12スレ目
「つまり――端的にまとめれば、ダウナー様の計画されていたのは、『家出』だと」
円卓会議。というには質素だが、倉庫の床に三者三葉――この場合は五者五葉と言うべきか――丸くなって座っている。
アルパーとダウナーは横に座り、ダウナーがくるまる毛布に、アルパーもぼんやりと肩を預けている。
ファルさんはメイド服で正座している。そのお姿に、健全な男子高校生(なお登校していたとは言っていない)としてはちょっと期待してみたりしたりしなかったりもしましたが、流石良家のメイド、作法がなっているのか、普通に座っていれば、スカートの下はどうやったって見えようもなかった。
その横に縛り上げられているデルタは、倒れたふりをしてファルさんのスカートを除こうとし、顔を踏みつけられていた。――こいつ根性すごいな。
そしてオレは、その四者がつくる円の中、デルタとアルパーの間にあぐらをかいて座っていた。左を向くと、縛り上げられているデルタが身をよじらせて四苦八苦しているのが見え、右を向くと、お互いぼんやりしているロード姉妹。
――オレ、立ち位置ここで合ってる?
「――迷惑かけてぇ……ごめんなさい」
「……迷惑だなんて思わないわ。だけど……一体なぜ」
アルパーが、ダウナーの横で、息を吐くように尋ねる。
「あねきは最近、父上に連れられて、色々な街に行って、商会の仕事について色々勉強してるでしょぉ……ぼく、何にもできてないからぁ……」
「それで、世界を見て回ろうと?」
「うん……いつまでも、皆に頼ってばかりじゃあ、いられないから……。それで、デルタに頼んで街を出て、ひとりで国を周ってみようと思ってたのお」
「言ってくれれば……。わたし達、姉妹なんだから」
湿っぽい空気にあてられ、デルタが涙ぐんでいる。おまえ、そのダウナーに手出そうとした今回の元凶だけどな。
ファルのまなざしも、こころなしか優し気なものになっていた。
オレもまあ、良かった良かったとは思う。不幸な少女はいなかったんだな。
しかし――オレの心境は。「良い話ダナー」と、もうひとつのある感情がせめぎ合っていた。多分、顔の右側はしみじみ笑い、左柄は引き攣っている変な顔になっていたと思う。
そんなオレを知ってか知らずか、アルパーが改めてオレに向き直る。
そして姿勢をただし、オレに頭を下げた。
「――改めてですが。今回はありがとう、アーバット。うちの御者の管理不足で迷惑をかけました。また……言い辛いことですが。結果的に、家庭の事情にも巻き込んでしまったこととなりまして――――」
「――だよね!? やっぱ、記念すべきオレの異世界初イベント、囚われのお姫様救出ミッションじゃなくただの家出娘捜索だったよねえッ!」
頭つっ抱えて地面に突っ伏す。そんな肩透かしなろう系がこれまであったかよ?
いや、ない(反語)。
というか――オレは、なんとなく嫌な予感と共に。
あることを察する。
今頃、神共のクソスレが大変な盛り上がりを見せているであろうこと。
「オレをコケにするためにここに飛ばしたか、あいつら……!」
ナヴィが掲示板で呟いてた、良いタイミングと場所でスポーンさせてるって。
あいつらが笑い転げるために、都合の良いタイミングと場所かよ……!
ちょっと味方なのかもしれないと思ったオレがバカでした。お前もか、ナヴィ。
「それにしてもぉ……そこで突然呻きだした、その男の人はぁ……?」
姉妹での話がひと段落つき、ダウナーの視線がオレに向く。
オレの奇行に慣れたアルパーがああ、とオレの方に向き直り、柔和な顔でダウナーにオレを紹介してくれる。
「ああ、ご紹介しますわ。こちらは――」
オレはあ、チャンス! と思うが否や、無意識に胸に手を当てて言った。
「おれはアーバット! “海賊王” になる男だ!」
「――――こちら、やっぱり知らない人ですわ」
「あ、ちょ、すいません」
ネタで転生させられた以上、やっとかないとかなと反射的に……。
だんだんオレの奇行に辛辣になってきたアルパーに冷や汗をかきながら、オレはステータスボードを開き、ダウナーに向かって差し出した。
「わたくしィ、こういう者でして」
「あれぇ、これぇ……」
ダウナーの気を引いたのは――オレのステータスそのものではなく、
その端にある『異世界通信』というタブだった。
「あぁ。そうそう、きみにも行ってたろ? 『異世界通信』」
「うん。そっか、これ君のスキルなんだぁ……」
「これさえあれば、お部屋にひきこもってても、世界中のネット民たちとリアルタイムで下らない会話ができるスグレモノ! ぜひ一家に一台!」
オレが適当に述べた口上に、ダウナーは真剣な顔で、目をぱちくりとさせた。
「……部屋の中にいたまま、いろんな、誰かとお話できるのぉ……?」
「あ、うん。まだあんまり考えてないけど。いずれ、もっといろんな人がこの掲示板に色々書き込んでいくようになるといいな~とは思ってる」
オレの言葉に、ダウナーは何かを考え込んでいたみたいだった。
部屋の中で……それって、もしかしてぼくでも……と、ぼそぼそと呟いていたけれど。
彼女は、しばらくして、そっかぁ。と呟くと、毛布を頭までひっかぶった。
「――なんだか、色々考えると眠くなってきちゃったぁ……」
「そうね。ダウナーも、わたしたちも……今日はいろいろ、疲れたものね」
アルパーが慈しみを持った目で、ダウナーの頭を撫でた。
「今晩は、近くの宿屋を探しましょう。少しお待ちください、近辺をあたってきます」
ファルが早速立ち上がって、オレはあ、じゃあ悪いんだけどオレの分もお願いできれば、と言伝ける。
ファルは承知しました、それでは四人分ですね、と壊れた扉から出て行き、オレはその背中を見送った。
……実際、今日はなかなか疲れる一日になった。
転生して、クソスキル渡されて、喚いて、女の子に出会って(まあ肩透かしだったけれど)、なんやかんやあってこうして初日を無事終えて。
ふとアルパーとダウナーに目をやると、二人とも既に夢の世界に入っていた。ダウナーは肩まで毛布にくるまり、アルパーもそれにもたれかかるようにして目を閉じている。
見目麗しい姉妹がスヤスヤしてるのはなかなか目の保養になるな。キマシタワー建立。
ま――神共に文句言いたかったり、このスキルをどうしていくかとか、そもそも明日からどうやって生きて行くか等々、色々と考えることもやることも多いけれども。
ひとまず今日のところは、この光景が見られただけでヨシとしますか。
オレは倉庫の壁にもたれかかり、共に眠る姉妹を見ていると、
やっぱオレの身体にも大分疲れが溜まっていたようで。
だんだんとオレも眠くなってきて、オレは薄暗い倉庫の中。異世界生活初日をなんとか終えた。
「……アレ? わたし、縛られたままなんですけどー……あと、今日の寝床四人分ってどういう……? ちょ、ちょっとお嬢様たちぃ……!? そこのお兄さんもっ!? ちょ、まだ寝落ちしないでよぉ! やべ、腕攣りそうなんすよ! お、起きろぉっ!」
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