第6話 魔法
「ところで、さっきの会話は誰との会話なんですか?」
「ああ、あれは大臣よ。私のお父様の影響を受けている人の一人ね」
大臣か。じゃあ、まずはそこから崩そうか。
「あの、姫様。僕、実は目で見た相手のことが分かるんです。だから、大臣を一目見れば、弱点が分かるかもしれません」
「それは便利ね。じゃあ、まずは大臣から崩しましょ」
どうやら、意図が伝わってくれたようだ。会話がスムーズに進むのは良い。
「ちなみに、お父様の苦手なものって何か分かるかしら?」
「それは見ていませんが、イリス様を溺愛している、というのはちょっと気になりました。果たして弱点にはなるのかなって」
「ああ、それね。説明してあげましょうか?」
「お願いします」
目で見ることもできるが、せっかくの申し出を断るほどの理由じゃない。話を聞く。
「まず、イリスは私の妹なんだけど。お父様ったら、イリスに惚れ惚れしちゃっててね。私や部下たちに対する態度とは全然違う態度で接しているの。イリスにだけは粗暴な面を見せないようにしているのよ。お父様が部下と話しているときにイリスがこようものなら、嫌われないようにって物腰がうって変わって柔らかくなるわ。
それくらい溺愛しているから、お父様の発言を曲げたいときとかあれば、イリスに偶然を装って近くに来てもらうことで、有利に話を進められるようになるんじゃない? でも、できてそれくらいかしらね」
「なるほど。分かりました」
ふむ。それはそれで使えるかもしれないなぁ。
まあ、でも今ではない。今はとりあえず大臣だ。
「今、姫様が出てきたところが、大臣の部屋ですか?」
「そうよ。そろそろ用事で出てくると思うわ。そういえば、一緒にいるところを見られると、大臣に警戒されるかもしれないわね」
「じゃあ、大臣が出てくるのを待って、僕だけ出て行きます」
「分かったわ」
そこまで話して、扉が開く音がするのを待った。
大臣の部屋の扉が開いたであろうとき、わざとらしくないように、普通に扉を開ける。
外に出ると、恰幅のいい男性がそこにはいた。
ケーニ・ソンブロン。40歳。身長は168cm、体重は80kg。ルースネッタ王国の大臣として、3年間務めている。
どうやら、大臣で間違いなさそうだ。目で見て頭の中に入ってきた情報を確認しながら、大臣の反応を待つ。
「おお、これは鏑木様」
「はい。あなたは?」
もう既に分かっているが、会話の流れが不自然にならないように問いかける。
「申し遅れました。私は大臣のケーニ・ソンブロンです。ソンブロン大臣とお呼び下さい」
「分かりました、ソンブロン大臣」
作り笑いを浮かべて、相手を迎えた。
「いやはや、この度はサラ姫をお救いいただき、ありがとうございました」
「いえ、当然のことをしたまでです」
両手をもみもみしながら、こちらを伺うような態度を見せている。見ていて、あまり気分がいいものではない。
「謙遜なされなくてもよいのですよ。あなたの能力は王よりお聞きしました。素晴らしい能力ですね。私のことも、お分かりなのですか?」
「ええ。大臣になってからまだ3年ですが、ルースネッタ王国の発展のためにご尽力なされているそうですね」
「素晴らしい! 是非、我が国のためにその能力を役立てて頂きたい。さすれば、給金は弾みますからな?」
肩に手を置き、下卑た笑みを浮かべながら、そう言って去って行った。世の中の人間が、全員金だけで動くとでも思っているのだろうか。とんでもない誤解だ。
大臣が階下に降りていったところを見計らって、部屋の扉を開ける。
「どうだった? 弱点は分かった?」
「お化けが苦手らしいですよ。それを恥に思っているとか。子どもっぽいお人だ」
きちんと、苦手なものを頭の中で問いかけながら会話していた。いくらか手段は思いつくけれど、せっかくだからやってみたいことがある。
「それで、これからルー爺のところに行こうと思うんだけど、どうしますか?」
「私も行くわ。ちょっと、気分転換したいから。それと、敬語は使わないでいいわ。協力し合う仲なんだから」
「分かった。ルー爺のところには、どう行けばいい?」
「案内してあげるわ。付いてきて」
サラ姫の案内で、ルー爺のところに行く。すると、そこは召喚されたところだった。どうやら、普段からこの部屋にいるらしい。
「ルー爺、鏑木くんを連れてきたわよ」
「ん? なんじゃ、何か用か?」
「うん。俺って、魔法は使えるのかなって」
そう、せっかく異世界に来たのだ。魔法があることは最初に召喚されたときに分かったから、使えるのなら使いたい。
そして、魔法が使えるのなら、ものによっては大臣をどうにかする方法もすぐに実践できると思う。
「そればかりは、やってみないと分からんな。ちょっと待て」
そう言って、ルー爺は本を一冊取り出した。
「まずはこの魔法を使ってみるといい」
ページをパラパラとめくってくれて、そこに書かれてあったのはファイアーボールという魔法だった。
「魔法は本人に素質があるかどうかで決まる。素質があれば魔法の名前を言うか思うかするだけで発動できる。だから、試しにファイアーボールと思うだけで、お主が魔法を使えるかどうかが分かる。とはいえ、魔法は使えてもファイアーボールは使えないという場合もあるから、いくらか試し撃ちしてみることじゃな」
「分かりました」
試し撃ちとなると、柱や床を相手に撃った方がいいよな。そう思って、柱に狙いを定めた。せっかくなので、分かりやすく言って使ってみる。
「ファイアーボール!」
すると、炎の球が出てきて、狙い通り柱に向かっていった。それは柱にぶつかると爆発を起こし、柱を粉々に爆砕する。
「おお!」
「な――」
「ええ!?」
本当に魔法が使えた! 思わず、体が震える。これはいい!
それにしても、ルー爺とサラ姫は、それを見て驚いた様子だった。どうしたのだろう。
「あの、どうかしましたか?」
「とんでもない威力じゃ。お主、相当な才能があるぞ。流石、素質ある者なだけはあるわい」
「こんな威力のファイアーボール、私、見たことないわよ?」
「そうなんですか!?」
比較対象がないので、俺にはよく分からないが、とにかく凄いらしい。良いことを知った。それなら、思った通りの魔法が使えれば、大臣のことはさっさと解決ができそうだ。
「ルー爺、ちょっと魔法の本を貸して下さい」
「な、どうする気じゃ?」
「ちょっとね、やってみたいことがあるんです。使いたいと思っている魔法がもしもあればだけど」




