1スレ目
「きみのチートスキルは、誰でも使える仮想掲示板。きみが許可した全ての人が利用できるけど、誰かが書き込んだ内容の削除・改竄は一切できないよ」
「――ネット掲示板じゃねえか!」
背景には虹。地には雲。太陽の光は後光のように立派な城壁に差し込んでいて、まさしくここは天上の世界だった。
そんな世界に召喚されたばかりのオレは、ぽかんと口開けて思考停止。
目の前には、全員が輝かんばかりのイケメンと美女の神々が数人。全員にやにやと、いやーな笑みを浮かべている。
……その一番前に、今オレにふざけたスキルを与えた女神様はいた。
金の髪は絹のように美しく、目から鼻、唇にかけてのラインはぞっとするほど端正だ。
その女神様はやけに神妙な顔をしているが、ふと口の端を見るとひくひく震えている――おい、笑い堪えてるのバレてんぞ。
オレは半ばヤケになりながら、こんなことになった経緯を思い返していた。
――阿鳩ユウ。純日本人16歳。は、一言でいうと引きこもりニートのインターネットガチ勢だった。最悪な自己紹介だ。
その日、そのスレッドを見つけたのは、マジでたまたまだった。
平日の深夜から、オレは毛布にくるまり、スマホではイカがインクを塗りたくる実況動画を再生しながら、ノートPCのキーボードをがちゃがちゃ言わせて電子の海に潜るお仕事(日給0円)をしていた。
オレが入り浸っている掲示板にはろくなスレが立っておらず、ネットニュースでも眺めるかと移動しかけた瞬間、
その中の――ひとつのスレッドが、たまたま目に留まった。
【転生】安価でチートスキル決めて人間に異世界転生させる
はーんwと鼻で笑いながらクリック。常に鼻で笑っていくスタンスじゃないと、ネット掲示板を使うのは難しいからね。
143:またこんなんかよ 俺TUEEEは見飽きたって
144:逆張り乙 お前みたいな奴が結局一番なろう系好き
145:ここまでテンプレ
146:はいはい それじゃあ次行くよ
次釣れた人間を>>157のスキルで飛ばす
オレはそのページを流し読む。書き方に違和感はあるが、どうやら異世界転生とかチートスキルとか言ってるあたり、どうせインターネットに骨まで浸かった人間たちのよくある妄想だ。
は~と、寒くなってきた室内で指に息を吹きかけてから、オレはキーボードに指を走らせ、エンターキーをタンッと小気味よい音を立てて打った。
152:平日の深夜からチートスキル考えようの会とか
お前ら暇すぎだろwwww
こんな――こんな反射だけで書き込んだたった一言の煽りが。このエンターキーのたった一打が、オレの運命を滅茶苦茶に変えるなんてこと。想像できるわけないだろ?
結論から言うと、その瞬間、オレの身体はふわっと宙に浮いた感覚を覚えた。
何かを考える暇もなく、ぴしゃーん! と音を立てながら光の柱がベッド全体を包み込んでいく。
「なんじゃああああーーーーー!??」
珍妙な叫び声をあげながら、光に吞まれていくオレの視界。その最後に映ったのはPC画面だった。
155:聖女に転生して最強の治癒魔法使えるようになる
156:防御力∞魔力∞だけど攻撃力1になるスキル
157:ネット掲示板を異世界に持ち込んで自由に使えるようになる能力
158:>>157 クッソwwwwwwww
159:>>157 いいね じゃあそれで始めるよ
「なんじゃそりゃあああああああ!?」
断末魔の声をあげながら――オレ、アバト・ユウの意識は真っ白に染まった。
なんか楽しくなってきた!