第4話 交渉<2>
「うおおお!」
兵士たちが賊を追いかけていく。そのまま、賊は逃げていく。
この状況になるのは、依頼主も予想外のはずだ。そして、依頼主は姫を傷つけたら仲間を殺すと言っていることから、この状況が見える位置にいるはず。だから、仲間を殺すという選択はとらないはず! なぜなら、姫を傷つけるという逆鱗には触れていないのだから!
街道の坂を下りていくとき、6人の人影が見えた。3人それぞれが人質を手に待っている。
「いました! ルー爺!」
「うむ!」
見れば、彼らは戸惑っているようだった。兵士たちが賊を追いかけているという、この状況が理解できないらしい。予想通り、今すぐに人質に手をかけようとはしていない。まだ助けられる余地はある!
それを確認しつつ、街道を下る。依頼主と思われる彼らの目の前まで賊と共に来られたとき、彼らはようやく口を開いた。
「お前ら、なんで兵士に追いかけられているんだ! 兵士は姫を見殺しにする気だったのか!?」
ここで、俺の能力を隠したまま交渉ができればいいんだけど。結局、能力は使うことになりそうなので、あらかじめ能力込みでの答えを言う。
「いいや、見殺しにする気なんてない」
「じゃあ、どういうことだ!」
「俺は、見れば相手のことが分かる能力を持っています。だから、この能力で賊のことを知り、こうして兵士を連れてくることを提案したんですよ」
「そ、そんなバカな!」
「嘘ではありませんよ、ヤードさん」
「!? 名乗ってないのに!」
「だから、言っているじゃないですか。見れば分かるんです」
「……」
信じられない、といった風で固まっている。
だが、内心ではそれを受け入れつつあることが、見れば分かった。
本当は、所属がローヌ王国であることも分かるのだが、これについては後でルー爺に相談しよう。下手に首を突っ込んで、国際問題にしたくない。
「女性たちを解放してください。そうすれば、罪は軽くて済みます」
「い、嫌だね! 俺たちが逃げるまで、こいつらには人質になってもらう!」
「ふざけんな!」
賊の人が、声を荒げる。それに対して、依頼主も声を張り上げる。
「ふざけてなどいない! クソッタレ、こんなことになるなら引き受けるんじゃなかった!」
自分たちが捕まるのが嫌なんだろう。だが、見れば分かる。賊と同じで彼らも背後にいる何者かに脅されているだけだ。何人か経由して依頼をしているようなので、一番背後に誰がいるかまでは分からないが、大元はそいつだ。
「ルー爺」
「なんじゃ?」
「どうやら彼らも、背後にいる何者かに脅されているだけみたいです」
「そうなのか」
「彼らも見逃すことって、できませんか?」
その提案に、ルー爺は頭を掻く。
「……そうじゃのお。そうなると、彼らも被害者じゃ。今ここで、自分たちの後ろにいる奴等の情報を売ってくれるのなら、見逃すのも考えようじゃないか」
「ほ、本当か!?」
「本当じゃ。お主らは別に、約束を反故にしたからって殺されるようなことはないんじゃろ? 大人しく情報を渡すのじゃ。そうすれば、罪には問わないでおいてやる」
「……わ、分かった! 言う! だから、助けてくれ!」
ルー爺は兵士たちに指示を出し、事情を聞いた。どうやら、こいつらに依頼をしたのも仲介の男だったらしい。だが、身分は高めの服を着ており、茶髪の男性だったそうだ。姫を連れてきたところで、仲介を寄越した何者かは姿を現す算段だったらしいが、こうなってはもう出てこないだろうとのことだった。
それだけ聞いて、賊も依頼主も、この場は見逃すことにした。
「なぁ、アンタ」
「?」
「ありがとうよ」
「いえ、当然のことをしただけです」
賊の人は、最後に礼を言って去って行った。依頼主の人たちも、少しこちらを疑い、伺いながらだったが、お礼を言って去って行った。
「ルー爺」
「なんじゃ?」
「彼らの所属、ローヌ王国みたいなんですが。後はお任せしてもいいですか?」
「なんじゃと? ……分かった。後はこっちで調べよう」
ルー爺は、やけに真剣な顔をして、引き受けてくれた。
そして、ルースネッタ国の王領にまで戻ると、そこにはサラ姫がいた。俺の姿を見てから、駆け寄ってくる。
「あの、あなたは一体?」
「琉也・鏑木って言います」
「琉也・鏑木?」
「サラ姫様。実は、こやつはワシが呼んだ異世界人なのです」
「あの、特別な素質を持つと言われている、異世界人ですか?」
「そう。その異世界人です。ワシではどうにもすることができず」
「そうだったの」
サラ姫は、俺の方に向き直ってくれた。
「ありがとう、鏑木さん。あなたのお陰で、こうして無事に助かりました」
「いえ、そんな。当然のことをしたまでです」
あまりにも綺麗なその姿に、見ていてドキドキする。失礼はないだろうか。
「また、改めてお礼に伺います。今は、先に帰って、無事を報告しようと思うのですけど、いいでしょうか」
「はい、構いません」
「早く戻った方がいい。兵士たちの指揮をしたあと、ワシも戻るよ」
サラ姫は、俺とルー爺の言葉を受け、ドレスの裾を持ち上げながら会釈をしてから、護衛の兵士たちと一緒に城へ戻っていった。
「なんじゃ、お主。こっちに付き合わんと、戻れば良かったろうに」
「いや、ちょっと、姫様と一緒にいるとドキドキしてしまって」
「ほっほ。惚れたか?」
「……まだ、そこまでは」
「そうか? まあ、よい。ならば少し、休んでいけ。召喚してからすぐにここまで連れてきてしまったからな」
「そうします」
後でルー爺が持ってきてくれたお茶を片手に、ルー爺の仕事が終わるのを待った。