悪役の股間を蹴り飛ばしていたら、ヒロインと主人公がやってきた件
一度は考えた事ありませんか?
そんな事を書いてみました。
「このページのこのコマなら、俺に気付く事は出来ないな。よし……『インストール』」
俺の体が開いた漫画本の中へと吸い込まれていく。
最初は気持ち悪かったが、今では慣れたものだ。
「クックックッ……さぁアルテイシア、お楽しみの時間だよぉ!」
「サルベージ伯爵! こんな事をして許されると思っているのですか!」
さて、お約束のシーンだ。
漫画ではこの後、このアルテイシア王女様は凌辱されて、主人公が助けに来た時には精神が病んでしまう。
俺、そういう展開クッソ嫌いなんだよね。だから、変える。
丁度ズボンを下にずらしたところだ。
ベストタイミング!
「おらぁっ!!」
「ぐっほぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁっ!?」
「え!?」
俺の靴の表には薄い鉄板が仕込んである。
男の軟らかい鍛えようのない場所を、この男の後ろから蹴り上げた。
中には男の急所を守る為の道具、ファウルカップ等装着していて効かない場合もあるだろうが、俺の狙いは女性に手を出そうとする男がズボンを下した瞬間なので問題ない。
「おごっ……ぉぉっぉぉ……だ、誰だ……この場には誰も来れるはずが……」
ああ、色々結界張ったりしてあるんだよな。
知ってるけど、俺のこの力の前には関係ない。
そのページに介入出来る能力だからな。
「教えるかボケ。死んどけ」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」
股間を思いっきり踏みつけたら、この男は痛みに耐えきれなかったのか、気絶した。
後はこの世界の人に任せれば良いだろう。
っと、その前に。
「あ、あの……」
「怖かったですよね、もう大丈夫です。今手錠を外しますね。えっと確かこの辺に鍵が……あった。よっ」
パキンという音と共に、手錠が外れ、床へと落ちる。
「もうしばらく、そのまま待っていたらカインが来るはずですから」
「え!?」
「それじゃ、カインとお幸せにね。『アンインストール』」
「ま、待っ……」
アルテイシア王女様の声を聞き終える前に、俺は現実世界へと帰ってきた。
開かれた漫画のページを見ると、無事に主人公であるカインがやってきて、サルベージ伯爵を捕える場面に変わっていた。
良かった、これで主人公とヒロインがハッピーエンドに変わった。
まぁ、俺の持ってる漫画だけなんだけどな、変わるのは。
俺の能力で物語を変えられるのは、俺が直接手を出した漫画のみ。
最初に酷い目に合う予定だった女の子の運命を変えて喜んだ後、書店に行って変わっているか確認したのだ。
結果はそのまま。女の子は酷い目に合っていた。まぁ、エロ本なので基本仕方がない。
男性読者を楽しませる為、興奮させる為に綺麗だったり可愛かったりする女性は悪役男性や中には魔物なんかによって、酷い目に合うのだ。
他の人なら、漫画の世界に一時的にでも入れるとなったら、どんな楽しみ方をするのだろう。
自分の憧れの人達と会話したり、仲良くなったりして楽しむのだろうか。
俺は推しは草葉の陰から見守りたい派だ。
自分がその輪に加わるなんてとんでもない。
推しが楽しそうに、幸せにしている姿を見て、こちらも元気を貰える。
他の人に気持ち悪いと言われようと、俺はそれで良いのだ。
だからこそ、推しに酷い事をする悪役が、仕方ないとはいえ許せなかった。
その過程をへて、仲良くなるお話も存在する。
だから、そういった物語には手を出さない。
俺が変えるのは、こんな展開あってもなくても変わらんだろっていう物語だけだ。
変えられるのは俺が選んだ漫画本だけなので、自己満足も良い所だが。
さて、今日も大学に行って、帰りに漫画でも買って帰ろう。
つまらない講義を終え、単位もこの調子なら問題なく取れる。
伸びをして体を解してから、いつもの書店へ。
「よっす大翔。今日も来てくれたんだな」
「ああ。新刊全部くれ」
「まいど! 先週からのだと、これとこれと……」
この書店のオーナーの息子であり、次期店長の大石碧は、ブツブツと言いながら新刊を物色してくれる。
碧と知り合ったのは高校生の時だが、それからずっと俺と友達で居てくれる良い奴だ。
茶髪でピアス、見た目は完全にチャラいナンパ男みたいな姿なのだが、これで義理堅く友情に熱いなんて、人を見た目で判断できないって碧の為にあるような言葉だと思っている。
「おー、これの続編出たのか。確か一巻ではこの悪役令嬢退場したよな? なのに表紙に居るって事は……」
「これはお勧めだぜ大翔! この悪役令嬢、見た目が最高なのもあるけど……なんつーか、ヌケるシーンがホント多いんだよ!」
ちなみに、見た目通り性に奔放である。ただ、男友達のノリなので大体こんな会話が多いんだが。
「ならそれも買おう。帰ってゆっくり読むわ」
「まいど! あと俺が読んだやつでよけりゃ入れとくけど、どうする?」
「あー、なら貰っておこうかな」
「あいよ! えーと合計で5000円だな!」
「碧、そんな綺麗な数字にはならんだろ」
消費税とか。
「良いんだよ、俺のお下がりの値段がプライスレスだと思っとけ!」
「おま、お下がりは無料じゃなく値段つけてやがんのか!?」
「はははは!」
なんて言うが、実際お下がりが無料でもざっと計算したら5000円以上する。
「すまんな、さんきゅ」
「良いんだよ。助けてんだろ? また助けた本読ませてくれよ」
「おう」
「すいません、これ……」
「お、まいど!」
レジに来たお客さんの対応に戻った碧に軽く手を振ってから、店を出る。
碧には俺の力を話してある。
実際に漫画の中身が変わったのも見せた。
碧は最初こそ驚いていたが、すぐに受け入れてくれ、それを他人に話すような事もしなかった。
俺は口止めをしていない。普通なら黙っていてくれと言うところなんだろうが……俺はそれをしなかった。
だと言うのに、だ。碧は自分から言ってくれた。
『この事は誰にも言わねぇ方が良いよな。大翔は俺を信用したから話してくれたんだろ? 俺は絶対にこの事はしゃべらねぇから安心してくれよ。そん変わり、助けた漫画、たまにで良いから読ませてくれよな!』
そう言って笑う碧に、どれだけ助けられたか分からない。
正直、こんな力を持ってしまって、最初は不安だった。
誰かにバレたら、国に捕まってしまったらとか、色々と。
だから、話してしまった。巻き込む事を承知の上で。
だから、言えなかった。他の人に話さないでくれ、と。
なのに碧は、自分から話さないと言ってくれた。
そしてそれは事実なのだと分かっている。
碧は俺と違って交友関係が広い。
俺は碧の事を親友だと思っているけど、碧からすれば数多い友達の一人だろう。
そんな碧の友達から、俺に何か言われた事が無いのだ。
もし碧から俺の話を聞いていたのなら、絶対に俺に接触してくるはずだから。
黙っていてとか、ここだけの話とか、それを守る人間は少ないと思っている。
だからこそ、碧はかけがえのない親友だと勝手に思っている。
「たでぇまっと」
「おっかーはる兄ぃ」
家に入ると、リビングにソファーで寝転がりながら漫画を読んでいる愚昧がいた。
こいつ、学校では清楚可憐を地で行く姿を見せているくせに、家ではズボラなのだ。
家ではというか、俺の前では。
「はる兄ぃ、ご飯作ってー」
「お前、漫画片手にアイスクリーム食べながら言う事じゃねぇんだよ」
「いいじゃんー。はる兄ぃの救った女の子達、皆幸せそうだよー。主人公達もめっちゃ笑顔だしさー」
「また俺の本棚漁ったのか。もう何度も読んでるだろ?」
「うん。だけどさ、なんていうか……はる兄ぃの救った世界の漫画の方が、アタシ好きだよ。これなら読めるもんエロ本でも」
「へいへい。それじゃ飯はハンバーグで良いか? 勿論お前のは特別に大きくしてやるからな」
「うはっ。はる兄ぃチョロすぎて妹として心配になる」
「やかましい」
というわけで晩御飯を作り、愚昧と一緒に食べる。
黒髪のストレートヘアの愚昧は、高校生ながら大人びたスタイルだ。
食べ方もなんというか気品があって、俺との育ちの違いが垣間見える。
同じ両親から生まれたんだが、何故こうも違うのか。
「ごちそーさま。食器はアタシが洗っとくから、水につけといてね」
「あいよ。あと、今晩もやるつもりだから、もし何かあったら頼む」
「何かって言われても、はる兄ぃが失踪したってママに伝えるだけだからね?」
「ああ、それで良いよ」
父さんと母さんには俺の力の事を伝えていない。
余計な心配を掛けたくないってのが一つ。
ちなみに愚昧は俺の部屋に勝手に入って漫画を読んでいた為、当時俺が内容を変えた漫画は隠していたのに、『トレジャートレジャー』とかわけのわからん事を言って見つけられたのが運の尽き。
愚昧曰く、『ベッドの下にエロ本は基本だよね』と。
やかましいわ。
基本的に俺は、内容を変えた本と変えていない原本の二冊を持つようにしていた。
検証っていうのも目的の一つだったけど、変えていない本をもう一度読んで、変えた本を読んだ時に、良い事をしたと自己満足にひたるのが好きだからだ。
自分が推しの未来を良いものに変えたっていう高揚感。
コレの為に悪役の金玉を蹴り上げていると言っても良い。
何故金玉なのか、それは男は金玉を潰せば大体気を失うからだ。
漫画の世界に入ったからって、俺が特別強くなるわけじゃない。
身につけた道具はそのまま持って入れるのだが、スタンガンとかは持っていけなかったからなぁ。
なので、漫画の世界に入る時は悪役が一番油断している時。
女性を犯そうと自分の一物を外の空気に触れさせる時。
仮に気付いて避けようとしようが、自分のずり下げたパンツが邪魔をして動けずに当てれる。
まぁともかく、原本と変えた漫画を二つ所持していたが為に、愚昧にバレたのだ。
愚昧の反応はあっさりしたもので、『それではる兄ぃは漫画のヒロインとエッチしたりしないの?』とか言ってくる始末だったが。
馬鹿にするなと言いたい。推しは推しだから推しなんだぞ。
ヒロインに触れるなどとんでもない。
真の紳士は触れない。
イエスヒロインノータッチ! だ。
という事を熱烈に語ったら、『あー、うん。はる兄ぃはそうだよね。世の男共が全員はる兄ぃみたいだったらよかったのに』とか、後半小さな声で言われたから聞き取れなかったが、俺はそうだとかどういう意味だよ。
気を取り直して、今日も女の子を救いに行く事にした。
そういえば今日、碧から受け取った新刊達があったな。
まだ封も開けていないそれらは、俺に至福の一時を与えてくれる宝物だ。
そんな中で目についたのが、碧とも少し話した、以前読んだ悪役令嬢追放ものの続編。
表紙には前巻で追放された悪役令嬢が、剣を持って構えている。
絵師さんが非常に上手な為、この表紙だけで買ってしまいそうだ。
透明のフィルムをぱりぱりと外し、中身を読む事一時間程。
「くぅぅ……良い! エロイ! 不憫可愛い! しかも悪役令嬢なのに、なんでファンタジーしてんの! ゴブリンやオークに負けそうになってクっ殺するのは女騎士の役目だろ!?」
なんというか、いわゆる王道、テンプレ満載の展開だったが、俺はそれに弱いのだ。
気丈な女騎士がオークに負けて悔しそうにする姿とかキュンと来る。
でも……これは頂けない。
なんというか、最後にはこの悪役令嬢……名をシルメリア=フォン=アイスベルグというのだが、ああいや追放されたから家名は無くなってシルメリアか。
この子の目のハイライトが消えていくのだ。
そりゃ、優しく声を掛けてくれた男性には眠り薬を混ぜられ犯され、ギルドで一緒に冒険に誘われついていったパーティにも、魔物に麻痺させられ動けなくなった所を犯され、それでパーティに懲りた彼女はソロでゴブリン狩りに行ったらギルドの情報が間違っててオークがいて、負けて犯されと……こんだけ重なったら絶望するわ。
これは助けてやりたい。だけど、どのタイミングで助ければ良いんだ。
……やはり、睡眠薬を飲まされて連れ去られた場所、だな。
まずはそこで一回救おう。少なくとも俺が持っているこの漫画でだけは。
俺は漫画のページを開き、眠ったシルメリアを前に、ズボンを下ろそうとしているシーンを注視する。
「覚悟しろよおっさん。『インストール』」
そうして漫画の中に入った俺は、おっさんのすぐ後ろにいた。
せまい場所だから仕方ないんだろう。
「ふへへ……知らないおじさんにノコノコついてきたりするから、こうなるんだよぉ? 一晩しっかり可愛がってあげるからねぇ」
おお、漫画の台詞だとなんとも思わず読めるけど、実際に聞くととんでもなく気持ち悪いな。
「死ねや」
「なん……ごっ……っ……ふぅっ……!!?」
おっさんの真後ろから、足を思いっきり振り上げてやった。
股間に直撃し、痛みに耐え切れずに地面に転がったおっさんに、とどめの一撃をくれてやる。
「がふっ……」
漫画では他に仲間は居なかったはずだ。
このおっさんの単独行動で、シルメリアが目を覚めた時、裸になっていて白いものがかかっていた事と、股間がジンジンするのを連想する事で、騙されたのだと気付く。
このまま放置するのも寝覚めが悪いし、起きて状況が理解できないだろう。
だから、一度漫画の世界から出て、シルメリアが起きた時に入りなおした。
「あ、あの、アナタは……?」
「俺は……大翔。君はその横で気絶してるおっさんに、騙されたんだ」
「……!!」
おっさんは股間まるだしだが、手を後ろで縛り足も縛っているから身動きは取れない。
それを見たシルメリアは、青い顔をしている。
無理もない。
「一応、状況を説明する為に待っていたんだ。あ、誓って言うけど、俺は君に触れていないよ」
「それは……分かりますわ。一晩あったんです、私を自由にする事が大翔様には出来たはずですもの」
おおう、シルメリアに名前を呼ばれて、様とか呼ばれちゃったよ!
でもダメだ、俺は登場人物には極力関わらないようにしてきた。これからもそれは貫く。
「それじゃ、俺はこれで。『アンインストール』」
「ま、待って!」
シルメリアの声も空しく、俺は現実に戻って来た。
漫画のページを見ると、シルメリアはおっさんを引きづりながら、冒険者ギルドへ向かったようだ。
ギルドは犯罪者を捕まえるのも仕事だからね。
このおっさんは前科持ちらしく、結構な報奨金を貰えたようだ、良かったねシルメリア。
それから読み進めていくと、冒険者ギルドでパーティに誘われてシルメリアはついていく。
そこは学んで欲しかったんだけど……でも理由が、自分が強くなる為に他の人から戦い方を学びたい、じゃ無理もないか。
そして、パラライズキノコの群れに遭遇し、シルメリアは麻痺をして動けなくなる。
パーティメンバーは麻痺したシルメリアを担いで逃げて、なんとか魔物達の居ない場所へと到達した。
シルメリアはここでこの冒険者達に襲われ……たはずなんだけど、話が変わった。
なんとシルメリアは冒険者ギルドに護衛を頼んでおいたのだ。
襲おうとした冒険者達は隠れて見ていた冒険者ギルドの人に現行犯で捕まった。
シルメリア、ちゃんと人を疑うようになっている。
何故襲われた時の方はそう思わなかったんだろう? まぁ物語だし、作者の都合の良いようにするか。
それから読んでいくと、この助けた冒険者と良い雰囲気になっていく。
お、これは純愛になるだろうか?
しかしそうは問屋が卸さなかった。
アベルという冒険者ギルドの方とパーティを組んだシルメリアは、ゴブリン退治に向かい、オークと遭遇する。
アベルとシルメリアは共に戦うが、数があまりにも多かった為負けてしまう。
そこでオークに犯されるシルメリアを見るアベルって、NTRはやめてくれよぉぉぉぉぉっ!
俺それがこの世で一番嫌いなんだよ!
愛した人と一緒に幸せになってくれよ!
寝取られとかクソなんだよ!
しかしどうする。俺がこの場面の少し前に入った所で、オークを倒すなんて出来ない。
……なら発想の転換を行おう。
オークが居ると、事前に知らせよう。
そう思い、再度漫画の中へ。
「こんにちはシルメリアさん」
「あ……! は、大翔様っ!!」
「シルメリア、知り合いかい?」
「ええアベル! 見ず知らずの私を助けてくれて、一晩見守って頂けた命の恩人ですわ」
いや、時間スキップしたから、全然見守ってないけどね……ごめん。
でもこれなら話を聞いて貰えそうだし、この流れに乗ろう。
「シルメリアさん、そしてアベルさん。二人が行こうとしてる場所は、ゴブリンだけじゃない。冒険者ギルドの調査不足で、オークが氾濫しているんだ。俺の言葉を信じて、冒険者ギルドに伝えて欲しい」
「「え!?」」
「それじゃ、任せたよ。『アンインストール』」
そうして、また現実世界へと戻って来た。
漫画を読み進めて見ると、二人はちゃんと言った事を守ってくれて、冒険者ギルドから感謝されていた。
ただ、ここで不測の事態が起きた。
シルメリアが俺の名前を出したのだ。
自分の功績ではなく、俺の功績だと。
うーん、俺の事は言うなって言っておくべきだったか。
けれど不都合な事でもないし、放置しておくか。
エロ漫画なのにエロが一切発生しない漫画になってしまったが、後悔はない。
シルメリアが笑顔でいるページが、原本よりもずっと多いからね。
うんうん、これで良い。
後はアベルと結ばれてハッピーエンドかな?
そう思って読み進めていたんだけど……
「シルメリア、どうしても僕との結婚を受け入れてもらえないかい?」
「アベルの気持ちはとても嬉しく思いますわ。でも、私は……私をずっと見守って下さる大翔様をお慕いしているのです。今もきっと、大翔様は見守って下さっている。だから、私はアベルの気持ちには応えられないのです」
「……そっか。でも、僕は諦めないよ。大翔さんが凄い方なのは、僕も認めてる。だからって、君を諦める事は出来ない!」
「アベル……」
ぎぃやぁぁぁぁっ! 俺なんかがシルメリアの幸せを邪魔しちゃってる!?
どうしよう、どうしたら良いんだ!?
もう一回やり直す!? でもそうしたらどうやって最初のを変える!?
なんて考えてあたふたとしていたら、突然漫画が光り出した。
「な、なんだぁ!?」
「はる兄ぃ! 何事!?」
待機してくれていた愚昧が、ドアを開けて入って来た。
漫画本の光が増し、黒い人影が二つ浮かんだ。
光が収るとそこには、漫画の世界で見慣れたシルメリアと、アベルが居た。
「「「「ええええええぇぇぇ!?」」」」
全員の驚いた声がハモった。
「大翔様っ!」
「おわっ!?」
突然抱きしめられ、困惑する。
「こ、ここは? 大翔さん、一体これは……?」
「はる兄ぃ! この二人って、あの漫画のヒロインと主人公!?」
「お、落ち着け。俺もよく分からんけど、この世界に二人を呼んでしまったって事か?」
「大翔様! 私、お伝えしたい事があります! 大翔様はすでにご存知かもしませんが、それでも私から言わせてくださいまし!」
「お、落ち着け、いや落ち着いてくださいシルメリアさん。あとアベルさんもそんな血の涙を流しそうな目で見ないで下さい。俺NTRは嫌いなんで、取りませんから!」
「え、NTRとはなんですか大翔さん!?」
「はる兄ぃ何言ってんの!? というかどういう状況なのこれ!?」
俺はただ悪役の股間を蹴り上げてヒロインを救う事に満足してただけなのに、どうしてこうなった!?
いいねやブックマーク、評価、感想など頂けたら喜びます。
感想は頂けた場合ちゃんとお返事させて頂きます。
お読み頂きありがとうございました。