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変わらない想いの先に  作者: ミルハ


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14/15

届き始めた想い

県営スタジアム。

都道府県予選の会場は、応援の声で熱気に包まれていた。


スタンドで彩心は琴音と並んで、ピッチを駆ける慧の姿を見つめる。

汗を光らせながらボールを追いかける姿に、胸が高鳴って止まらない。


「慧くん、めっちゃカッコいいね!ほら彩心、ちゃんと応援しなよ!」

琴音がにやにやしながら肘で突いてくる。


「ちょ、琴音…う、うん…本当にすごい…」

顔を赤らめ、視線は慧から離せなかった。


慧が相手をかわし、鋭いシュートでゴールを決める。

歓声が湧き上がる中、自然と彩心に目が向く。

スタンドで、緊張した顔を少し赤らめながら、拳をぎゅっと握って一生懸命見つめる彼女の姿が、慧の胸を締め付ける。


(彩心ちゃんに見てもらいたい…)

その思いが、胸の奥の熱をいっそう強くした。


慧に笑顔で手を振られ、胸がきゅっと跳ねる。

思わず彩心も、慌てて手を振り返した。


心臓はバクバクと暴れる。

(慧くんの笑顔…いつも心を温かくする。でも、こんな私なんかでいいのかな…)


ピッチ脇では、沙希が慧にタオルとドリンクを渡していた。

「慧、ナイスゴール!」と笑顔を見せる沙希。

 

慧は「ありがとう、姫野」と答えるが、その視線は自然とスタンドの彩心へ向かう。


沙希の笑顔が、一瞬だけ硬くなった。


(やっぱり…あの子が気になるんだ…)

胸に小さな痛みが走る。けれど表情には出さず、声だけを明るく保つ。


***


試合後。


歓声の余韻がまだ残るピッチ脇で、慧に声をかけようとした彩心の足が、ふと止まる。

すぐ傍に、沙希が立っていた。


汗を拭くタオルを慧に手渡しながら、沙希は柔らかく微笑む。

そして、彩心にだけ届くくらいの声で、そっと言った。

「慧の活躍、いつも私が支えてるんだけどね。」


軽い口調。

けれど、その言葉はどこか牽制を含んでいた。


——傍にいるのは、私。

その微笑みが、何よりも雄弁にそう語っていた。


彩心の胸がざわりと揺れる。


校庭でハイタッチを交わしていたマネージャー。

迷いのない立ち姿。

美人で、自信に満ちて見える彼女の存在は、あまりにも眩しい。


(…敵わない、かも。)

一瞬、そんな思いがよぎる。


けれど——

(それでも)


彩心は小さく息を吸い込む。

(何を言われても、私は…自分の気持ちに正直でいたい。)


逃げずに、沙希の目をまっすぐ見返す。

その真っ直ぐさに、沙希の瞳がわずかに揺れた。


自信に満ちた笑みの奥に、ほんの小さな焦りが滲む。

——この子、引かない。


沙希の瞳が複雑に揺れる。

夕陽が長く伸びる影をピッチに落としていた。


***


ふと、慧に呼ばれ、スタジアムのベンチに二人きりで座る。

応援の喧騒が遠ざかり、夕陽が静かに二人を染めていた。


少しだけ距離のある沈黙。

慧は何度か言葉を飲み込み、やっと口を開く。

「彩心ちゃん、今日は来てくれて本当にありがとう。応援してくれて、すごく励みになったよ。」


「ううん。私こそ、誘ってくれてありがとう。慧くん、本当にかっこよかったよ…」

彩心は顔を赤くして言葉を詰まらせる。


沈黙。


慧の胸の奥で、抑えていた感情が一気にせり上がる。

——今、言わなきゃ。

夕陽に目を細め、拳をぎゅっと握る。


「彩心ちゃん…」

その声は、少し震えていた。


「俺、君に出会ってから…人生が変わったんだ。こんなに誰かを想ったのは、初めてで…」


一度、深く息を吸う。

逃げ道は作らない。


「君のことが好きだ。…俺の傍に、いてほしい。」


一瞬、世界が静止したように感じた。

彩心の心臓が、耳の奥で大きく鳴る。


(…夢じゃないよね?)


慧のまっすぐな瞳から、目を逸らせない。

逃げない。


「私も…慧くんに、人を想う気持ちを教えてもらえたの。」

喉が震える。

「私も…慧くんが、好き。」


慧は一瞬、息を呑む。

そして、信じられないというように彩心を見つめる。


驚いたように、けれどすぐに嬉しさが溢れた顔で。

「…本当?」

その声は、さっきまでの真剣さとは違う、どこか不安を含んだ響きだった。


彩心は恥ずかしそうに視線を落とし、小さく頷く。

「うん…」

掠れるような声。

けれど、確かな想い。


その瞬間、慧の表情がふっとほどける。

「彩心ちゃん…」


一歩、距離を詰める。

「抱きしめても、いい?」


彩心の心臓が大きく跳ねる。

顔は真っ赤のまま。


けれど、逃げなかった。

こくん、と小さく頷く。


次の瞬間、慧は彩心を力強く、けれど大切に抱きしめた。


胸に伝わる鼓動。

肩越しに感じる体温。

彩心は驚きながらも、その腕の中でそっと目を閉じる。


(あったかい…)


ドキドキしているのに、不思議と安心する。

今まで味わったことのない幸福感が、胸いっぱいに広がっていく。


遠くのピッチから響くボールの音が、二人の鼓動と重なり合う。

世界は騒がしいはずなのに、この瞬間だけは、二人だけの静かな時間だった。


そのとき。

スタンドから忘れ物を取りに来た健人が、足を止めた。

「…ほぉ。やってんな。」


その声に、彩心ははっとして顔を真っ赤にする。

慌てて慧の胸から体を離し、俯いたまま固まった。


慧は一瞬驚きつつも、どこか照れくさそうに頭を掻く。


健人はそんな二人を見て、苦笑した。


「安心したわ…慧ならお前のことちゃんと守ってくれる。」

少し間を置いて。

「…良かったな。」

その声には、からかいよりも温かい祝福が込められていた。


彩心は胸の奥がじんわりと熱くなり、思わず「ありがとう」と小さく呟いた。


胸の奥に、小さな自信が芽生える。

(慧くんとなら…これからも一緒に歩いていける。)


***


スタジアムを出た彩心に、琴音がにやにやしながら肘で軽くつつく。

「ねぇねぇ、二人でベンチで何してたの?」


彩心は思わず俯き、頬を赤く染めて小さく息をつく。

「や、やめてよ…琴音。」


でも、胸の奥に湧き上がる幸福感に押され、勇気を振り絞って小さな声で告げた。

「慧くんに、告白された…」


その言葉を聞いた琴音は、思わず叫び声をあげ、彩心にぎゅっと抱きつく。

「…本当?きゃーー!!」


胸いっぱいに嬉しさが溢れ、琴音は涙ぐみながら囁く。

「良かったね…彩心。」


その涙声につられ、彩心も目元をうるませ、声を震わせながら返す。

「ありがとう…琴音。」


二人はしばらく、照れくささと喜びが入り混じったまま、互いの肩に寄り添った。

琴音の腕の温もりに、彩心は改めて友情のありがたさを感じる。


——こうして喜びを一緒に分かち合える存在が傍にいることも、今の自分には大切な宝物だと。


夏の夕日がスタジアムを赤く染め、長く伸びる影が二人の足元に揺れる。

遠くのピッチでは、慧と健人が互いに笑い合い、その笑顔が夕日に温かく照らされて輝いていた。


彩心は胸に小さな幸福を抱え、そっと深呼吸をする。

心の中でそっと誓った——

今日という一日が、これからの自分の背中を押す、忘れられない大切な瞬間になることを。

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