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【悲報】俺のスキル『ネット掲示板』だけど大丈夫そ? -0から始める異世界通信 -  作者: 上井
【悲報】美少女助けるテンプレ展開、ただし所持スキルはゴミとする
10/19

10スレ目

御者の名前をポートからデルタに変更。

過去エピソードの名前も変更しております。

「ど……どうしたのぉ。デルタ」


 ダウナーは、倉庫の入り口で立ちすくむ、緑の御者服の女、デルタに尋ねる。

 異世界通信のタブは、右手を振ってすぐに消した。

 ――――まあ、隠す必要も、特にないんだけれど。

 どうせ、途中から答えるのをやめていた所だ。

 デルタは押し黙ったまま、後ろ手で倉庫の扉を閉め、鍵を閉じた。

 その、見慣れた御者の見慣れない行動に、ダウナーは無意識に毛布を抱き寄せ、胸までを隠す。


「なんか言いなよぉ……デルタぁ?」


 そのまま、緑服の御者はつかつかとダウナーのすぐ前まで近づいてくる。

 自分より10cm以上背丈の高く、体格も良い女に詰め寄られたダウナーは、喉の奥からふえ、と微かに声を立てた。


「……なんか怖いよぉ、どったのお……」

「――――――ふ」


 デルタが口の端から、息を漏らした。


「ふ、ふふ……」

「――――?」


 デルタは笑みがこらえきれないかというように、身体を揺らす。


「―――ついに、ついにこのときが――お待たせしました、おじょうさま」


 その愉快な様子に、やはり彼女も、ぼくには居なくなってほしかったんだなと心を棘が刺す。


「うん。ここまで()()()()ねぇ。あとは適当な街で降ろしてくれれば……」

「ええ。どこまででもお供しますよ」

「? なにがぁ……?」

「……は?」


 デルタが放心したように口をあんぐりと開ける。

 ダウナーも、きょとんとした顔で尋ねる。


「デルタも――ぼくに嫌気がさして、どっか遠いとこに放り出したかったんじゃあ……なかったのぉ」

「私が? まさか! 私はずっとお嬢様ひとすじですよ……」


 そう言うデルタの視線が、つ、とぼくの目線から離れ――ぼくの毛布に向く。

 ぼくは――まさか、と思いながらひくひくと頬の端を震わせる。


「……あれれ~……デルタぁ、きみ、もしかしてそっち……?」

「ふ、ふふふ……お、お嬢様の可憐な御足が、ようやく私の前に……」


 ダウナーはようやく理解した。

 数年の間、自分たちに仕えていた女御者(デルタ)が、

 ―――いわゆるHENTAIに類するものであったということ!

 そういえば、馬車から降りて自室に入るとき、よく(うやうや)しくぼくの靴受け取ってたけど! なんかやけに丁寧だなとは思ったけどさあ!


「ずっと、ずっとお嬢様の脚を眺め回したいと思っていました……人目をはばからず」

「ひい~……デルタ、きみ拗らせすぎだろぉ~……」


 ダウナーは毛布を握りしめ、座り込んだまま壁をじりじりと移動する。

 デルタは恭しく、毛布の端をめくるとうっとりとした目でダウナーの脚を眺めた。


「薄い血色――しかしてこの陶器の様な白さ。お嬢様は自らの足を嫌っているようですが、誇れ、そなたは美しい――」

「解説するな! ソムリエみたいにぃ!」


 デルタはちょっと失礼、と云うと毛布からダウナーの脚に触れようとする。


「や……ぁだ!」

「ふ、ふふひっひ……ふひひ、お嬢さん、いいじゃあんちょっと舐めるように見るくらい……」

「いいわけないだろお……!」


 ダウナーは涙目で、デルタの顔を、動かない右足と違い、ある程度動く左足でげしげしと蹴る。

 デルタは陶然とした顔で言った。


「おみ足ィ……」

「こ……このへんたいっ」

「われわれの業界ではご褒美ですッ!」

「へんたい! こんなことして恥ずかしくないかぁ……!?」

「ヘンタイじゃない! 仮にヘンタイだとしても、ヘンタイという名の紳士だ!」

「紳士って! きみ女性だろぉ!」


 ……目頭が熱くなる。

 初めて、こういうことになった――他人と二人きりになれば、こういうことになるかもしれなかったのに、そんなことをほとんど考えてもみなかった自分に、嫌気がさしたのもある。

 自分が護られていた、ということを改めて突き付けられることは悔しい。

 ――そして、何より嫌なのは――

 こんな時になっても、誰か助けて、という言葉が喉の奥につっかかる自分だ。

 その瞬間だった。


「――開けろォ! デトロイト市警(シケイ)だ!」


 突然響いた声に、デルタがぽかんと口を開ける。おそらく自分も似たような顔をしていただろう。


「……くそ、恰好つかねえな。開けろォ! デトロイト市警だッッ!」


そんな意味不明な言葉とともに、デルタがカギをかけていた倉庫の扉がどーん、と軋んだ。


「ぬ、ぬァんだぁーーー!?」


 デルタが驚きから、突然立ち上がろうとして、毛布の端に足をひっかけすっころぶ。

 そのままダウナーの脚を越え、へぶ、と真横の床に顔から突っ込んだ。

 あ、痛そう。そんなことをぼんやりと考えているうちに、扉を叩く音は激しくなっていき。


「無駄ァ!」


 実に愉快そうに叫ぶ声と共に。

 どぎゃーん。と音を立てて、扉が内向きに倒れて来た。


「ちょ、ちょっとアーバット!? ファル! 大丈夫……!?」

「ダウナー様がいらっしゃるのであれば、この程度……」

「よっしゃあー! 突入―!」


「め、メイド長の声!? てかなんでここが……!」


 鼻を抑えたままの、デルタのその言葉に、あ、とダウナーは思う。

 さっきまでの掲示板。

 姉に、無事だけは伝えておこうと、惰性で答え続けたあの返事に――

 いや――まさか、本当にアレだけで?


「ほ……ホントに……?」


 毛布を胸まで上げていた銀髪の少女は、呆気にとられて倉庫の入り口を見る。


 街灯の光が目を刺し、暗かった倉庫に慣れていた視界が一気に白くなる。

 微かな視界に――青いウィンドウを握り、扉に立つ、一人の少年の姿が映った。



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