異世界トリップくん
この短編集のメイン主人公くんです
数学の小テスト。
前日にスマホをいじりすぎて眠気が限界をむかえた俺はうつらうつらとしていて、ガクッと一瞬意識と首が落ちた。
次の瞬間、俺が感じたのはジェットコースターにも似た浮遊感と強風。
眠気で微睡んでいた意識が急激に覚醒する。俺はなぜか空中に投げ出されて落下していた。
「――――ッ!」
悲鳴すら喉奥に閉じ込められて絶命を覚悟する。
肌の空気感や命の危機の恐怖がこれは夢ではないと言っていた。
ごうごうという強風の音。バタバタとはためく学生服の感覚を感じながら恐怖で脳が凍りついたように思考が停止していた俺は、その身体に受ける風が和らいでいくことに気がつくのにしばしの時間がかかった。
見えないパラシュートでも付いたように、ハンカチみたいにふわりふわり、と地上に墜落した俺は、落下酔いとでもいうのか、くらくらと目眩がして立ち上がれずに草原の中倒れ伏していた。
「螟ァ荳亥、ォ縺!?」
金髪緑眼の、よく鍛えられた外国人のような風貌の見慣れない衣服を着た男が話しかけてくる。
「諤ェ謌代?縺ェ縺?°?」
男は少し首を傾げたあと、手に持っている身長よりも少し短いねじくれた金属製の棒を軽く何度か振るともう一度口を開いた。
「大丈夫か? これで言葉は通じているか?」
「あ、ああ、はい。言葉は通じてます……」
眼前の非日常に、しかし夢ではないという嫌な確信だけが妙に確かで心臓がバクバクと脈を打ち、脳が痛んで冷や汗が出る。
「具合が悪そうだ。水を飲むか? それともお前が良ければ精神安定の魔法を使おうか」
「ま、ほう……」
思わず反復したそれを肯定と取ったのか、男はぐるりと棒の頭を回して見せた。
すると心拍や呼吸が落ち着き、冷や汗が引いていく。
寝起きのすっきりした頭のような爽快感で、今までのパニックはするりとどこかへ逃げていってしまったようだった。
「ああ、落ち着いたようだな。よかった。事情は話せるか? 俺が先に話したほうがいい?」
「えっ、と、まだ、俺混乱してて、俺は学校で授業を受けていたはずなんですけど、ここ、日本、じゃないですよね」
一歩間違えばどころかの死ぬところだった命綱なしのバンジーに、急激に心が落ち着いた魔法とやら。さすがにこれで『テレビ番組かYouTubeのドッキリですよね?』とは言えない。
「俺の名前はイズェラ。知識を本分とする魔法使いだ。君は多分、太樹世界からの魂持ちだと思うんだが、いや、もしかして身体ごとやってきたのか? 世界の壁を越えて?」
「俺は叶祐希です。えっと、すみません聞いても意味がわからなくて……」
俺の戸惑いに、んー、とイズェラと名乗った男は悩むように片目を瞑り、「座って話そうか」と片膝を立て俺の向かいに座り込んだ。
「まず、この不観測時空には様々な世界がある」
「その世界にも沢山の種類があって、ここは泡沫世界って区分の世界なんだ」
「多分君のいた世界とは違う世界だと思う」
「言葉も通じなかったしな」
「おそらく君は太樹世界からやって来た」
「太樹世界の人間や物語は魂の強度が強いんだ、だから泡沫世界の世界の壁を突き破っても無傷で存在が維持できる」
「まあ、肉体ごと世界の壁を破ってきたなんて話は俺も聞いたことがないけど……」
「とにかく! 君は異世界からやって来た、そして、今現在この世界では他の異世界にこちらから干渉できる技術はない」
「君がこの世界で生きるつもりがあるなら乗りかかった船だし、独り立ちできるまで面倒を見るのもまあこの世界の住人として当然の義務として受け入れるが、元の世界に帰りたいのならかなりの苦難を覚悟したほうがいい」
授業中うたた寝してたら異世界トリップしていた件。
うたた寝の罰が重すぎる神よ。
イズェラの説明を聞いて、なんとか飲み下してみたものの、一般高校生には異世界生活も元の世界に戻る苦難が多いという冒険も荷が重い。
こちとら、ラノベや漫画を読み漁ってるだけの体育会系でも異世界チート知識持ち博識でもない一般オタクだ。
黙りこくって悩んでいる俺に、イズェラは
「まあ、すぐに結論を出さなくてもいいだろ。暫くは俺と旅でもするか?」
気さくに笑って背中を叩くイズェラに、第一遭遇者がイズェラだったのは大幸運だったっぽいな……と少し気持ちを持ちなおす。
とりあえずは近くの町まで行ってみるかと言うイズェラに、
「あの! 落ちてきた俺を助けてくれたのってイズェラさんですよね。ありがとうございました!」
大したことじゃない、と笑うイズェラの笑顔は眩しくて、俺はもう彼を大分好きになっていた。
イズェラはわりとイケメン
彫りが深い彫刻的なイケメン
祐希くんはわりとフツメン




