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  作者: 吸坂路庵
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其の二

オーリンが最初に違和感を覚えたのは、客間で手を洗ったときだった。水差しと洗面器は用意されていたが、鏡がない。


「……化粧室にも、姿見がない」


そう気づいてから意識して見回すと、廊下にも、階段の踊り場にも、装飾としての鏡はどこにも存在していなかった。反射という概念すら、この館には排除されているかのようだった。廊下、客間、化粧室――反射という概念すら存在しないような設計。


客人は十名。皆、どこか影のある顔をしていた。誰もが誰かを恐れ、誰もが何かを隠している。中でも異様だったのは、主人であるグラセロ公爵の“身体”だ。


彼は確かにそこにいた。身の丈二メルトルを超える身体に貴族の礼服。声も発する。


だが、首がなかった。


「ようこそ、セラスト殿。晩餐の席は整っております」


それでも、なぜかその声には“顔”が思い浮かぶような明瞭さがあった。誰かに似ている気がする。だが、それが誰なのかは思い出せない。


宴は始まった。料理は熱々で、酒は冷えていた。誰も手をつけない中、公爵だけが律儀にナプキンを広げ、ナイフとフォークを使い、ワインを――首のない喉に――注ぎ込んだ。


オーリンはその様を、淡々と観察していた。

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