第4篇 奇妙な同僚たち
『大丈夫? 落ち着いたかしら?』
コトリ、と机にお茶が置かれる。
心配そうに私の顔を覗き込んでいるのは、どこからどう見ても、正真正銘の市松人形だ。
その口……の位置から声が出ているように感じるが、マイクやスピーカーのような物は見当たらない。
『えっと……あ、はい』
市松人形が動いてしゃべり、三毛猫がダンディな声でボヤく。
……何これ?
本当に何これ?
渡されたお茶に口を付ける。
しっかりと温かい。
……あっ、美味しい。
『もしかして、田丸さんあなた、何も聞かされてないの?』
はっとした表情になると、「あらまあ大変」と小さな手で口元を覆った。
『はい。辞令に書かれた場所に来ただけでして……』
....不思議だなぁ。
混乱も行き過ぎると、逆に落ち着いてくるんだなぁ。
それに、このお二人?とも、悪い方たちではなさそうな気がする。
心配してくれてるみたいだし。
『おいおい、俺はてっきり事情を知ってる肝の座ったお嬢ちゃんだと思ってたぜ?』
席に戻りバリバリと行っていた爪研ぎの手を止めて、毛利さんと呼ばれた猫がぐるりとこちらを見た。
『はぁ……。人事の連中の、こういう雑なやり方って本当に許せないわ』
なんでこういうことをするのかしら、と市松人形が、小さな拳を握りしめてプルプル震えている。
その時だった。
それまでマネキンのように沈黙を貫いていた、向かいの席から声がした。
『彼らも、我々のような得体の知れないものとは、なるべく関わりたくはないんだろうさ』
あの生気の無い男の姿からは似つかわしくない、硬質で、冷たく、どこか皮肉めいた雰囲気を含んだ声。
日誌に書き込みを続けるまま、パペットだけがこちらを向いている。
『でも田丸さんは「人間」の新入職員なのよ? そんな子に何も教えないなんて信じられない!』
市松人形がパペットの言葉を遮るように、憤懣やるかたないといった風情でぷりぷりと怒りを表明していると。
『松子さんよぉ、こりゃあ自己紹介がてら、説明でもしてやらにゃあいかんぞ』
このままでは埒が明かないと悟ったのか、毛利と呼ばれた三毛猫がようやく、私の混乱を多少は和らげてくれるかもしれない提案をしてくれたのだった。