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1-5緑のおかっぱ

朝、着替え終えた明希は食堂の椅子に座って、地図を眺めていた。このやたらと広い学院は奇妙な場所がたくさんある。もちろんこの豪華な食堂も学院内のものだ。ちなみに入学資料にあった食券をありがたく使わせていただいている。


本当は図書館を探すつもりだったのだが思わず見入ってしまった。しばらくはこの地図のお世話になりそうだ。

明希は気を取り直して簡易ノートと羽ペンを手に取り、地図を片手に講義棟の隣の図書館へと向かった。


図書室には生徒がちらほら見えた。夏休み後半は寮が開放されるので家が遠い生徒などは早めに寮に入ることがある。

もちろん男子生徒ばかりで、明希は視線から逃れるようにして人の少ない参考書の棚に向かった。立っているのがどうにも居たたまれないので、目に付いた本を手に取るとそそくさと人気の少ないテーブルの端に陣取る。


手に取った『スキラート学士院の歩み』と言う本は言わずもがな、退屈極まりないものだった。

現在16歳以上25歳未満なら誰でも入学できるこの学院は、もともと王宮の文官を育成するためのものであり、卒業生のほとんどは役所務めか研究所行きなのだ。どうりで女生徒が少ないわけである。

しかもほとんどの生徒が15歳までに学院付属の”学園”と呼ばれる施設で勉学を修めており、その後家業や、遊学などを経て学院に入学している。つまりほとんどみんな年上なのである。


明希がたらたらと卒業生の遍歴を斜め読みしていると、突然背後から声をかけられた。驚いた明希は思わず本を取り落とすところだった。意外と本に熱中していたらしい。


「新入生だよね。その本、面白い?」


男性にしては高めのテノールが耳をくすぐった。振り返ると鮮やかな萌黄色のおかっぱ頭が視界に飛び込んでくる。明希が曖昧な返答をすると銀縁眼鏡のおかっぱはなにやら嬉しそうに語りだした。


「この学院の歴史はとても古いからね。その本には正史では語られない所謂裏歴史の片鱗がちらほら見えるんだ。教科書に載っていないこの国の歴史を紐解くのはとても楽しいよ」


うだうだうだ。なにやら小難しいことを語りに語っているのだが、明希の視線は頭に釘付けである。ちらりと横目で図書館を見渡すとファンシーな髪色が正統派よりも圧倒的に多いのがわかった。

今まで注意を払わなかっただけに驚きが多い。

異世界はカラフルである、と辞書に追加された。


ふと、目の前の彼と目が合う。そういえば名前も知らないな、と明希が思っていると彼は萌黄色のおかっぱを揺らして急に慌てふためいた。


「ああ、ごめん。今までそれ読んでる人なんて居なかったからつい嬉しくなっちゃって。ええっと、僕アラン・オデラート。アランって呼んで。君は?」


明希はうっかり間違わないように少し考えてから答えた。


「えと、アキ・アークライトです。アキって呼んでください」


「わかった。アキだね」


そう言うとアランはにっこり微笑んだ。髪ばかりに気をとられていて気付かなかったが、アランはとても綺麗な顔立ちをしていた。綺麗と言うか、女性受けしそうと言ったほうが正しいのかもしれないが。

アランは同志でも見つけたと思ったのか目をきらきらさせている。もちろんアキは裏歴史を紐解く気などさらさらないが、彼にとって重要なのはこの本を手に取ったことであるらしい。


「学園出じゃない上に16歳から入るって珍しいから気なってたんだ……」


アランはまだ何か言おうとしていたようだがそれは言葉として紡ぎ出されることはなかった。代わりに彼より幾分か低めの声がテーブル越しに掛けられる。


「すまん、少し付いてきてくれないか?」


見慣れた黒い髪、エドだった。


「あ、はい。……ごめんなさい、また今度」


後半はアランに向かって言う。彼ははっとしたように何度か頷いた。エドの登場に驚いたようだ。

アランは”片付けておくよ”と言って『スキラート学士院の歴史』を手に取ると本棚の間に消えていった。



明希とエドが去った図書館で黒い何かがにやりと笑った。

P、PV1万突破しておりました。


はわわ……ありがとうございます!


そろそろ番外編の準備をはじめます……

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