第24話 信じさせてやる
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「や、やりおった!」
隣でルー爺が興奮している。俺も興奮している。きっちり、やってくれた!
フリードはすっかり消沈して、膝から崩れ落ちていた。思い出したかのように、クリストル王が座っている場所を見上げたが、クリストル王は背を向けて消えていく。それを見届けて、フリードは立ち上がり、よろよろとコロシアムを後にした。
閉会式では、セリナがクリストル王から勲章を授与された。いざ渡されるとなると、セリナは嬉しそうに勲章を眺めていた。もっとも、クリストル王本人は、心の内で不服そうな気持ちをずっと抱えていたが。
そして、その後が少し大変だった。セリナの元に、騎士として雇いたいと願う人たちが殺到したのだ。
「是非、ウチの騎士になってくれ!」
「いいえ、私の家の騎士になって下さい!」
「あ、あはは……」
勢いが凄く、流石にセリナも困り果てていた。だが、そこにルー爺が現れると、セリナはすぐにルー爺の方に駆けていく。助けが欲しかったのだろう。それにつられるように、他の人もルー爺の元へ行く。
「ルー爺殿! こんな子どもを隠していたなんて、酷いじゃありませんか!」
「その娘、ウチで預からせてもらえませんか? この通りです」
「いや、ははは。困ったの」
ルー爺はルー爺で、ひ孫がこんなに人気になってしまって、嬉しさ半分困惑半分といったところらしい。
そうやって、ルー爺が矢面に立ってくれている間に、セリナは少し休む。
「はぁ。いっぱい戦った後なんだから、手加減してほしいよ」
「それはそうだね。こっそり隠れる?」
「いいよ。ひいお爺ちゃんが頑張ってくれてるのに、私だけ逃げられないよ」
日陰で椅子に座り込みながら、ちらとルー爺の方を見やる。
「じゃあどうするの? 騎士の話は決めてくれたってこと?」
「それは――」
「あーっ!」
言いかけたところで、サラ姫の声が聞こえた。サラ姫は、一直線に駆けてきたかと思うと、セリナの肩を掴む。そして顔をずいと近づける。
「あなたね。フリードを倒したの! ほんと凄かったわ! スカッとした!」
「え、え?」
セリナは、なんで姫様がこんなに興奮しているのか分からない、といったふうだった。そりゃあそうだろう。サラ姫のことは伏せて、セリナにはフリードを倒してもらうようにお願いしたのだから。
「お礼を言わせてね。ありがとう」
「あ、はい。どういたしまして?」
なんでお礼を、といった感じだが、それをサラ姫は察知して話題をすぐに変える。
「それで、もう誰の騎士になるか決めたの? 教えて」
「私は……」
セリナは横目でチラと、ルー爺の方を見た。一旦騒ぎは落ち着いたようで、こちらにやってくるルー爺の姿が見える。休憩のために座り始めたルー爺を見て、セリナは意を決したように声をかけた。
「ねぇ、ひいお爺ちゃん」
「うん?」
「私、ひいお爺ちゃんの騎士になりたいよ?」
「わかっとるよ」
「それなら――」
「ダメじゃ」
あっさりと断られる。理由はさっきも聞いたが、セリナにはまだ言っていないはず。これから言うのだろう。
「お主みたいないい娘が、ワシのような老骨に人生を使うなぞ、ワシは耐えられんわい」
「人生を、自分で決めちゃダメ?」
「構わんよ? ただ、お主の人生を考えとる者が、お主一人だけだと思いなさんな」
「ひいお爺ちゃんの人生を考える人だって、一人じゃないもん」
「ワシの人生はもう終わりじゃ。何のいたずらか、ここまで生きてしもうただけじゃ。お主が考えることではないわい。しかし、お主には先がある。だから、ワシはお主の人生を考えるんじゃ」
どうやら、ルー爺はどうあっても曲がる気はないようだ。ああ言えばこう言う。
セリナの方は、どうにかして説得したそうだったが、反論する言葉がもう出てこないらしい。口を尖らせながら言った。
「……私、ひいお爺ちゃんのこと大好きなのに」
「ワシもじゃよ。お前が大好きじゃ」
ルー爺は、セリナの頭を軽く撫でた。「むう」と言いながら、セリナはそれを受け入れる。
「どうじゃ、鏑木くん」
不意に話が飛んできた。「何ですか?」と平静を装って答える。
「こやつのこと、お主の元で雇ってくれんか?」
「本当に俺でいいんですか?」
「お主を召喚してから数日じゃが、お主のことはしっかりと見てきた。お主は律儀な奴じゃ。お主のような目なんぞなくても、ワシはお主ならセリナを大事にしてくれると思うとるよ」
ずいぶん大きく出たな。
「……ずるいですね、そう言われたら大事にするしかないじゃないですか」
「そうかの? ほっほ」
どうやら、口説き文句だけは考えてきていたらしい。その視点でこの人を見てはいなかったと思い、少し能力の不便さを思い知る。
セリナはまだ何か考えていたようだったが、やがてこちらを向き、聞いてくる。
「ねぇ」
「ん?」
「アンタのこと、信じていいの?」
「ああ。信じさせてやるよ」
ルー爺には恩がある。その人にお願いと言われて理由もなく断るほどできてない人間になりたくはないし、騎士は欲しかった。この話は、大きく引き受けよう。
信じさせてやる、なんて大見得切ったことが少しおかしかったのか、セリナはちょっと笑顔になってから言った。
「分かった。じゃあ、私は今日から、アンタの騎士だから。よろしくお願いします!」
「ああ。よろしくお願いします」




