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第9話 初仕事

  ◆

 

 翌日を迎えた。朝食が運ばれてきたので、とりあえず手を洗う。

 食事のマナーは意外と厳しい。ポタージュがあるが、スプーンですくって食べるだけで、口をつけてはダメなのだそうだ。パンも、口いっぱいに放り込んではダメで、きちんと一口サイズにちぎる必要があるらしい。正直、慣れるまではやりづらさが勝つ。


 しかし、現状はこれに慣れないと、打ち首の可能性がある。部屋で食事をとらせてくれることに感謝しながら、マナーをとりあえず覚えることにした。


 そして、王様に呼ばれ、仕事をよこすと言ってきた。俺の公爵としての仕事は何なのかと問いかけると、その目の能力を活かして、民の相談事を聞くことだと言われた。いずれ領地を管理するようになったときにも、住民の間での紛争などを解決しないといけないようなので、それと似たようなことをここでもやってほしいとのことだった。


 最初の仕事は、夫婦間の仲を取り持つ、ということらしい。目で見て色々分かるというのなら楽勝だろう、と押しつけてくる。ちょっと目で探ってみたが、王様は仕事を断った者も打ち首にしたことがあるということなので、引き受けた。どれだけやりたい放題しているんだ。


 俺がその夫婦の家に到着すると、夫婦は両者ともに食い入るようにこちらに話しかけてきた。


「おお、あなたが新しく公爵になられた方ですね! 聞いて下さい、家内が--」


「何を言っているのよ! 公爵様、騙されてはなりません。この人が--!」


 やいのやいのと言い合っている。話をこの二人に任せていたら先に中々進まないと思うので、きちんと目の能力を活用する。


 男性の方はルート・ユークラン。主に商品の仕入れや会計など、色々な業務を担っている。それを理由に、仕事がない時間は怠け放題のようだった。


 女性の方はミカ・ユークラン。主に店番をしつつ、赤子の面倒を見ており、休む暇がないのだそう。ルートに時間があるときは赤子の面倒を見て欲しいようだが、断られているようだ。


 うーん。個人的には、女性の肩を持ちたい。赤子の世話は大変だと聞いたことがある。


 だからといって、男性だけを責める感じにしても、無理だろう。空き時間は怠けるような人だ。ストレートな正論が通じるとは考えにくい。


 二人が言い争っている間に、どうしたものかと考える。そこで、男性の心情を探ることを思いついた。どんなことを思って、赤子の世話を断っているのだろう。


 なになに。こっちだって、大変な仕事をしているのに、それを分かってくれない! ということか。なるほど、つまり理解を示してあげて、その上でのお願いなら聞いてくれる可能性がありそうだ。


 ついでに、もっと奥深くまで探れないかを試してみる。なるほど、お互いにこんなことは本当は言いたくない、仲良く暮らしたいと思っている。その気持ちがあるなら、何とかなるかもしれない。


「お父さん」


 言い争っているところに、一言、声をかける。


「分かります、あなただって大変なのに、それを分かってくれなくて、赤子の世話を見て欲しいと言われるから、イライラするのですよね」


「そ、そう! そうなんだよ!」


 ルートはまさに、味方を得てテンションが上がったようで、大きな声でそう言った。


「ではもし、それを理解してくれた上で、赤子の世話もお願いします、と言われたら、どうですか? 引き受けますか?」


 それを聞いて、少し悩む仕草を見せた。


「――引き受けます。今、言われて分かりました。私は、理解を踏まえた上でのお願いであるのなら、断る理由がありません。ちゃんと世話をします」


 それを聞き出せて良かった。次は、奥さんだ。


「奥さん。奥さんが大変なのも分かります。店番に加えて赤子の世話をされていると、とても心が安まる時間がないのではありませんか?」


「そうなのよ! それなのに――」


「ストップ! さっきの話を聞いていましたか? きっと大変なのはお互いがそうなんです。ただ、大変だと思う内容が違うだけなんです。だから奥さん。旦那さんも大変な部分があると分かってあげて下さい。それだけで大丈夫なはずです。きっと、昔みたいに仲良く暮らせるはずですから」


 そう言われて、サラさんは少し押し黙った。よく俺の言葉を飲み込んで、考えてくれているのだろう。やがて、ゆっくりと口を開く。


「ごめんなさい、あなた。ちょっと、頼み方が良くなかったわね。あなたも大変なのは、そりゃそうよね」


「ああ、いや。分かってくれたならいいんだ。こっちこそ、サラが気が立っているのを察してあげられなかった。俺の落ち度だ」


 どうやら、お互いに謝れるところまで行ったようだ。お互いに話の分かる人たちで良かった。もっと自己中心的な人たちだったら、こうは上手くいってないだろう。


 二人が揃って俺の方を見る。


「ありがとうございました、公爵様。俺の足りない部分が、よく分かりました。これからは責任を持って、子どもの面倒も見ようと思います」


「私からも、ありがとうございました。自分のことばかりで、周りが全然見えていなかったわ。これからは、昔みたいに、ルートにもレイルにも、思いやりをもって接していこうと思います」


 レイル、というのは子どもの名前だろう。分かってくれた二人に対して、「いえいえ、どういたしまして。それでは」と声をかけて、その場を去った。

 

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