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  作者: 吸坂路庵
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其の三

最初の犠牲者が出たのは翌朝だった。


東の回廊で、宰相補佐を務めるヴァレム卿の死体が発見された。ベッドの傍らで横たわっていたが、首がなかった。遺体は乱れておらず、衣服の皺すらない。まるで、彼が自ら静かに横になり、首だけを“置いてきた”かのように。


続いて二人目の犠牲者、東方交易連盟の代表者であったマダム・シューネが、暖炉の前の肘掛け椅子に座ったまま発見される。燃えさしの灰がぴくりとも動かず、彼女の手にはまだ読書中だったはずの詩集が開かれていた。ただ、そこにあるべき首だけが、忽然と消えていた。


三人目の死は、夜半過ぎに悲鳴で知らされた。若き錬金術師の弟子フェイが、館内の中央階段で突如崩れ落ちたのだ。他の客人たちが駆け寄ったとき、彼の身体はまだ温かかった。しかし、頭部はどこにもなかった。首の断面も、血の跡も見当たらない。泣き叫ぶ声が、階段の石壁に幾重にも反響した。


三人の死は、いずれも不可解で、そして“静謐”であった。


残された者たちの間に、沈黙が広がった。誰もが視線を合わせることを避け、話題は空虚な礼儀にすり替えられていった。


晩餐の席で、オーリンは公爵に問いかけた。


「貴殿の首は、どこにある?」


「私はそれを、探しているのです。もう百年も」


その言葉は、誰かの声に似ていた。ぞっとするほどに。

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