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1-6こひぶみ、そしてストーカー

明希はエドにつれられて図書室の個室に向かった。より集中するために作られた部屋は意外と広く、四畳半ほどの空間に机と長椅子が二つ備え付けられたものだった。

エドは 明希と向かい合って座るとおもむろに丁寧に包装されたブレスレットを取り出した。

銀色の輪のシンプルなものであったが、それに刻まれている意匠は緻密で明希は思わず見入ってしまう。

エドは少し不機嫌そうにそれを手渡した。


「身分証明みたいなもの。寮から出るときは携帯が義務付けられている。これを見せれば王宮図書館にも出入りできるからなくすなよ。あと、学院長から預かってきた学院手帳だ。これは鞄にでもしまっておけ」


「ありがとうございます」


「い、いや。今日渡せてよかった。それだけだ」


明希はエドの言葉に疑問を持った。なぜわざわざここにつれてきたのだろう。図書室でもよかったと思うのだが。


「あの、なんでここに?」


するとエドは決まり悪そうな顔をしてガシガシと頭を掻いた。次いで長いため息を吐きながら頭を垂れる。黒い髪が耳の上でさらりと流れた。

明希がそろそろ寝たんじゃないかと心配するころ、エドは人生を諦めた老人のような顔をして顔を上げた。今にもポックリいきそうだ。


「クローゼから預かってきた。はっきり言っておくがロクなもんじゃないだろう。俺が保障してやる。……チッ。とりあえず一人のときに読めだと」


明希は封筒を受け取った。封筒の向こうから”あははーうふふー”と聞こえて来そうなそれを受け取って明希は思わず口をへの字に曲げる。何だこれは。


“渡したからな!”と言うとエドはそそくさと出て行った。

立つ鳥は後を濁しまくって去ったのだった。


微妙に、微妙に(・・・)香水の甘ったるいそれが鼻に響く。どう考えても殿下が託した手紙とは思えないのだが。

明希はくるりくるりと紐でとめられた手紙をといて中を見る。そして後ろ暗いことは何もないのに思わず辺りを見回した。


明らかに殿下ではない女性の名前がサインされた便箋は女性の筆跡で殿下に対する重すぎる愛が便箋4枚に渡って滔々(とうとう)と語られていた。

これはいったい何の嫌がらせだろうか。少女ロザリー(文脈から少女と判断した)は強烈な愛をひたすら書き綴っているのだが、明希が持っていても意味がない。


暗号がないか文章の頭文字を読んだりしてみたが時間の無駄にしかならなかった。殿下は何を思ってこれを私に託したのだろうか?

少なくともこれは明希が持っていても仕方がないので夜にでも殿下に渡さなければならない。

エドの予言は、当たっていた。



***



彼女は珍しく図書室にむかっていた。お告げ(・・・)があったからである。


彼女の姿を見た生徒は、ひいぃっ、と言って次々に道を開けた。彼女は堂々とそこを通った。


彼女は光が嫌いである。だから光石がまばゆいばかりに照らし出す廊下を歩く時は必ずローブを着てフードをかぶっていた。

闇に包まれると彼女は安心した。


「うふふ……」


彼女の口が弧を描いた瞬間、ざざあっ、とさらに道が開いた。

長いローブがさわさわと衣擦れの音を立てている。彼女はこの音が大好きだった。この音を聞くためにローブを特注していると言っていい。

しかし彼女はそれがさらに愛すべき(?)級友たちを脅かしているとは知らなかった。


そんなことはどうでもいいのだ。


なぜなら彼女は今日も今日とて趣味の女の子観察(・・・・・)を愛用の手帳とともに行おうとしているのだ。

彼女は現在進行形で恋する乙女な、とある生徒をある意味ストーキング中であった。いやもうすでに犯罪行為であろう。

しかしこの国に『ストーカー行為等の規制に関する法律』はない。正式名称なのはご愛嬌である。


「図書室なんてお呼び出ししたに違いないわぁ」


彼女は実に怪しいことをつぶやくと、こそこそと図書室に入っていった。そして彼女は、全く違うものを目にするのである。




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