第18話 選抜大会前日<3>
道中、せっかく世話になったのだから、ドルドーに食べ物を驕った。ルー爺には、これから相談を持ちかけるので、それだけというのもなんなのでお土産を選んだ。
そうして帰ると、城門のところにセリナが立っていた。
まさか、こんなに早くにまた会うとは。門番との会話が聞こえてくる。
「だーかーらー。ひいお爺ちゃんに聞いてくれれば、私がひ孫だって分かるから、ひいお爺ちゃんに聞いて!」
「いえ、だから。許可のない者を城の中へ入れることはできませんって」
どうやら、城の中に入りたいようだ。ここは、恩を売る目的で行ってもいいか。門番に声をかける。
「どうしたのですか?」
「あ、鏑木様」
「え、さっきお偉いさんじゃないですか。まだ帰ってなかったんですか?」
セリナにちょっと疑問に思われるが、土産を買ってただけなのでスルーする。一応、ストーカー疑惑をかけられそうになったことがあるから、盗み聞きしていたことはバラさずに、「どうしたの?」から会話を始めることにした。
「聞いてくださいよ。お城に許可がない者は入れませんって言っているのに、聞いてくれないんです」
「だーかーらー。あなたたちの言うルー爺のひ孫なの、私は! ひいお爺ちゃんに聞いてくれれば許可なんてパッパと取れるんだから!」
また言い合いが始まった。だが、これだけ傍で聞ければ、俺からアクションを起こせる。
「俺が聞いてきましょうか?」
「え! ホントですか!?」
「あ、本当ですか?」
二人が一斉にこちらを見た。面倒な言い合いから逃れられそうなのが、よほど嬉しいらしい。
「はい、いいですよ。大した手間じゃないので」
「ありがとう! あなた、いいところがあるじゃないですか!」
「ありがとうございます!」
すっかり、セリナもまるで身内かのような反応を示した。まだお互い、名前も知らないんだけどな。
ひとまず門番を納得させるために、ルー爺のところに行くか。
「じゃあ、ドルドー。今日はここまででいいよ」
「は! 城内で何かあった場合でも、ご遠慮なく声をおかけ下さい!」
ドルドーと別れて、ルー爺の部屋に行く。
「お、どうした? 今日は何の用じゃ?」
「外にひ孫さんが来ているみたいですけど、入れなくて困っているみたいです」
「ああ、来たのか! それならほれ、ちょっと待っておれ」
すぐに本棚から書類を取り出し、ササッと羽根ペンで一筆したためた。
「これを渡せば、門番も入れてくれるはずじゃ」
「ありがとう、ルー爺。あと、後でその書類、俺にも教えて下さい。ちなみに、これはお土産です」
「ほっほ。分かった分かった。さぁ、連れてきてくれ。その方が話が早かろう」
書類を持って、門番の元へ行く。そして、セリナをルー爺の元へと連れてきた。
「ひいお爺ちゃん、来たよ! 変な人も付いてきたけど」
「変な人、ではない。異世界人じゃ」
「へ? じゃあ、ひいお爺ちゃんが召喚した人ってこと?」
どうやら、召喚魔法の話は聞いたことがあるみたいだ。「ふーん」と言いながら眺めてくる。
「これ、挨拶せんかい」
「はーい。私はセリナ・ルーマンと言います。よろしくお願いします」
「初めまして。琉也・鏑木です。目で見るだけで、相手のことが分かる能力を持ってます」
「へ? それ、なんですか?」
「実はな――」
ルー爺に説明役を頼んだ。これによって、異世界人の素質としてそういう能力が芽生えたということが分かってもらえた。そして、ストーカーしかけてしまった理由を明かす。
「実は、フリード王子に勝てる人を探していまして。あの参加者たちの中で、あなたなら才能があるし可能性があることが見て分かったんですよ。だから、声をかけたくなっちゃったんです。ごめんなさい」
「へえ、私にそんな才能が、ねえ」
体を捻りながら、自分の体を見る。どうやら、自分の才能に興味があるらしい。
「ところで、なんでフリード王子を倒したいのですか?」
「ワシも気になるの。なぜじゃ?」
至極真っ当な疑問をぶつけられ、ちょっと答えるかどうかを悩む。
「誰にも言わないと約束してくれますか?」
「言わぬ」「言いません」
目で見ながら質問をする。決して嘘をついているわけではなさそうだった。ついでに、王様に不満を持っていることも分かった。
なので、この二人なら問題はなさそうだと踏む。
「いずれ王様を失脚させたいから、です」
「へ?」
「……さては、サラ姫と組んでおるな? こりゃあまた、大きく出たのう」
突然の告白に、セリナは流石にきょとんとしたが、ルー爺は髭を撫でながら感想を言った。どうやら、ルー爺は反対するつもりがないらしい。そして、このことを言ってからも、誰にも言わないという約束を守ってくれるのは変わらないと確認できた。
「で、どうでしょうか。引き受けてもらえますか?」
セリナはちょっと考えるふうに腕を組んだが、やがて、笑顔で答える。
「いいですよ。前々から、ひいお爺ちゃんをいじめてる王様は気にくわなかったので、引き受けます。けど、その代わり」
セリナは、右手をこちらに差し出して言う。
「報酬! 弾んで下さいね」
「あ、ああ。分かりました」
「じゃ、決まり! あ、あと。もう敬語はいいですよ、鏑木さん」
「だったら、こっちからもいいよ。敬語じゃなくて」
「え、そうなの? ありがとう。ねぇ、それで私に何の才能があるの? そこまで分かる?」
「……剣の才能はもちろんだけど、魔法の才能もかなりあるよ」
「へ? 魔法も?」
「魔法もじゃと!?」
俺の言葉に、二人とも驚いているようだ。
「私、剣の道に進む気だったから、魔法は試したことなかったなぁ」
魔法が書かれた本の本棚を見ながら、セリナはそう言った。その様子を見て、ルー爺が声をかける。
「セリナ、どうじゃ? 魔法を練習してみんか?」
「練習って、今から?」
「おお。初級なら練習せんでもすぐに使えるようになる。上級になると、話は変わるがの」
「そんな定義があること自体知らないよ」
「今から知っていけばいいわい。そうじゃ! 鏑木くんと一緒に学ぶといい。彼も学び初めじゃ」
「ええ!? ひいお爺ちゃん、本気?」
その点だけは、ちょっと遠慮気味になった。誰かと一緒に学ぶということをしたことがないみたいだ。
だが、心配はいらん、というふうに声圧を強めてルー爺は言う。
「本気も本気じゃ。流石に、大会本番に上級魔法は引っ提げられんじゃろうが、初級魔法を覚えるだけでもかなり変わるじゃろうて。才能があるのなら、初級で上級に引けをとらないなんてこともできるからの」
「そ、そうなんだ」
熱量に押されて、セリナは考え始める。だが、すぐに割り切ったように言う。
「うーん、まあ、今よりももっと強くなれるなら、いいか」
そう言って、ルー爺の方を向く。
「分かったよ、ひいお爺ちゃん。魔法の練習をしてみるよ」
「おお! そうか、そうか。セリナならそう言ってくれると信じておったわい!」
そう言ってルー爺は歩き始めた。
「もう、調子いいんだから」
セリナはとっととルー爺に付いて行く。俺も、後から付いて行った。




