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第25話 王の企み

  ◆

 

 夜になると、パーティーが開かれた。

 選抜大会に参加した選手全員が参加するパーティーで、ここで貴族の人たちは、騎士として口説きたいと思った人を口説くらしい。


 セリナはもう誰の騎士になるかを決めているので、参加する理由はないのだが、俺は貴族の方々に顔を見せた方がいいということで、参加が決定した。となると、自然に騎士としてセリナは付いてくることになる。


 というわけで、セリナはサラ姫直々に着飾られた。重い鎧は嫌だということだったので、装飾が施された革の鎧。さっき手に入れた勲章もつけて、青いマントを羽織っている。少し動きづらそうだったが、これは慣れてもらうしかない。


 一方の俺は、少し髪をセットした。何もしていない状態よりはマシだろうと、できるだけ清潔に手入れし、ポマードを使って整えたのだ。服も、カラーに変更はないが、気持ち装飾が増えて派手になっているものを着ている。


 それで、各貴族の方々への挨拶回りを行った。この世界でならワインは俺の年齢でも飲めるので、失礼に当たらない程度に飲みつつ巡る。一通り終わったところで、少し壁際に寄って愚痴をこぼした。


「疲れた」


「お疲れ様です、ご主人様」


 セリナはもう、騎士として付くようになってからはこの言葉使いになっている。百歩譲って2人きりのときならともかく、普段は人の目があるのだから、騎士としては敬語を使うのが普通とのことだった。おそらく、ルー爺のためにも礼儀や敬語は練習していたのだろう。まるでよどみなく喋っている。


「もう全員回った……よね?」


「回ったと思います。あとはまだお姿を見せておられない、サラ様とイリス様、それにソンブロン大臣様とクリストル王様の4名かと」


 よりによって、人を集めそうな4名がまだか。これは、長い戦いになりそうだ。

 

「あ、噂をすればですよ。サラ様とイリス様がお見えになりました」


 そちらを見ると、確かにサラ姫が見えていた。それも、とても美しくなったサラ姫だ。

 左右で結んである銀髪はいつもより艶やかに見える。ルビーのように赤い目は、フリードがいなくなったからか輝きがある。白いドレスには同じく銀の刺繍が施されており、頭には白のリボンをつけている。全体的によく似合っていた。綺麗だ。


 イリス様も、髪を長く伸ばしているところ以外は、服装はサラ姫と大体同じだ。かわいらしい顔も、パーティー用に着飾っている今だと整った顔だなという印象の方が先に来る。


 主にサラ姫の方に見とれていると、「ご主人様?」と不思議そうにセリナに訪ねられた。


「あ、ああ。何?」


「もしかして、お好きなんですか?」


「……本人には内緒で」


 隠していても、セリナにはどうせいつかバレそうなので、早めに打ち明ける。すると、「そうなんですねぇ」と、興味があるのかないのか、曖昧な返事が返ってきた。まあ、今はそれでいいとする。


「あら、鏑木くん」


 ジッとしていると、こちらから声をかけるべき相手なのに、向こうから来た。失礼の無いよう、気持ち前に出て出迎える。


「こんばんは、サラ様。イリス様」


「ええ、こんばんは。どうかしら、初めてのパーティーは」


「そりゃもう、緊張していますよ」


「そうですか? 上手くできていましたよ、挨拶回り」


 フォローのつもりだろうか、そんなことをセリナは言ってくれた。サラ姫は笑顔で「そう」と言いながら見つめてくれた。


「ところで、お父様がどこにおられるか、知らないかしら」


「クリストル王ですか? いえ、まだお見えになっていませんが」


「そう、変ね。もう顔を出している頃合いなのに」


 見れば、確かにルーデン王様がおられるのに、クリストル王様がおられないのは妙な気はした。


「まさか、また何か企んでいないでしょうね……」


 そうだとしたら、やめてほしいところではある。せっかくのパーティーが台無しだ。


「ご主人様、失礼ながら、ちょっと席を外しますね」


「ん? ああ、いいよ」


 トイレだろうか。直接は言わずに、セリナはトトトと小走りにどこかへ行った。それを見送ってから、サラ姫を安心させるために言う。


「まあ、何かあっても、見れば分かるから、警戒だけはしておくよ」


「そう? なら、とりあえずはいいか」


 そう言って、サラ姫はひとまず他の人の挨拶を受けることにしたみたいだ。声をかけられた方に笑顔を向ける。


 できれば、何事もなければいいけど。そう思いつつ、ワインを一口飲んだ。


  ◆


「お、王様、それは――」


「毒だ」


 クリストル王は、毒の入った小瓶から、毒液をワインへと垂らした。


「これを、お前が持って行くのだ。ソンブロン大臣」


「わ、私めがですか?」


「そうだ。断れば、どうなるか分かっていような?」


「し、しかし。それでは私はどうなるのですか! 毒殺だなんて」


「心配するな。ちゃんとかばってやるさ。ちゃんとやってくれればな。あやつが気付いても関係ない。とにかく飲ませるつもりで動け。いいな?」


「し、しかし。それなら、どうしてわざわざ私に毒を見せたのですか?」


「見せようが見せまいが変わらんからだ。おそらく、毒が入っていることなど見抜いてくるだろう。だが、誰が持ってきたものなのか、そこさえ押さえておけば、いくらでも代わりを持って行ける。お前からの奢りを、お前が何回注いでやっても違和感はあるまい? 何度避けられようが、何度でも注いでやれ。あまりにもグラスを割るなどして避けるようなら、不敬罪で追い出してやれ。いいな? ククク」


「そ、そんな……」


 悪知恵だけは回る王様のおそろしさに、思わず震えた。飲もうが飲むまいが、確実に鏑木様をここから追い出すつもりなのだ。


「では、頼んだぞ大臣。貴様の運命のためにもな」


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