第16話 選抜大会前日<1>
この一週間は、仕事をしながら生活をしていた。
あるときはコロシアム周辺に出向いて選手探ししたり。あるときはルー爺のところに行って魔法を研究したり。
ルー爺のところで、徹夜で仕事をしたこともあったっけ。
この世界での数少ない味方の一人だから、ルー爺のために一肌脱いだんだ。「お主、良い奴じゃな」って言われて嬉しかったのを覚えている。
そりゃあ、ルー爺やサラ姫にとっては良い人で居たいよ、俺は。
そしてとうとう、選抜大会の前日。この日もまた、選抜大会の選手が集まっている場所へと向かった。
そこでは、選手たちがお互いをねぎらい合いながら話し込んでいたり、訓練をしたりしていた。
「前日になっても、あんまり殺伐としてはいないのですね」
「どちらかと言えば、貴族の方々へのアピール活動をする大会ですからね。負けても勝っても、自分のアピールができれば問題ないという方々がかなり多いのですよ」
サラ姫が連れてきて下さった騎士、ドルドーはそう説明してくれた。
「しかし、鏑木様。今日も探されるのですか? 熱心ですね」
「前日だからね。今まで出会ってない人に出会える可能性は高いと思う。けど、ここいらには目立って強い人はいなさそうだね」
「では、また色々回ってみましょう。今日でしたら、一人くらいは鏑木様のお眼鏡にかなうお方がおられるかもしれません」
「そうだね。まだ時間はあるんだし、のんびり見つけよう」
「お付き合いいたしますよ」
その言葉は心強かった。いつ、どこで何が起こるかは分からないから。
しばらく、参加者を見て回った。そこで、誰かが上げた声が耳に入る。
「おお、ルーデン王様だ!」
「何ですって!?」
その声に、ドルドーが過剰に反応する。
「どなたですか?」
「隣国の王様ですよ。人格者だと有名な方です。おそらく、コロシアムの様子を見に来られたのだと思いますが」
「おや?」
その、ルーデン王だろう。こちらを見るやいなや、お付きの騎士と共にこちらにやってきた。短めの金髪に、落ち着いた青色の服を身に纏っている。王様らしく、金の装飾がこれでもかといった具合に施されていて、別世界の住人だなと思わせられた。
「見ない顔だね。君は?」
「琉也・鏑木と申します」
「リュウヤ・カブラキ? 変わった名前だ」
不思議そうに、ルーデン王は俺の名前を反芻した。言っても分かってもらえるか分からないが、説明しないのも不思議な気がしたので、説明を入れる。
「実は、異世界から召喚された異世界人なのです」
「ああ、例の召喚魔法か。なるほど、通りで」
どうやら、召喚魔法と言えば他国相手でもある程度は通じるらしい。その便利さには感謝だな。
ルーデン王は、右手を胸の前に持ってきて言う。
「ロジェ・ルーデン・クーゲルンと申します。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
礼を失さぬよう、深々と礼をする。ドルドーも俺に習った。
「もしや、あなたは選抜大会に出られるのですか?」
「いえ、騎士を選ぼうと思っております」
「ほほう! それは良い時に来られましたな。選手はもう、みな集まって訓練に励んでいると聞いております。今のうちに、色々見ておくといいでしょう」
「ありがとうございます」
「いえいえ。それでは、私も用事があるので、これで」
「はい。お疲れ様です」
ルーデン王は、温和な雰囲気のまま、その場を去った。クリストル王よりも、物腰が柔らかそうで、隣国が羨ましい。さて、それはそれとして。
「選手がもうみんな集まっているなら、見つかるにしても見つからないにしても、時間の問題かな」
「それでは、次はどこに行かれますか?」
「そうですね。あっちに――」
顔をぐるりと回そうと思ったとき、突然、凄まじい力を読み取れたので、顔を止めた。
その娘は、齢にして自分と同じくらいだろうか。黒髪のポニーテールに、革鎧に赤い服、茶色のブーツ。帯剣もしている。
だが、注目するべきはその才能だった。
今、目の力によって様々な者の才能を可視化しており、才能の質や高さが身に纏うオーラの大きさで分かるようになっている。
少女のオーラは誰よりも大きい。魔法の才能も、剣術の才能も、あの少女は桁違いだった。
名前は――セリナ・ルーマン! ルー爺と同じ名前だ!
「どうされました?」
「凄い才能を感じる人を見つけました」
「本当ですか?」
ドルドーは俺が顔を止めたのを気にして声をかけてきた。ドルドーも同じ方向を見る。
「あの人ですか? ただの少女に見えますが」
「とんでもない。凄まじい素質を持っていますよ」
セリナは、どんどん歩いて離れていく。それを追いかけるように、自分も足を速める。
「あの、鏑木様。どうされるのですか?」
「声をかけようかと」
「どのように? お考えは?」
「……あー」
いきなりルー爺の名前を出しても、警戒されるのは目に見えていた。
ここはやはり、どこかで偶然を装う方がいいだろうか。
そう思っていると、ドルドーが進言してくる。
「鏑木様。ここはいちど、退いた方がよろしいかと。このままでは、ストーカーになってしまいます」
「そうだね。ここはいちど――」
「ねぇ、あなたたち」
だが、やり取りをしていたら、なんと少女の方から声をかけてきた。




