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其の一
発見されたのは、首を欠いた死体ばかりだった。切断の跡もなければ、血も流れていない。
あたかも――最初から“首などなかった”ように。
王都ザル=フィエルでは、秋の終わりとともに不吉な噂が広まりつつあった。街の広場、図書館の地下、礼拝堂の階段裏。どこで発見されるものも、首がない。
そんな中、一通の封書が禁術師ギルドに届いた。差出人は、百年前に断頭台で処刑されたはずの吸血貴族、グラセロ公爵。
『貴殿の才を、我が晩餐会にて拝したく候』
文面は丁寧で、書体も当時のものと一致する。だが何より不可解なのは――公爵が、今も“生きている”という点だった。
若き魔法探偵オーリン・セラストは、ギルドから密命を受け、この不可思議な事件の真相を探るべく、公爵の城へと足を運ぶこととなった。
古びた馬車で揺られること五日。霧の中にそびえる城の門が、軋んだ音とともに開かれる。
彼はまだ知らなかった。そこに広がるのが、首なき者たちの宴であることを。