかで生きているとかいろいろ言われるのだ。


「長い時の中で我々は多くのものを失った。まず、猫とヒトにしか変態できなくなり、純血でないものは変態すら出来なくなった。そして純血でないヒトは猫の姿の我々と会話が出来なくなった」


もしかしたらガーデンにいた白い猫はアイリオだったのかもしれない。いや、おそらくそうだろう。

そして私は、言うまでもなく、純日本人のド平凡な顔をしている。


「その後も何度か”Earth”からヒトがやってきたが、人数と回数は次第に減っていった。お前は80年ぶりだ。純血のヒトが現れればその地方を束ねるものが挨拶に行くのが通例だ。然るに我が在る」


明希は聞いたばかりの言葉をゆっくりと咀嚼し、頭の中で整理した。


「あ、私はアキ・ホーノキです。……あの……帰る方法はありますか?」


「ないな」


「……え」


「我らはヒトより記憶力に優れる。ゆえに書がなくても純血のヒトの訪問についても様々な研究がなされたことは知られているし、研究が意味をなさないことも分かっている。予知の一族でもあるからな」


ふぅー、とアキは長いため息をついた。確かに覚悟はしていたが、改めて言われると堪える。けれどなぜか遠い場所で起こっていることのように、現実味がなかった。

フィルターを通して見ているみたいだ。


「辛いか?」


低い地に響くような美声が空気を震わせた。


「そうか」


そういうとキルスはもそもそと私の(・・)ベッドにもぐりこんだ。


「ちょ、ちょちょ。何やろうとしてんですか!」


「睡眠だ」


「私のベッドなんですが」


「知っている」


「いえ、そういう問題じゃないですよね!私どこで寝たらいいんですか!?」


あいにくソファは部屋にない。


「ここで寝ればいい」


「ええ!ていうか家帰ってくださいよ」


「無理だ」


「なんでです!?」


「海の向こうにある。船が出るのは年に二度。7月10日と8月20日だ」


「どんな辺境ですか、それ」


アキはがっくりうなだれた。何を言っても無駄らしい。


「じゃあせめて猫になってください」


そう言うとキルスは不思議そうな顔をした。


「……そうか?まあかまわんだろう」


アキが安心して風呂から帰ってくると、ベッドには藍色の猫が横たわっていた。

こうして寝付くまでの短い間、アキは存分にもふもふを楽しんだのである。




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