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第11話 婚約

  ◆


 マイハニーの部屋を出て、王様の部屋の扉をノックする。


「誰だ?」


「私、フリードでございます」


「入れ」


 扉を開ける。その部屋は、豪華絢爛な家具で統一されており、重々しい雰囲気に満ちていた。

 実に趣味がいい。私も王として部屋を持つなら、これくらい飾りたいものだ。


「改めて部屋に呼ばれるなんて、どのようなご用件でしょうか」


「フ、ちょうどよいと思ってな。もう婚約したかろう?」


 その言葉に、思わず笑みが浮かぶ。どうやら、良いタイミングで訪れることができたようだ。

 王様の方から、その言葉を聞くことができるとは。


「良いのですか? タイミングとしてはまだ、早いと思いますが」


「ワシが許す。あれはお前の嫁だ。あれにも文句は言わせん」


 マイエンジェルをあれ呼ばわり。そこだけは解せないが、やはり王様はとても理解のあるお方だ。

 マドモアゼルは美しい。あの美しさは、私に相応しいものだ。私の妻になることこそが、当然の道理というもの。


「しかし、ひとつ懸念があります」


「なんだ? 申してみよ」


「先ほどマイハニーの部屋に行きましたら、異世界人がおりました」


 その言葉に、眉をピクリと動かした。やはり、無視できなさそうだ。


「関係ない。今すぐここに、あれに支度をさせて連れてこい。早速、婚姻の手続きをする」


「はい、分かりました」


 しかし、そこはやはり王様だ。強引に事を進めようとなされる。流石だ。

 部屋を出て、再びマドモアゼルの元へと向かう。口角がつり上がっているのが、自分でも分かった。


  ◆


 再び、部屋の扉をノックする音が聞こえた。嫌な予感はしつつも、サラ姫は「どなた?」と声をかける。


「私だよ、マイエンジェル」


 今度はマイエンジェルか。一体、いくつ呼び方があるんだ。


「入っていいわ」


 許可を得て、今度はゆっくりと扉を開けて入ってくる。扉は、開け放たれたままだ。

 

「今度は何の用かしら?」


「これから、一緒に教会へ行こう。君のお父上も待っている」


 その言葉に、サラ姫の表情が険しくなった。俺も思わず固まる。中世ヨーロッパの教会といえば、婚姻の手続きを管理するところじゃないか!


「さぁ、行こう。愛しの姫君よ。私は君を妻として認める。どうか、一緒に来ておくれ」


「私は、認めないわ。あなたが夫だなんて」


 サラ姫は、当然というべきか拒絶を示した。


「そんなことを言わないで、さあ、来るんだ!」


 だが、そんなことはお構いなしに、腕を掴んで連れて行こうとした。それはないだろうと思い、俺はフリードの腕を掴む。


「何だ、お前」


「失礼ですが、嫌がっておられます。無理矢理はよくないかと」


「お前には関係ないだろう」


「関係ないからという理由は、見過ごす理由にはなりません」


 口元がピクリと動いた。気に障ったのだろう。


「彼女の父君が結婚を認めて下さるんだ。君がどう言おうと、この結果は覆らない」


「じゃあ、私がこう言えば覆るかしら?」


 サラ姫は、フリードの腕を振り払い、俺の左腕に両手を絡ませて言った。


「私は、この人を夫として認めます」


「え!?」


「な!?」


 流石にそう来ると思わず、固まった。柔らかい感触が、左腕に伝わってくる。動悸がしてきた。


「結婚は、私たちに同意があるかどうか。重要なのはそこでしょ?」


 そうなのか。中世ヨーロッパは政略結婚まみれと聞いたことがあるが、ここではそうでもないらしい。

 というか、それが事実なら政略結婚を押し進めようとすること自体がパワハラじゃないか。流石だなあの王様。


「し、しかしそいつに君に気があるとは限らないじゃないか!」


「ねぇ、鏑木くん。あなたは、私が妻になるって言ったら、認めてくれる?」


 素敵な顔立ち。素敵な性格。素敵な香り。断る理由がない。


「そりゃあ、もちろん。でも、いいんですか?」


「今ここでフリードとあなたのどちらかを選ぶなら、あなた以外にないわ。キスでもしてあげましょうか?」


「い、いやいやそこまでは――」


「ふざけるな!」


 やり取りを見ていたフリードは、激高してまだサラ姫の腕を掴む。


「さぁ、来い! 来るんだ!」


「嫌、離して!」


 どうするか。このままではフリードは止まらない。能力を使うしかないか。

 どれどれ、何を言われたら困ってくれるのかな……?


「ん?」


 探ってみると、意外な事実が発覚したので、フリードに改めて声をかける。


「フリードさん」

 

「何だ!?」


「どうしたの?」


「あなた、だったんですね。賊をサラ姫にけしかけたのは」


「な――」


「はぁ!?」


 さっきよりも、フリードは力強く握っていたはずだが、それでも、サラ姫は本当に無理矢理フリードの手から離れる。


「もう、無理! もう無理だわあなた! ふざけないでよ!」


「な、何を言っている! 出任せを――」


「俺は目で見れば相手のことが分かる能力を持っています。あなたの計画は、部下を経由して賊に姫を連れてくるようお願いをする。そして、姫を連れて行こうとする者たちと戦いを演じて、姫を助けて信用を勝ち取る作戦だったんですね。わざと遅れて出発した上、格好いい登場の仕方を考えまくっていたら、俺に先を越されたと。なんとも間抜けな話ですね」


「部下ならあなたに着いて来ているはずよね! 昨日兵士たちが出会っているはずだし、彼らの証言もあるから他に誰が関わっていたのかも分かる。あのあと自国に帰っていたとしても、時間をかければ確認できないことないわ。聞いてきてあげましょうか?」


「――ッ!」


 流石に、言葉が出なくなったようだ。恨めしげにこっちを見ている。


「こうしましょう、フリードさん。これ以上、サラ姫に求婚をしないで下さい。そうすれば、確認する理由がないので確認しません」


「な、何だと?」


「もし諦めないのであれば、仕方ありません。証言を求めて、事実確認を行いましょう。事実であれば流石に、結婚は破談でしょうね。自分の作戦とはいえ、姫を賊に襲わせたんですから。次いで、あなたの評判も落ちてしまうことでしょう。どうしますか?」


「な――」


 これで、フリードはサラ姫に求婚できなくなる。自業自得だ。

 そのことに気付いているだろうに、フリードは視線をすぐに外そうとはしなかった。だが、やがて背中を向ける。

 

「くそ! 覚えてろよ!」


 扉を開けて去って行った。足音から察するに、一度王様の元へと行くのだろう。それを聞き届けてから、小声で会話を始める。


「やっと下がったね」


「ええ! ありがとう、あなた最高よ!」


 両手を掴んで、うきうきな笑顔をこちらに向けてくる。すっごくかわいい。


「あの、ところで、なんですけど」


「何かしら?」


「さっきの妻になる云々は、冗談ですよね」


「ええ。その場しのぎよ。でも――」


 そのあと、何か、本当に小さな声で言っていたようだが、聞こえなかった。


「? 何ですか?」


「ううん。何でもないわ」

 

 疑問に対して、彼女はいたずらっぽく、笑ってそう言った。


 

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