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第3話 交渉<1>

 ルー爺の案内で、行政区、商業区、住宅区を抜ける。通っていて、レンガ造りの家が多い印象を持った。白く舗装された道路を通り抜け、石で作られた壁まで来ると、そこには兵士が大勢いた。だが、全員が立ち止まっている。彼らからは、これからどうすればいいのかが分からない、といった思いを感じ取れた。


 それを少しなだめて、ルー爺は話しかけてくる。


「姫様は、街道で人質にとられておる」


「街道で?」


「まあ、上から見てみれば分かるわい」


 はしごを使って壁を登り、街道を見下ろす。すると、本当に街道のど真ん中で、賊らしき人たちが綺麗に着飾っている女性を人質にしていた。目で情報を手に入れる。


 囚われている女性が、サラ・クリストル・ルースネッタ。綺麗な銀髪で、凜とした赤目で賊を睨み付けている。顔立ちは整っていて、髪型はツインテールで、薄い水色のドレスを着て着飾っていた。正直なところ、結構タイプな見た目だ。


 姫を捕らえている男が、バッツ・レガート。どうやら、賊を纏めている男のようだ。それ以外の賊は10人前後といったところか。


「この状況を、どうにかしないといけないのですか?」


「そうじゃ。奴らの要求は金貨500万枚と、ここから逃げるための馬車を人数分じゃ。現実的じゃない要求じゃが、これを達成しないと姫を返さないと言っておる。ワシはいったん言うことを聞くフリをしてから一網打尽にすればいいと王に進言したんじゃが、嘘でも要求は飲みたくないと言われての。その上でどうにかしないと打ち首と言われ、無理なら異世界人を呼べば良かろうとまで言われ、お主を呼ぶことになってしまったのじゃ」


「なるほど。そもそも、何でこんな状況になったんですか?」


「舞踏会の帰りを襲撃されたんじゃ。傍に馬車と死体が転がっておるじゃろう? 憎いことに、実力も確かなようじゃな」


 確かに、彼らの傍には誰も乗っていない馬車と、御者や護衛の兵士だった者と思われる死体が転がっていた。悲惨な光景だ。死体が馬車の影に隠れてくれていて、少しホッとした。


 どうにか、無傷で姫を取り返す。そのためには、どうすればいいか。何を思って相手を見れば、欲しい情報が手に入るか。


 そうだなぁ、相手がされて困ることを考えよう。何事も、そこからだ。

 そう考えて、レガートを見る。すると、このまま攻められることが、一番困ることだという情報が入ってきた。


 なぜなら、このまま要求が達成されないまま、要求の代わりに姫を無事に依頼主のところに準備ができ次第連れて行くことが目的。加えて、どんなことがあったとしても姫を傷つけようものなら自分たちや仲間たちが殺されてしまうため、姫を傷つけるつもりは誰一人としてない。ということが分かった。

 

 なんだ、そうなのか。やっぱりこの能力はかなり便利だ。

 だが、いざ兵士を突撃させようとすれば、相手がどういう出方になるのかは分からない。ここは、そこを突いて交渉をした方がいいだろう。


「ルー爺、ちょっと耳を貸して下さい」


「ん? 何じゃ?」


 ルー爺に、今見て分かったことを伝える。それを聞いて、天啓を得たかのように目を見開く。


「ほ、本当なのか!」


「本当です」


「本当に本当なんじゃな!?」


「こんなことで嘘は言いませんよ。俺としては、せっかく新しい人生を歩めるって時に一人で放り出されたり、殺されたりされることは避けたいですから。信じて下さい」


 こればかりは、言葉と目で訴えるしかない。信じてくれ、と思いながらルー爺を見る。


「わ、分かった。じゃがどうするつもりじゃ?」


 信じてくれた。ありがとうございます、と心の中で思いながら続ける。


「俺に喋らせて下さい」


「いけるのか?」


「はい」


「分かった。信じるぞ」


 ルー爺の許可を得て、声を張り上げた。

 

「レガートさん!」


「なんだ、お前」


 それは当然の疑問。だが、それに構っている暇はない。単刀直入に言う。


「あなたたちは、誰かに脅されて姫を人質にしていますよね?」


「な、なぜそれを!」


「あなた方を助ける方法があると言ったら、どうですか?」


「何!?」

 

「あなた方を助ける、あわよくばあなた方の仲間をも助ける方法があると言ったらどうですか? 姫を人質にする理由がなくなるんじゃないですか?」


 何を言っているのか分からない、といった様子だった。

 だが、無視できないとも感じている。それでいい。


「……一体、どうしようってんだ!」


 興味を持ってくれたようだ。なので、思っていることの続きを話す。


「簡単です。兵士たちが皆さんを追いかけますから、皆さんは逃げて下さい。そのまま、自分たちの依頼主のところまで。そうすれば、我々はあなた方を捕まえることなくそこまで辿り着くことができて、あなた方の仲間を人質にとっている一味に接触することができます!」


「な、なるほど」


 ルー爺は納得がいったようだった。だが、レガートは食らいつく。


「だが、それが終わったらどうせ牢獄行きだろう!」


「いいえ。協力して下されば、あなた方のことは見逃します」


「何!?」

 

「それは……」


 そこで、ルー爺はちょっと悩む素振りを見せた。これしか方法はないというのに。


「いいですか? ルー爺。姫を助けて、大本を叩くためです」


「……分かった」


 他の案が浮かばなかったらしい。了承してくれて良かった。


「本当に、全員牢獄行きにはしないんだろうな?」


「ああ、しない! ワシが約束する!」


 レガートの疑問に、ルー爺自身が答えてくれた。これで後は、彼らが受け入れてくれるだけで行ける。

 レガートは少し悩み、他の仲間の顔を見てから言った。


「分かった。あんたらに賭けるぜ」


 それなら、作戦実行だ。


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