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変わらない想いの先に  作者: ミルハ


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12/14

大切だから、恋じゃない 

放課後、部活を終えた帰り道。

夕陽がグラウンドに長い影を落とす中、慧は思い切って健人に声をかけた。

「なぁ、お前、最近彩心ちゃんと話してないんだってな。」


健人は視線を地面に落とし、答えづらそうに「ああ…」とだけ返す。

足元の砂利を軽く踏む音が、沈黙の中でやけに大きく響いた。


慧は少し間を置き、でも熱を帯びた声で続ける。

「なんでだ?彩心ちゃん、寂しそうにしてたぞ。正々堂々と勝負だなって言ったのはお前じゃないか。勝手に身を引くのは無しだぞ。」


健人は小さく息を吐き、肩をわずかに落とす。

夕陽に照らされた横顔は、少しだけ影が強くなり、瞳が揺れているのが見えた。


しばらくの沈黙。

遠くでボールが弾む音や、部室から帰る足音が聞こえる。

健人がようやく口を開く。


「…自分でもよくわからないんだ。」

声に少しだけ震えが混じる。

「彩心のことは大切だ。守りたいって思う。でもさ、お前と一緒にいる彩心を見ると…お前に幸せにしてもらえたらいいなって、そう思うんだ。」


その告白に、慧は胸がぎゅっと締めつけられるのを感じた。

目頭が熱くなる。

息を整えるために、思わず視線を逸らす。

言葉にしようとしたけれど、何も言えなかった。


健人は深く息を吸い、夕陽に目を細める。

「でも、お前に言われて気づいたよ。俺、ちゃんと彩心と向き合わないといけないって。」


慧は言葉にせず、大きく頷いた。


「明日、彩心に自分の気持ちを伝える。自分の気持ちを確かめるためにも…」

健人の拳がぎゅっと握られる。

夕陽に透ける手の影が、静かに震えていた。


慧はその背を見つめ、親友の覚悟をしっかりと受け止めた。

彩心を幸せにしたいと思う反面、健人を傷つけたくないという複雑な想いが交差していた。


***


翌日、部活の前。

健人に呼び出された彩心は、久しぶりの声に少し戸惑いながら、グラウンド脇の砂利の敷かれた通路を歩いた。

足元で砂利が踏まれるたび、ザクザクと音を立てる。

その音が、緊張で高鳴る胸の奥に小さく響いた。


「ど、どうしたの…?」

彩心の声は風に少し震え、手のひらがじんわりと熱を帯びる。

膝の裏もわずかにこわばった。


その原因は、目の前で真剣な表情を向ける健人だった。

圧のある視線に、思わず身を縮めてしまう。


健人はポケットに手を突っ込み、一瞬空を見上げてから、ゆっくりと言った。

「俺…お前のことが好きだ。」


一瞬、風が止まったかのように静かになった。

彩心は驚きで息を呑んだ。


日差しが彼女の瞳に揺れ、光がその驚きをそっと包む。

胸の奥がぎゅっと締めつけられ、心臓が耳の奥でどくどくと響いた。


しかし、健人は、地面を見つめながら言葉を続ける。

「でもな…今こうして言ってみて気づいた。俺の“好き”は…恋愛感情じゃない。」


「え…」

彩心の表情が揺れる。

恋愛感情じゃないと告げられたはずなのに、不思議と胸の奥にはどこかほっとする温かさが広がった。


「お前が倒れたときに思ったんだ。大切な存在だから、守りたいって。」

言葉を探すように、健人は短く息をついた。

「…でも、それは、妹を想うような気持ちに近いんだ。」


健人は真っ直ぐ彩心を見つめ、目元まで柔らかな笑みが揺れた。

陽の光がその笑顔を照らす。


胸の奥がじんわりと温かくなる。

その瞬間、彩心の目に涙が溢れた。


「なによ…散々私のこと避けてたくせに…今さらそんなこと言うなんて…ずるいよ。」

声を震わせながら、彼女は両手で顔を覆った。


息を吸うたびに胸が少しずつ軽くなり、心の中で小さな波紋が広がるのを感じる。

避けられていた間の寂しさが、少しずつ溶けていく。


「篠原の気持ち、ちゃんと届いた。ありがとう。」

彩心は涙を拭い、微笑む。

笑顔はまだ少し震えていたが、心の奥に安堵が忍び込んでいた。


そして、少しだけ冗談めかして言う。

「でも、一つだけ。…何が“妹”よ!そっちの方が弟っぽいでしょ?」


「…は?どう考えても、お前の方がガキだろ?」

健人も笑い返す。

砂利を踏む音に混じる二人の笑い声は、久しぶりに軽やかで、心地よく通路に響いた。


(やっぱり…篠原とこうして笑いあえるの、嬉しいな。)

彩心の胸が小さく跳ねる。

嬉しさと安堵で、胸の奥がふわりと温かい。


健人は笑顔で言った。

「彩心、お前、幸せになれよ。」


その言葉に、彩心の胸の奥がじんわりと熱くなる。

(幸せ…私にとっての幸せって、誰といることなんだろう。)


健人の背中を見送りながら、心の中に浮かんだのは——

あの人の穏やかな笑顔だった。


***


彩心に想いを伝えたその日の部活終わり。

夕陽がやわらかく差し込むグラウンドは、いつもより少し赤みを帯び、長い影を落としていた。


慧は健人の横顔をじっと見つめる。

その口元に力が入るのを、わずかに呼吸が詰まるのを、言葉にする覚悟を測るように見守った。

沈黙の中で漂う熱気と静けさが、二人の間に微かな緊張を作り出していた。


健人は慧に告げた。

「…俺、彩心に想いを伝えた。後悔はない。」


吹っ切れたような笑顔が混ざるその表情は、肩の力がすっと抜け、心が軽くなった清々しさを帯びていた。


「そっか…お前がそう言えるなら、俺も安心したよ。」

慧は健人の顔を見て、小さな安堵が胸の奥で広がるのを感じた。


健人は少し間を置き、真剣な眼差しを慧に向ける。

「…次は、お前の番だな。」


その言葉に、慧は言葉を失い、思わず夕焼けの光に目を逸らす。

胸の奥がざわつき、小さな覚悟がうずくのを感じた。


健人は続ける。

「お前は知らないかもしれないけど、あいつ、けっこう人気あるんだ。俺のクラスでも、気になってる奴けっこういる。」


「…そうなんだ。彩心ちゃん、可愛いからな…」

慧はわずかに眉を寄せ、戸惑いを隠せない。

胸の奥で小さな焦りが跳ね、知らず拳がぎゅっと握られた。


健人は軽く息をつき、視線を真っ直ぐ慧に戻す。

「ぼやぼやしてると、他の誰かに連れていかれるかもしれないぞ。」


慧は言葉を失い、思わず足に力を込める。

砂の感触が少し沈むのを感じ、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


健人は視線を落としつつ、少し照れくさそうに笑みを浮かべて告げる。

「あいつは、俺にとっても大事な奴なんだ…放っておけないんだよ、昔から。」


笑みをそっと引き、視線を真っ直ぐ慧に向ける。

声には、確かな熱が込められていた。

「だから、お前が幸せにしてやってくれ。」


その言葉に、慧の胸に小さな火が灯った。

迷いはもう許されない

——そう静かに悟った。


夕陽に照らされる二人の影が、長く伸びてグラウンドの上に揺れる。

慧は深く息を吸い込み、自分の決意を確かめるように立ちすくんだ。

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