5 普通にピンチです③
「蒼月のルナ……」
俺はその名前を頭の中で反芻する。目の前にいる少女が、ただの人間ではないことをその名が物語っているようだった。だが、今はそんなことを考えている余裕はない。状況は一触即発の緊張感に包まれていた。
「……行くわよ」
ルナが静かに言葉を紡ぎ出すと、その声に応えるかのように、周囲の空気がピンと張り詰めた。彼女の手が微かに動き、何かを呼び起こすような動作を見せる。
一瞬の静寂。次の瞬間、ルナが一気に動き出した。彼女の手から放たれた光が、鋭い刃のように敵の女性に向かって飛んでいく。
だが、敵の女性はその攻撃を無表情のまま受け止めると、冷たい目でルナを見つめ、手を軽く振るだけでそれを弾き返した。その動きには一切の躊躇がなく、まるで機械のような正確さがあった。
「……」
女性は無言のまま手を掲げると、周囲の空気が重く沈んだ。次の瞬間、足元から植物のような蔓が現れ、ルナに向かって伸びてくる。
「甘いわ」
ルナは素早く後ろに飛び退き、蔓を避けると同時に、再び詠唱を始めた。彼女の手から放たれた光が再び女性に向かって放たれるが、敵の女性はそれに対して冷静に反応し、影を操るようにしてその光を遮った。
「やはり、強い……」
俺はその場で震えながら、二人の戦いを見守るしかなかった。どちらも一歩も譲らず、互いの力をぶつけ合う戦いは、次第に激しさを増していく。
「一体……どうなってるんだ……?」
俺は無力さを痛感しながら、ただその光景を見つめることしかできなかった。二人の戦いは次第に激しさを増し、周囲の景色が変わり始める。木々が倒れ、地面が裂け、まるでこの場所全体が戦場と化していく。
二人の戦いは激しさを増し、周囲の景色がどんどん変わっていく。木々が倒れ、地面が裂け、空気そのものが揺れ動いているかのようだ。俺はただその光景を見つめ、息を呑むことしかできなかった。
「すごい……」
戦いの中、ルナは必死に敵の攻撃をかわし、反撃を続けているが、次第に追い詰められているように見えた。相手の女性は無表情のまま、冷徹な動きでルナを追い詰めていく。
「ルナ、危ない……!」
心の中でそう叫んだ瞬間、俺は何も考えずに体を動かしていた。彼女を助けなければ——そんな思いだけが、俺の全身を突き動かしていた。
「なんで俺が……」
理由なんてわからない。ただ、目の前で彼女が倒れるのを見るわけにはいかなかった。
敵の女性が再び蔓を操り、ルナを捕らえようとしたその瞬間、俺は無我夢中で彼女の前に飛び込んだ。
「うおっ……!」
一瞬の痛みが走る。次の瞬間、俺の視界は真っ赤に染まっていた。腹部に激しい衝撃を感じ、力が抜けていく。
「ぐっ……」
視線を下に向けると、俺のお腹には大きな穴が開いていた。血が滲み出し、体中が痺れていく。何かが俺を吹き飛ばし、遠くへと投げ飛ばされた。
「な、なんで……」
地面に激しく叩きつけられ、体が動かない。痛みが体を蝕み、視界がぼやけていく。耳鳴りがして、周囲の音が遠ざかっていくように感じた。
「何をやってるのよ、バカ……!」
ルナの声がかすかに聞こえた。彼女は驚きと怒りが混じった表情で俺を見つめている。だが、その瞬間、彼女もまた動揺し、敵の隙を突かれる。
「ルナ……」
彼女が次の瞬間、強力な攻撃を受け、その場に倒れ込んだ。動揺した彼女の隙を見逃さなかった敵の攻撃が直撃し、ルナは地面に崩れ落ちた。
「こんなところで……」
俺は意識が遠のいていく中で、彼女が倒れる姿を見て、どうしようもない絶望感に襲われた。これで終わりなのか—そう思った瞬間、視界が完全に暗転し、意識が途切れた。