聞いてよ!
草木も眠る丑三つ時。今日も私は、元カレの草太に話しかけるために彼の部屋に来た。
すやすやと眠る草太の枕元に座って、顔をじっくり見る。ちょっとやせた?
でもあいかわらずかっこいい。この顔が本当に好きだった。見てるだけで幸せだった。
だけど、彼は私の話を聞いてくれなかった。
「聞いてる?」
「聞いてるよ」
「じゃあ何の話をしてたか言ってみて」
「きーちゃんが学校を休んだ話だろ」
「それはきのうの話! やっぱり聞いてなかったんじゃん!」
こんなきっかけでケンカするのが日常茶飯事だった。
草太に言わせると、私の話は冗長で、コロコロ話題が変わってオチもないので、「それを話して、俺にどう言ってほしいの?」と混乱するような内容らしい。
どう言ってほしいとかじゃないのに。ただ、聞いて、「面白いね」とか「悲しいね」とか「良かったね」とか、私の心情に寄り添ってくれるだけでいいのに。
そのうち「そうなんだ」しか言わなくなった草太が許せなくて、「草太は私のことなんか、どうでもいいと思ってるのよ! だからそんな態度しか取れないのよ! もういい! もっと私のことを大事にしてくれる人をみつける! さよなら!」と言って別れた。
別れてしばらくして、隕石に当たって死んだ。
学校からの帰り道、ひとりで歩いてたらピンポイントで私の上に落ちてきた。
死んだのは残念だけど、「運が悪かった」としか言いようのない死因なので、あきらめがついた。
誰も恨めない状況なのに、幽霊としてこの世に残ってしまった。
たぶん、草太に未練があったのだ。草太に、私の話を、親身になって聞いてほしかった。
それだけが心残りで、成仏できないのだ。
だから私は、毎晩草太に話しかけている。草太が私の話を聞いてくれる日まで。
「草太、また来たよ。今日こそは私の話を聞いてくれるかな?」
「うーん…」草太が眉を寄せる。私が話しかけると、いつも苦し気な表情になる。
(反応があるってことは、聞こえてるってことよね?)
と思って、話を続ける。
「急に死んじゃって、ほんとなんかごめんね。私と草太がつきあってたことはみんなが知ってたから、みんなに『気を落とすなよ』とか『運が悪かったんだよ』とか話しかけられてたね。『いやもう別れてたから』って正直に言うと、がっかりされるんだよね。悲劇に酔いたい人が多いんだろうね。そういえば『悲劇に酔う』っていうけど、『悲劇に酔いしれる』とは言わないよね。『悲劇中毒』とかもないから、悲劇はやっぱ、酔うにしても、つきあい程度とか、受け付けない体なんですとか、『悲劇豪』みたいな人はいないんだろうね。『悲劇豪ってなんだよ』って話だよね。わはは、ほらお酒に強い人のこと『酒豪』って言うじゃん? それの悲劇版だから『悲劇豪』! 面白くない? だめ? あと何に酔うっていうかなあ、『自分に酔う』っていうよね? その場合は『自分豪』かあ。あんまり面白くないななんでだろ。あっそうそう、面白くないといえば、こないだ腹が立つことがあったのよ! もう話したかもしれないけど! 死んだんだからさあ、天使とか死神とか、迎えに来ると思うじゃん普通? でも全然来ないのよこれが! どうすればいいのかわかんなくて、そのへんフラフラしてたら、他の幽霊と行き会って、『あっこの人も彷徨ってるのかな』と思って近寄ったら、私に『天使様ですか?』って言うのよ! この私によ!? 笑っちゃうでしょー! もう、たしかに私はかわいいけどさー、こんな制服姿の女子高生を見て天使はないでしょって! だから私、言ってやったのよ、くるりと回って『プリティー天使、ミラクルカオルでぇす』って言って手でハートマーク作ってウインクしたの! めっちゃ面白いでしょ? 笑っちゃうでしょ? それなのに、ドン引きされたのよ! むかついたから『あんたなんか一生お迎えなんて来ないわよー!』って言ってやったわ。そのくらい言ってもいいわよね? がんばったのにさー! ねえ草太もそう思うでしょ?」
「た…大変だったな…」
え!?
「がんばったんだな…」
ええ?
いつも、何を話しても、「うるさい…」とか「もうやめて…」とかしか言わなかった草太が!
聞いてくれてた? 聞いてくれてたの? 私の話を…!?
天井から光が差し込んできた。ああそうね、これで、私、成仏できそう。
草太、ありがとう。大好きだったよ。私の話、聞いてくれてありがとう。
どうか元気でね。私はあの世で、草太の幸せを願ってるよ。
◇◇◇
数日後。高校のカウンセリング室。
「本当にありがとうございました。おかげさまで悪夢から解放されました」
「それは良かったわ。あなたの元カノさんって、典型的なおしゃべり好き女子だものね。内容は、あってないようなもの。だけど、たいていは『こんなに大変だったの!』とか『がんばったの!』ってことを愚痴りたいだけ。だから『大変だったね』と『がんばったね』って言っとけば、ほぼなんとかなるのよね」
「その通りでした! 勉強になりました!」と、頭を下げ、スクールカウンセラーから離れた。
悪夢を見なくなったことで、眠れるようになったので、少しふっくらした草太は、カウンセラーに深く感謝しながら、自分の教室に戻って行った。
◇◇◇
「だからー! 間違いだったから、戻してって言ってるの! わからない?」
天国の入場ゲートで、私は管理官に訴える。草太が私の話を聞いてくれたと思って満足してここに来たが、実は違ったのだ。だから戻ってもう一度話して聞かせたいのだ。
「草太のやつ、返事の仕方を人に聞いてごまかしてただけなのよ! そんなの許せる?! シェアしたポテトに勝手にケチャップかけるぐらい許せないことよ! 大事なのは、聞いたかどうかじゃないの! 私を大事に思ってたかどうかなのよ! 大事にするってのはね、猫かわいがりするってことよ! 一言一句聞き漏らすまいとする態度が大事なのよ! 猫は聞いてないけどね! チューしようとしても前足で拒否するけどね! でもそこがいいんだけどね! 猫は何してもかわいいからずるいわよね! あの肉球を見ただけでつらいことはみんな消えちゃう! えっ、だったら元カレのことも忘れろって言った? そこは別でしょ? レタスとキャベツくらい別でしょ? レタスでホイコーロー作れる? まあそれはそれでおいしそうだけど。おいしそうといえば、死ぬ前に動画で見た料理がね……ちょっと聞いてよ!」
”冗長で、コロコロ話題が変わってオチもないので、「それを話して、俺にどう言ってほしいの?」と混乱するような内容”というのは、私が夫に言われてることなので、主人公のセリフを書くのは簡単でした(笑)。
8月13日、[日間]コメディー〔文芸〕 で3位いただきました!
超うれしいです! ありがとうございます!(≧▽≦)




