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【悲報】俺のスキル『ネット掲示板』だけど大丈夫そ? -0から始める異世界通信 -  作者: 上井
【悲報】美少女助けるテンプレ展開、ただし所持スキルはゴミとする
8/19

8スレ目

「いやぁ――()っちゃったなあ――」


 ある一台の、アーバットが今乗っている馬車と、同じロゴマークの入った馬車の中。

 ぐんぐんと飛ばす馬車の中、一人の少女が毛布にくるまっていた。

 彼女は……アルパー・ロードと瓜二つな顔でありながら、その銀髪は肩あたりで切り揃えられていて、姉よりも髪は内巻きになっている。

 そしてなんだかふわっとした覇気のない顔で大きなあくびをした。

 これが絶賛連れ去られ中の、ダウナー・ロードその人である。

 少女はそのまま毛布の中――ぐでえ、と椅子に突っ伏した。


「ねえー、デルタぁ。ぼくのことほんとに攫っちゃっていーの?」


 そのまま、伸びをして馬車の壁にもたれかかりながら、御者台の方に向かって声をあげる。御者台からは、返事をする女の声が聞こえる。


「本当にいいのぉ……きみ、相当怒られるでしょぉ~」

「――――。――」

「いやあ。だってあのアルパー・ロード(あねき)だよ~? おこらせたら怖いよぉ?」

「――――! ――……」


 そのまま御者台からは声が聞こえなくなり、ダウナーはふわあー、と大きく溜息をついてから、毛布にずぶずぶと沈む。


「……なんでこんなことしてるんだろうなあ――」


 と、そう言った瞬間に馬車がゆるゆると止まっていき、完全に馬車が停車したかと思えば、御者台から女がつかつかと歩いていてがばっと馬車の扉を開けた。


「んわあっ……な、なんだよおデルタ」


 女はその問いには答えずに、左手を軽く振って、ぼくを促す。


「お~……? やっぱりビビったのお~……今なら帰ってもまだぎりぎり許されると思うけどお~」


 ダウナーは言いながら馬車から身を乗り出すが、すぐに違う、と気付いた。

 街門がすぐ前に見えている。……検門だ。


「――――、――――」

「わかってるよお……」


 女御者(デルタ)がダウナーに何事かをささやく。ダウナーははあ、とため息をつくと、そのままよっ、と腰を器用に動かし、馬車から身を乗り出した。


 女が馬車から離れ、脇の詰所に向かい、しばらく中の衛兵たちと何かを話していたが、一人の門番が駆けて来て、(デルタ)と共に馬車に戻ってくる。 


「――やっはろ~……」

「お疲れ様です! 脚がお悪いとのことで、不肖わたくしが車外から『ステータス』を確認させていただきます」

「いいよお~……」


 ダウナーは、馬車の中を覗く門番に向かって、ほいっ、と右手の指2本を揃えて振った。



【DOWNER ROAD】age.15

 職業:商人


●スキル

 ・手芸工作 Lv.1


●魔法

 ・無し



 見慣れた名前の下に、見慣れたしょぼいスキル欄、見慣れた空欄の魔法欄に、心の中でため息をつく。――と。

 その視界の右端に、何か見知らぬ文字が引っかかった。

 ――『異世界、通信』?

 ぼくがそっちに気を取られている間に、衛兵がぼくの名前を不思議そうに読む。


「ROAD……ロード商会の?」

「――――。――」

「あ、いえ! 失礼いたしました!」


 衛兵はそれよりも、ぼくの家名に引っかかったみたいだったけれど、デルタが問題ないだろう、自分の仕事をしろ、というようなことを言うとすぐに姿勢を正す。


「ありがとうございました! ダウナー・ロード様、入門の確認ができましたので、どうぞ」

「あ、うん……」


 門番の青年の声に、現実に引き戻されたダウナーは、慌てて再度ステータスを振って、消す。

 さっきの見慣れない文字列には、門番は気付かなかったようで、そのまま詰所に戻っていき、でかい門がごごご、と開いた。

 それを見届けた(デルタ)は御者台に戻り、馬に鞭をうち、街中に走り出す。


 再び揺れ出した車内で、ダウナーはこっそりステータスボードを再表示する。

 ふぉん、という音と共に立ち上がった画面には、やはり右端に『異世界通信』という見慣れない領域がある。

 ダウナーははやる気持ちを抑えながら、そっとその領域に触れた。



  ◇



「――来た」


 不安げに窓から外を見やっていたアルパー。

 只管(ひたすら)馬車を走らせることに徹していたファル。

 その意識が、一気にオレの見つめる画面に向くのが分かった。


「キタキタキタキタァーーー!」

「ちょ、ちょっと見せて下さいまし!」


 オレの横に飛び込んで来て、画面をのぞき込むアルパーの、距離の近さに平静さを乱されながらも、オレは画面を見る。


2.あなたは今だれかと一緒にいますか?

 Yesなら→Y

 Noなら→N


3.y


「ファルもアルパーも、掲示板触ってないよな!」

「はい――私は、手綱を握ってからは一度も」

「わたしも何もしてないわ!」

「なら、間違いなくダウナーちゃんだな」


 オレは勢いよく指を躍らせる。


4.こちらは姉とメイドと向かっている。そちらは無事? y/n


5.y


「よしよし、順調だ」

「ダウナー! 無事で……よかった」


 アルパーが一瞬潤んだ目を拭う。それでも気丈に、彼女はオレの画面を引っ掴んで、その向こうにいるであろう、ダウナーに向かって激しくしゃべりだした。


「どこにいるの! どうしてるの!? 脚、ちゃんとあったかくしてる!? デルタは……彼女は一体、どうしてしまったの!?」

「ちょまてまて! ゆっくり! ゆっくり打つから!」


 オレはなんとかアルパーを宥めると、続けて異世界通信に質問を打ち続ける。


6.今は馬車の中?


7. y


8. 誰かに助けは求められる状態?


9. n


10. 現状、相手は一人?


11. ty


「ty?」

「qwerty配列だと、yの左はtだからな。たまにある誤打だ」


 オレは続けて、アルパーに尋ねる。


「こっからダウナーちゃんの居場所特定していくわけだけど。ダウナーちゃんは、隣町――アジャックスの街には詳しいの?」


 工業街、アジャックス。

 オレにとってのはじまりの街、ロード商会のあるウェイゲート(まだ入ったことないけど)を出てからは、大体15kmくらい離れた場所にある、今ダウナーが連れ去られた隣街の名前だ。

 アジャックスの街は、ロード商会のあるウェイゲートから、馬車で2時間半程の距離にあるらしい。

 外壁に囲まれた範囲は小さいが、中では工業が盛んな街だそうだ。興りは、すぐ傍の山から質のいい石材がよく採れたことから始まった、職人の街らしい。


「ダウナーは、生まれつき脚が良くなく、歩きに難がありましたが……うってかわって、手先は器用でしたから。よく、幼い頃はこの街の工房なんかを馬車で見て回っていましたわ」

「なら、ある程度の地理勘はありそうだな」


 そう判断してオレは、さらに詳細な絞り込みに入る。


12. 今向かってるのは、街の北側?


13. n


14.南?


15. n


16.西?


17. y


「西か」

「西……は、そうね。工業品なんかの在庫を出荷の前に保管しておく倉庫なんかが立ち並んでるはず。その中には空き倉庫なんかも」

「なーるほど。隠れるにはもってこいだな」


 オレは指をわしわしと動かす。

 オレは特定班所属じゃなかったが……風景写真一枚から住所まで当てる天才(マジキチ)がオレの故郷、ジャパンにはうようよ生息してたんだぜ。

 ネット民の誇りをかけて、オレの戦いが今始まる!


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