3 普通にピンチです①
黒木の視点
授業が終わると、俺はいつものように教室を後にした。友人の山田が何か言ってきたけど、今日は何もかもが頭に入ってこない。放課後に何か誘われたような気もするが、適当に返事をしてその場を離れた。
「結局、あの子は一体何だったんだ……」
あの不思議な雰囲気を持つ少女。頭の中で何度も彼女の姿を思い出す。普通じゃない出会いと、普通じゃない現象。だけど、あれが何なのか考えるたびに、頭の中が混乱する。
家に着くと、俺は制服を脱いでソファに倒れ込んだ。いつもなら、この時間は夕食のことを考えるけど、今日はそれどころじゃない。
「あの場所に戻って、確かめるべきか……?」
自問自答するが、答えは出ない。ただ、心の中には不安と好奇心が渦巻いている。
「でも……やっぱり、気になるよな……」
結局、俺は夕食もそこそこに済ませ、夜が更けるのを待つことにした。いつもなら、ゲームをするか、動画を見て過ごすところだが、今日は全く集中できない。
時計の針が10時を指すころ、ついに我慢できなくなって、再びあの場所に向かうことを決意した。
靴を履き、玄関を出ると、蒼い月明かりが夜の冷たい空気を照らしていた。街は静まり返り、昼間の喧騒が嘘のように静かだ。
再び、あの裏道へと足を運ぶ。あの場所で、本当に何が起こったのか、自分の目で確かめるために。
昼間の光景とは打って変わって、周囲は暗く、風が冷たく感じる。街灯の光も心なしか弱々しく、影が長く伸びている。
「確か、ここだったよな……」
歩みを進めるにつれ、記憶の中の景色と現実が重なり合う。昼間、あの少女が降りてきた場所にたどり着くと、ふと足が止まった。周囲は静まり返り、風の音すら聞こえない。
「何もない、か……」
自分の胸に去来する安堵感と、どこか失望したような感情に気づきながら、俺は辺りを見回す。しかし、目に映るのはただの裏道だ。
「やっぱり、夢だったのか……?」
そう思いながらも、どうしてもあの出来事が現実だと思えずにいる。頭の中で何度も彼女の姿を思い出すが、それでも彼女の存在は現実感を持たない。
その時だった——背後から、まるで空気が揺れるような音が聞こえた。
「……誰か、いるのか?」
振り返ると、そこには女の人が立っていた。彼女とはまた異なる、どこか不気味な雰囲気を纏った女性だ。暗い緑色の髪が月明かりに照らされ、彼女の瞳がこちらを見つめている。
「貴方だれ?」
その声は冷たく、そして不気味な響きを持っていた。昼間とは違う、得体の知れない恐怖が体を駆け巡る。
「いや、ただ……」
言い訳をする暇もなく、彼女はゆっくりと歩み寄ってくる。逃げ出したい気持ちに駆られたが、足がすくんで動かない。
「まあいいわ。貴方を苗床にしてあげる」
彼女の言葉の意味が理解できないまま、何かが体を覆い始めた。まるで重力が増したかのように、体が思うように動かなくなる。
「一体、何が……!」
その瞬間、昼間の出来事が脳裏にフラッシュバックする。あの少女が現れた時と同じように、何かが自分の周囲で動き出している気がした。しかし、今回はそれとは異なる、より強烈な何かだ。
「このままじゃ……やられる……!」
必死に足を動かそうとするが、体が言うことを聞かない。目の前の女性が不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。