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変わらない想いの先に  作者: ミルハ


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16/17

夏祭りの夜

期末試験が終わり、待ちに待った夏休み。


学校に通う日々とは違って、彩心も慧もそれぞれ部活や勉強で忙しく、会う時間はぐんと減った。

その代わりに、夜はメールや電話でやり取りをすることが日常になっていた。


***


ある日の部活後。

音楽室では、譜面台や楽器ケースが並び、夏の夕方の光が窓から差し込んでいた。

彩心と琴音はクラリネットを片付け終え、ゆっくりと音楽室の扉を開ける。


廊下に出ると、夕暮れの柔らかい光が長く伸び、二人を包み込んだ。

夏の空気が少しだけ涼しく、心地よく肌に触れる。


琴音がぱっと明るい笑顔で彩心に振り向く。

「ねぇ、今度夏祭りあるじゃん? 慧くん誘って行きなよ!」


目を輝かせる琴音の言葉に、彩心は思わず頬を赤くした。

「あ…いいかも。」


(でも、慧と二人っきりは、まだ緊張するな…)


彩心は上目遣いで琴音を見上げ、少し照れくさそうに声をひそめて言った。

「琴音も一緒に来てほしい。二人っきりは緊張するし…」


琴音は笑いながら、「え〜、私、邪魔じゃない?」と首を傾げる。


彩心は、小さく手を合わせてお願いする。

「お願いっ!」


琴音は「うーん…」と少し考えてから、

「じゃあさ、篠原も誘って四人で行くのはどうかな?」

と提案した。


彩心もつられてにっこり笑う。

「うん!楽しそう!」


「自分から言っておいてなんだけどさ…なんかダブルデートっぽくない?…ちょっと悔しいかも。」

琴音は少し不服そうに、膨れた顔で呟いた。


彩心は思わずぷっと吹き出す。

「…たしかに。」


二人は顔を見合わせて、自然に笑い合った。

夏の夕暮れの光が、二人の笑顔をそっと染めていた。


***


そして、迎えた夏祭り当日。

夕暮れの神社の参道は、提灯の明かりに柔らかく照らされていた。

浴衣姿の人々が行き交い、金魚すくいの水音や、たこ焼きの香ばしい香りが夏の空気に混ざる。


彩心は淡いピンクの浴衣、琴音は水色の浴衣をまとっていた。

帯や髪飾りも、お互いに選び合ったもの。

鏡の前で二人ではしゃいだ思い出に、彩心は頬を緩ませる。


(初めての慧との夏祭り。でも、琴音や篠原もいるから緊張感も和らぐ…)

そう思った瞬間、背後から声がした。


「おお、気合入ってんなぁ。まさか浴衣で来るとはな〜。」

健人がからかうように笑った。


「当たり前でしょ!彩心と慧くんにとって初めての夏祭りなんだから。茶々入れないの!」

琴音が即座に健人の頭を小突く。


「いってー!外見だけ女らしくしても、中身は乱暴なんだよな…」

健人は頭を擦りながら、苦笑交じりに呟いた。


「うっさい!」


二人の軽妙なやり取りに、彩心も慧も思わず吹き出す。


笑いながらも、慧はそっと彩心に身を寄せ、低く囁いた。

「…今日、すっごく綺麗だよ。」


「あ…ありがとう…」

耳まで真っ赤になった彩心は思わず俯く。


目を上げると、制服ではないラフなシャツ姿の慧が新鮮に映り、胸が高鳴った。


***


四人は屋台を回り始めた。


ヨーヨー釣りでは、彩心がなかなかうまく釣れず、悪戦苦闘。


「ここはこう持って…」

慧がそっと手を添えると、彩心の心臓はドキンと跳ねた。


しかし、結局ヨーヨーは水に落ちてしまい、思わず「きゃっ」と声を上げる。


「残念〜」と笑う健人の隣で、琴音が得意げに3つも釣り上げる。

「見て見て!やっぱり私、こういうの得意!」

その無邪気な姿に健人もつい見惚れてしまい、慌てて目を逸らした。


次に、それぞれかき氷を買う。


甘いものが大好きな彩心は、思わず微笑みながらスプーンを口に運ぶ。

しかし、うっかりシロップが唇から零れてしまった。


慧はそんな彩心を見て、微笑ましそうにしながら、すかさずハンカチで拭ってくれる。


彩心は恥ずかしそうに俯く。

そのやり取りを見て、琴音も健人も顔を赤らめ、恥ずかしくて見ていられない様子だった。


健人はそんな甘い空気を変えようと、かき氷を一気にかきこむ。

「かき氷は、ブルーハワイが一番だろ!」


しかし、一気に食べすぎたのか、すぐに頭を抑えて「頭いてぇ…」と呻く。


「ばかね」と琴音が笑いながら突っ込む。


「うるせー!」と健人が反論すると、琴音は思わず吹き出した。

「篠原、あんたの舌、真っ青になってるよ!」

琴音の指摘に健人は慌てて口元を抑え、顔を赤くする。


そのやり取りに、彩心も慧も思わず笑ってしまう。

笑い声が絶えず、四人の距離は自然と近づいていった。


***


花火が始まる少し前、人混みの中で立ち止まったとき、琴音が健人の耳元にそっと囁いた。

「ねぇ、ちょっと二人っきりにしてあげようよ。」


「はぁ?なんでだよ…」

健人は渋い顔をするが、彩心と慧の様子を見て、内心では二人を応援したい気持ちもあった。


結局、しぶしぶ頷く。

「…わかったよ。」


二人は自然と彩心と慧から距離を取り、人混みに紛れて歩き去った。


***


「え、琴音たちはどこ…?」

彩心は少し不安そうに辺りを見回す。


その様子を見て、慧は落ち着いた声で囁く。

「大丈夫。俺がいるだろ…」


そう言って、自然に彩心の手を取る。

温かく、大きな手に触れた瞬間、彩心の胸はドキリと跳ね、鼓動がぐっと早まった。


視界のざわめきや提灯の光も、二人だけの世界に溶けていくようだった。


***


少し離れた場所では、琴音と健人が口げんかをしていた。


「なんで俺が月城なんかと二人っきりにならなきゃいけねーんだよ。」

不満そうに眉を寄せ、腕を組む健人。


「私だって、好きで一緒にいるんじゃない!彩心と慧くんのためでしょ!」

ぷんっと頬を膨らませ、そっぽを向く琴音。

浴衣の帯が少し揺れる。


ふと、健人は、琴音の横顔を見た。

頬を膨らませ、浴衣姿で夏祭りの光に照らされたその姿に、思わず胸がぎゅっとなる。


(…月城って、こんなに可愛かったっけ?)


視線に気づいた琴音が一瞬ドキッとし、慌てて横を向く。

「何?」と怪訝そうに声をかけるが、頬のほんのり赤い色が隠しきれない。


「い、いや…なんでもねーよ。それより、ほら、花火始まるぞ!」

健人は慌てて視線を逸らし、両手をジーンズのポケットに突っ込む。


その瞬間、夜空に大輪の花火が咲き、琴音の瞳が光を映して輝く。


「わぁ、すごーい!」

思わず歓声を上げる琴音の横顔を見つめる健人は、初めて見るその輝きに心臓の高鳴りを抑えきれなかった。


夏の夜風が二人の間をすり抜け、琴音の浴衣の裾をそっと揺らす。

その空気の中で、健人は胸の奥がじんわりとあたたかくなるのを感じた。


***


一方、彩心と慧は人混みを抜け、少し静かな場所で並んで花火を見上げていた。


「…綺麗だね。」

彩心が呟く。

花火の光が頬をほんのり染め、横顔をさらに柔らかく、美しく見せていた。


慧は花火には目もくれず、彩心の横顔だけをそっと見つめる。

その横顔に心を奪われ、低く柔らかい声で囁いた。

「…うん。でも、俺は彩心の方が綺麗だと思う…」


彩心は顔が熱くなり、胸の鼓動が速くなる。

慧の視線を直視できず、俯いたまま小さく呟く。

「け、慧…花火も見てよ…」


「ごめん。つい…」

そう言いながら、慧はそっと彩心の両肩に手を置き、自分の方へ向かせる。


彩心は無意識に視線を外せず、慧の真剣な眼差しを捉えてしまう。

その瞬間、胸の奥で高鳴る心臓の音さえ、遠くで響く花火にかき消されていった。


自然に距離が縮まり、唇が触れる。

淡く、短いキス。


戸惑いと温かさが入り混じるその瞬間、彩心は思わず息を止め、手をそっと慧の腕に触れた。

その指先から伝わる温もりに、慧もかすかに力を抜き、二人の間に静かで柔らかな鼓動だけが残る。


世界の音は遠くなり、花火の光が二人の影を優しく揺らす中、初めての唇の感触が心に深く刻まれていった。


慧が少し息を弾ませながら、小さく囁く。

「…もう一度、いいかな?」


潤んだ目で彩心が「うん…」と頷くよりも早く、慧は再び唇を重ねる。

今度は先ほどより深く、長く。


遠くで響く花火の音さえ、二人にはもう届いていなかった。


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