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邪魔者は私でした

珍しく全然悪くないタイプの主人公ちゃんです。

冷遇子を助けるために子育てするけど旦那様には興味はありません!ってヒロイン途中から絶対旦那様にメロメロになってるの景品表示法詐欺じゃんと思ってます

 家柄はそこそこいいけど貧乏貴族として宮廷で女官として働くフェニ伯爵家の次女であるライニー・フェニこと私は、あと数年後には王位を譲られるだろうと噂の王太子殿下の側近であるマクベ侯爵家の次男が若くして亡くなった兄の実子を引き取り中継ぎの当主として立つことを噂で聞いて、くらりと目眩がして前世の情報を思い出した。


 前世の記憶はおぼろげだ。

 インフルだかひどい風邪だかで高熱にうなされて喉が痛んで鼻水が溢れて苦しかったことだけを覚えている。

 今の世も、そんな高熱にうなされてる夢かもしれないとは思わないけれど。


 マクベ侯爵家の周りのことは前世の宮廷ファンタジーラノベで読んだ覚えがある。

 主人公のライバル役で悪役の兼役でもあるマクベ侯爵家の正統後継者のフェルン・マクベは、叔父であり義理の父親でもあるシオン・マクベが仕事で忙しく家庭人としては不器用だったためにさみしい幼少期を過ごし、愛情表現が下手な男に育つのだ。

 そうしてヒロインであるリーゼ公爵令嬢にそれはもう出来の悪いアタックの仕方をして嫌われ、主人公であるアンドレ侯爵令息には友人になりそこね、ライバルという立ち位置だけどとにかく不器用で顔が良くて仕事も優秀だけど対人が残念な男として敗北して読者に惜しまれ退場するのだ。


 前世の私はフェルンが推しだった。

 理由はよく覚えてないけれど、不器用なさまとか愛情不足な様子とかをもっと私が愛してあげられたらいいのにと思うくらいにメロメロだった。


 そこでピン、とくる。

 今、マクベ侯爵家にメイドとして転職したらフェルンを親の愛に飢えた子供ではなくできるのでは?

 善は急げ、拙速は巧遅に勝る。私は早速行動を開始した。



 結果として、私は無事にマクベ侯爵家への転職が決まった。

 コツコツ真面目にやってきたからか、紹介状は無事に書いてもらえて、幼い赤子のフェルン様の世話係として雇ってもえた。

 フェルン様の世話係は私と乳母を除いて四人。

 しかし、ラノベでは乳母を除いた世話係は若くして代理侯爵となったシオン様に色目を使うのに夢中になり仕事がおざなりになりそれが問題となり馘首になる。

 それを繰り返して、幼いフェルン様は誰かに懐いたとしてもすぐにその人は居なくなる、ということを繰り返して人との関わり方が分からなくなるのだ。


 その点、私は恋愛不感とまではいかないがシオン様に興味はない。遠目で見て格好いい顔だなーと思ったことはあれど、一番は幼く可愛いフェルン様だ。

 他のみんなの分まで頑張って真面目に働いて、フェルン様を真っ当な愛情表現ができる男に育てるんだ!

 決意も新たにふくふくとした赤ちゃんの前でガッツポーズをした。



 五年の月日が経ち、フェルン坊っちゃんも六歳である。

 乳母やは他の家に雇われて円満退職してしまったし、当時の世話係は全員ご当主様であるシオン様に色目を使って馘首。

 マクベ侯爵家の使用人は皆忙しく、フェルン坊っちゃんの情操教育はこの私の一手にほぼ委ねられている。

 覚悟していたことだがなんだかんだ重い。

 住み込みで働きながら、絵本を読んだり子守唄で寝かしつけをしたり、イタズラをしたら叱ったりと大変ながらも楽しい日々だ。


 マクベ侯爵家の正統後継者であるフェルン坊っちゃんの世話係が私一人なのは問題なので、代わる代わる世話係は雇われてくるのだが、採用者の見る目がないのかそれだけシオン様が魅力的なのか(後者だと思われる)、誰も彼もが即馘首になる。

 おかげでフェルン坊っちゃんは私にべったりだ。

 いや、嬉しいことだけれども。

 そろそろ、同年代のご友人の采配も執事長にお願いしないとな。

 そんなことを考えながらフェルン坊っちゃんとボール遊びをしていた。



「うっ、ぐす……」

 ご当主様に呼び出されてからフェルン坊っちゃんはずっと泣いている。

 八歳の坊っちゃんはもう泣き虫というわけではなく、なのに執事に連れられてきたフェルン坊っちゃんは顔を真っ赤にして大泣きしていて、引き攣れたように息もできないほどだった。

 ゆっくりお水を飲ませて、抱きしめて背中をさする。

 ひくひくとしゃくりあげながら泣き止まずにいる姿に痛ましさが募る。

 まったくご当主様は何を告げたんだか。


「ライニー……」

「はい、ここに居りますよ、坊っちゃん」

「ライニーはずっと僕の傍にいるよね」

「もちろんです」

 岩にかじりついてでもこの仕事を辞めるつもりはない。

 今やフェルン坊っちゃんは紙の中の推しではなく大切な坊っちゃんだった。


「お義父様が結婚するっていうんだ」

「まあ……」

 思い出した。ラノベでもシオンは仕事と育児が落ち着いた頃にかねてからの恋人と結婚するのだ。

 ラノベのフェルンはその頃既に愛に飢えてまともな、というか大人しい対人関係を作れなくなっていたから、継母に試し行動を繰り返して病んだ継母は領地で療養し、そこで養父との溝が一気に広がり更に対人に不器用になるという地獄展開だった。


 今のフェルン坊っちゃんなら新しい母とも上手くやれると思うけれど。

 別に作中で継母はいわゆるシンデレラや白雪姫の継母みたいな意地悪婆さんみたいな人ではなく、ただ母になるにはまだまだ経験不足だっただけみたいな描写だったのだし。

「お母さんになるならライニーがいい」

「え゛」

 フェルン坊っちゃんがとんでもないことを言い出した。

 確かに私はフェルン坊っちゃんの母親の如くに愛情を注いできたつもりだけど、それはフェルン坊っちゃんにであって、血縁ではない私がフェルン坊っちゃんの母になるということはシオン様と結婚するということだ。

 シオン様となんて勤め始めてここ七年で年二くらいでしか話したこともない。

 内容も「フェルンはどうしている」「坊っちゃんはこれこれこうして過ごしております」「よくやってくれている。励めよ」みたいな仕事の話しかしていない。


「新しいお母様がいらっしゃっても、ライニーは坊っちゃんのお傍に居りますよ」

「やだ! 女の人は男を独り占めしたがるって聞いたもん! ライニー追い出されちゃう!」

「メイド達も使用人達もライニーとお義父様がお似合いだって言ってた!」

 なんって噂が流れてるんだ。

 お似合いも何もまともに話したこともない。

 何をもってお似合いだなんて噂をしているんだ。


 結局。結局シオン様と恋人様の結婚はお流れになった。

 フェルン坊っちゃんの強硬な反対にあったからだ。ご当主様は仕事が忙しくて時間が取れないだけでフェルン坊っちゃんを大切にしている。

 そしてもちろん、私との結婚なんて話は持ち上がってきていない。

 しかし、噂が本当ならシオン様にはそれなりに疎まれているだろうと思う。

 きっとシオン様と恋人の方の結婚の不成立の原因の何割かは、私が原因だろうから。フェルン坊っちゃんの反対も含めて。



 フェルン坊っちゃん。フェルン様は十八歳でマクベ侯爵家を継ぐことになった。

 シオン様はフェルン様に丁寧に家の仕事を引き継いだあと、今は王になられたかつての王太子殿下から頂いた男爵位を戴いてかつて結ばれなかった恋人とようやく籍を入れたらしい。

 この時代この国において、生き遅れというにも薹が立ちすぎな彼女は、それでもシオン様を一途に待ち続けていたらしい。

 彼らの結婚は、その生来の身分にかかわらずひっそりと行われた。


 あの日、フェルン坊っちゃんの世話係になろうと決意して今の今まで傍にいたことを間違いだとは思わない。

 私は何度繰り返してもマクベ侯爵家の門を叩くだろうとそう決意している。

 でも、今をもってしてもシオン様の結婚を祝えないフェルン様をみていると、私の振る舞いはどこかで間違っていたのではないかという気持ちがぬぐえない。


 あくまで職場の使用人と主人として接してきたつもりの私とシオン様。

 退屈な日常にスパイスとして無責任な噂を流した使用人。

 世話係と坊っちゃんとしては深く関わりすぎた私とフェルン様。

 きっと明確な悪なんてなかったはずなのに、一組の男女を不幸にした罪が、私にはこびりついている。

 



 

 

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