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変わらない想いの先に  作者: ミルハ


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3/29

会いに行く理由

あの日以来、慧が彩心たちの教室に顔を出すことが増えていた。


そのたびに彩心は落ち着かなくなり、気づけば琴音の席へと足が向かう。

何でもないふりをして腰を下ろしても、胸の奥だけが忙しなく騒いでいた。


「ほら、また来たよ。」

琴音が小声で彩心の腕をつつく。


「…気のせいだってば。」

そう言いながらも、彩心の声はどこか上ずっている。


慧はいつものように穏やかな笑顔を浮かべ、まっすぐ健人の席へ向かった。


「なあ、慧」

健人がからかうように声を上げる。

「お前、最近よく俺んとこ来るよな。」


その言葉に、彩心は思わず息を呑んだ。


健人が茶化すように笑う。

「そんなに俺のことが好きなのか?」


「まあ、そうかもな。」

慧は軽く肩をすくめ、冗談めかして返した。


教室に笑い声が広がる。

誰もが気軽に受け止める中で——

彩心だけが、胸のざわめきを持て余していた。


(…今の、私に向けた言葉じゃないよね。)


ほんの一瞬、慧が自分を見て言ったんじゃないか、そんな期待がよぎる。


そのことに気づいた瞬間、彩心は慌てて視線を落とした。

期待してしまった自分が、急に恥ずかしくなる。


***


健人と談笑するふりをしながら、慧の視線はときどき教室の奥を探していた。


——小さく身をすくめるようにして、月城さんの隣に座る青山さん。


理由はうまく説明できない。

ただ、気づけば足が向いていて、気づけば、彼女の姿を探している。


——本当は、彼女に会うために足を運んでいる。

それを、誰にも打ち明けるつもりはなかった。

自分でも、まだ名前をつけられない気持ちだったから。


***


ある日のこと。

いつものように慧が教室に顔を出すと、健人が彩心をからかっていた。


「もう、ほんと篠原最低!ばか!」


頬を膨らませた彩心が、抗議するように健人の腕を軽く叩く。

健人はそれを楽しむように笑い声を上げた。

じゃれ合うような二人の距離に、慧の胸の奥が、ほんの少しだけ軋んだ。


(…なんだ、これ。)


理由はわからない。

ただ、目を逸らしたくなるような、ちくりとした感覚。


「青山さん、どうしたの?」

気づけば、慧は二人の間に声を投げていた。

「健人、お前、青山さんに何したんだよ。」


「いや、こいつがバカすぎてさ。」

健人はいつも通り、軽い調子で笑う。


「もう知らない!」

彩心はぷいと顔をそむけた。


その横顔を見た瞬間、慧の胸がきゅっと締めつけられた。


(怒ってるのに…)


唇を尖らせた仕草も、少し潤んだ目も、どうしようもなく目を引いてしまう。


「可愛い…」

考えるより先に、言葉が零れた。


「えっ…?」

彩心と健人が、同時に慧を見る。


「あ、ごめん…つい」

慧は慌てて笑ってごまかす。

「でも、青山さんって、怒ってても可愛いなって思って…」


彩心の頬が、みるみる赤く染まった。

「…そ、そんなことないよ。」

小さく答えて、視線を落とす。


「おいおい、そんなわけないだろ。」

健人が笑いながら割って入る。


「可愛いってより、恐ろしい、な?」

冗談めいた口調とは裏腹に、その目の奥には、いつもより冷たい色が滲んでいた。


「誰がそうさせてると思ってるの!」

彩心は顔を赤くして健人をきっと睨む。


その瞬間、チャイムが鳴り響く。


「…じゃあ。」

慧は名残惜しさを振り払うように言い、教室を後にした。


***


廊下に出てから、慧は小さく息を吐いた。

心臓が、やけに早い。


(やっぱり…)


健人に会うため、という理由は、もう言い訳に近かった。

本当は、彼女の顔を見たくて。

声を聞きたくて、ここへ来ている。


それが恋なのかどうかは、まだわからない。

ただ、この気持ちを、もう完全に隠すことはできなくなっていた。

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