表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/144

28、狩りの終わり

『対策本部! 援護射撃を開始! それと、補給ボックス射出です!』


 倭子さんの赤い機体が、器用に信号弾を撃ち分け、俺たちの後ろ側に青い煙、向かってくる蟲達の方に赤い煙が立ち上る。

 たちまち、土ぼこりを上げて、石や結晶爆弾が降り注ぎ、敵の増援を押しとどめた。

 

『支援組の皆さん! 足りない資材の補給を! 終わり次第、加勢お願いします!』


 指示を叫びつつパワードスーツがギルドマスターたちと合流し、森のヒトを取り囲む。 

「せぇいっ!」


 森のヒトに向けて、最初に切りかかったのは山本さんだった。

 足でグレイブを掴み、空を滑るように滑空しながら、深紅の刃を叩きつける。

 あの技、足でもできるのかよ!?


「――――!」


 だが、その刃は掲げた杖でさえぎられ、衝撃波も体を避けて通った。

 奇妙な仮面をつけたそいつが、顔を山本さんに向けた瞬間。


「くおっ!」


 巻きついていたムカデが。鞭のように唸って襲い掛かる。しかも、薄い羽根が広がって刃のように空間を薙いだ。

 その一撃を、何とか滑空して避けるタカの模造人モックレイス


「いただきっ!」


 踏み込み、ハンマーで横殴りするクリスさんの一撃。

 それを遮ったのは、黒光りする竹のような植物。


「こ、硬装竹!」


 しおりちゃんの専売特許のようなそれが、強烈な結晶武器を完全に遮る。

 しかも、


「おおっとあぶないっ!」


 軽口を叩きながら、必死に下がるキツネの模造人。彼女のいた場所を、竹の槍が薙ぎ払っていた。

 生やすだけじゃなく、その場で加工もできるとか、完全にしおりちゃんの能力の上位互換じゃないか!


『みなさん離れて!』


 滑り込むように突進する赤い甲冑。腰だめにしたポーズから、片手の銃を立て続けに打ち込む。

 敵が守りに生やした竹が粉砕され、その奥で伸びてくるのは、膨れたつぼみをびっしり付けた危険な植物。


「カホウセン!? あんなもんまで!?」


 耳が痛くなるような破裂音、地面や装甲を激しく衝撃が、俺の全身を痺れさせる。

 ギルドマスターそれぞれが受け、避け、上空でかわし、まったく傷一つなく攻撃を再開する。

 そんな光景を見るしかない俺たちの後に、重い音を立てて、クッション材に包まれた補給物資が降ってきた。


「結晶の装填忘れんな! それと毒玉は一人三個! 疲れてるヤツ奴は水と軽食な!」


 俺は共用のリローダーを十個と、毒玉、それから水を一本貰って、その場で身支度を済ませる。

 続々と戦線へ復帰していく連中を追って、俺もエネミーの迎撃方向へ向かう。

 その間にも森のヒトは杖を振り、次々と植物を生やし、身に着けている蟲を操って、攻撃を続けている。

 親方のごつい武器を腹に喰らい、クリスさんのハンマーにぶん殴られ、山本さんの斬撃を喰らう。

 それでも、大きく身震いした足元から、無数のねじれた幹のようなものを生やし、何かを射出した。


「っがぁっ! ってえなこんちくしょうが!」


 親方の鎧にびっしりと刺さる、ねじれたコルク抜きのような代物。多分、あれも植物でそういう性質なんだろうけど。 


「つまり、あんなのが獄層には、うようよしてるってことかよ!」


 とても俺が手を出せるような戦いじゃない。

 その光景を振り切って、俺は援護射撃で動きが鈍ったエネミーに近づく。


「うらあっ!」


 棍を叩きつけてアリの頭を砕き、振り回して飛び交うムカデの翼ごと引き裂いて捨てる。

 そのまま、さっきの盾持ちのヒトに走り寄った。


「すみません! オフェンスやれます!」

「今度は突出しないでよ! 俺らは雑魚を、親方たちに近づけないようにすりゃいい!」

「了解です!」


 そこに補給を終えた連中が集まり、盾持ちのヒトを安全地帯にしながら、向かってくる蟲や動物を叩き落とす。

 その間にも、空が光を失い、視界が悪くなっていく。いくら俺たちが模造人モックレイスだからって、夜闇の中ではそれなりに不利になる。

 そんな動揺を悟ったように、森のヒトがギルマス達から距離を取り、


『――――――――――――!』


 どうにも形容できない、音を越えた何かを解き放つ。

 背後の森と、ようやく仕留められたクモの背中が、ざわっと揺れた。

 何かが鈍く破裂し、羽音を立てて飛び立つ。

 暗くなりかけた空に、大きな翼が、無数に飛び交い始めた。


『いけない! ハネブトンです! 火炎弾をできるだけ遠くへ放って!』


 考えている暇はない。

 荷物入れから一個取り出し、ヒトのいない方へ――。


「ひぎゃああっ!?」


 空の何かが、一気に舞い降りて、ばくりと飲み込んだ。

 それは一瞬のうちに丸まり、とげの生えたサボテンに変わる。

 あれって、しおりちゃんが汚物処理に使ってたやつか!

 遅れて、投げだした火炎弾に空の黒い影が舞い降り、炎を上げながら燃え散っていく。


『捕食したハネブトンは、てっぺんの中心を叩いてください! 早ければ助けられます!』


 指示を飛ばしながら、赤い機体が銃撃をかましつつ、ショルダータックルで森のヒトを吹き飛ばす。

 俺は周囲を見回し、膨れ上がったサボテンをにらんだ。

 この中に、仲間の誰かが。


「この、じゃまあっ!」


 とげを打ち払って吹き飛ばし、表面を駆け上がって大きく飛ぶ。

 丸いサボテン型のてっぺんに向けて、棍を叩きつける。


「うりゃあっ!」


 弾ける一撃に球形の拘束がゆるみ、もう一発でぐしゃりとつぶれる。

 飛び降りて、割れ目から手を突っ込み、中のヒトを引っ張り出す。


「大丈夫か!?」


 幸いなことに、中のヒトにはまだ息があった。それにしても、こんなもんまで操ってくるのかアイツは。

 ハネブトンの襲撃に、援護部隊の被害が増大していく。そうでなくても、森からの増援は、援護射撃を入れても抑えきれそうもない。

 その時、赤い機体から指示が飛んだ。


『援護部隊は全員後退! 広域焼夷弾の準備をお願いします!』

「いいのかよ、倭子ちゃん!? 敵どころか森まで焼けちまうぞ!?」

「資源よりみんなの命が大事、だよね!」

「聞いての通りです! 皆さん下がって!」


 マスターたちの指示に、各班のリーダーと経験者が、負傷者たちとともに下がる。

 それを確認して、倭子さんは告げた。


『その前に、二分ください。その間に仕留められなければ、火炎弾をお願いします』

「……なるほど、そういう腹積もりね」

「なんでえ、やっぱりやる気だったんじゃねえか」

「ここまでやっておいて、成果無しはやはり悔しいですからね」


 互いが意思の確認をしている間にも、森のヒトの周囲には蟲や植物が集まり、たった四人だけの敵に圧をかけていく。

 無茶、無理、無謀、そう思いかけた。


『わたしの牽制を合図に、攻撃をお願いします!』

「まっかせて!」

「仕留めにかかるぞ、山ちゃん!」

「いつでもどうぞ!」 


 何かを察した森のヒトが、杖を四人のいるほうへ突きつける。一斉に、蟲や動物が動き出して、意志ある波のように襲い掛かる。


『外部装甲、パージ! 広域拡散結晶榴弾、発射!』


 倭子さんを中心に、光が爆ぜ割れた。

 色とりどりの輝きが扇状に飛び散り、森のヒトと押し寄せるエネミーを飲み込む。

 粉みじんになる蟲達と、黒い竹がすべてを遮る森のヒト。


「いい加減、それも見飽きたんだよね!」


 叩きつけられるハンマー。異音を響かせて砕ける竹とヘッドの部分。

 ここまでの酷使に耐え切れず、丸腰になったクリスさんに、突きこまれる敵の杖。


「せいやあっ!」


 抜き放った腰の二刀で、杖を受け切るキツネ。その柄頭が結合し、白い光を帯びた双頭の剣に変わる。

 踊るように体に沿わせ、敵の体を切り刻み、手にしていた杖を二つに断ち切る。


「いい加減、倒れろやぁっ!」


 押された敵の背後に、小山のように立ちふさがる親方。その全身を、無数の蔓が縛り上げ、両手両足を引き裂こうとする。

 あのメンツで、最も機動力のない親方をくぎ付けにして、戦力を削ぐ。そういう腹づもりだったのかもしれない。

 でも、親方は笑っていた。


「あんがとよ、おかげでっ」


 腕に装着していた筒の尻を、地面に突き刺し、


「ふんばりが効きやすくなったぜっ!」


 爆音を上げて、両腕から解き放たれる筒。その先端が緑のヒトの胴に突き刺さり、くの字にへし曲げながら、空高く打ち上げた。

 

「山ちゃん! やったれ!」


 親方が見上げる先、俺たちがつられて顔を上げた先に、そのヒトは到達していた。

 翼を広げ、足でつかんだ長刀グレイブを、さらに頭上へ跳ね上げる。


「『かぎろい』――」


 森のヒトはそれでも、何かを命ずるように片腕を突き付け、


「――天羽々斬(あめのはばきり)!」


 すり抜けるような一刀で、縦一文字に切り裂かれていた。



『最前線、ギルドマスター組から報告します! 森のヒト、撃破しました!』


 前面の装甲が完全にはがれ、ボロボロになった機体から、それでも嬉しそうな声が聞こえてきた。

 あれほど沸き立っていた蟲や動物たちも、森の方へ引き返して行っている。


『観測班からも、森が沈静化したと報告が。予断を許さない状況ではありますが――』


 俺たちの期待に応えるように、緑獄迎撃班総指揮は、宣言した。


『――緑獄崩落、第二段階『剪定』、完了です!』


 みんなが歓声を上げ、あるいは疲れ切って地面に腰を下ろす。最前線に立ったままの四人も、すぐに動く気はないようだった。 


『本来なら、可能な限りの資源回収や、残ったエネミーの駆除をお願いしたいんですが、さすがに想定外が多すぎました。みなさん、最終防衛ラインに戻ってください!』


 どこまでが想定内だったのかは分からないけど、たぶん森のヒトとの交戦は、完全に計算違いだったんだろうな。

 それにしても、


『明日以降も、崩落対応は続きますが、難しいことは後にしましょう! みなさん、お疲れさまでした!』


 朝から晩まで、全体の状況を見ながら、すべての指示をこなしてのけた倭子さん。

 

『っと、マイクはこれか? おうてめえら! 帰って寝るまでが崩落対応だぞ! 疲れてても体は洗っとけ! 頭からキノコが生えても知んねえからな!』


 頑丈な体を生かしてタンク役を引き受け、とんでもない出力の結晶武器を操った親方。


『お風呂もそうだけどー、ちゃんとご飯も食べようねー! 私もおなかペコペコのペコだからー!』


 電撃を避ける鎧に、奥の手っぽい完全結晶フローレスの剣を使ってたクリスさん。


『迎撃班に参加してくださった、すべてのみなさん。あなたがた一人一人が、なすべきことをした末に、手にした勝利です。本当に、ありがとうございました』


 森のヒト討伐の立役者、山本さんが落ち着いた声で締めくくった。

 肺から安堵が漏れて、ちょっとまともに立てそうもない。

 朝から晩まで走り回って、敵を倒して、ヒトを助けて。


「大丈夫かい」


 いつのまにか、目の前にネズミの同僚の顔があった。

 気が抜けて、うとうとしてしまっていたらしい。


「……肩、貸してもらえます?」

「うん」


 ほんとにもう、一歩も動けない。

 悪いと思いながら、俺は彼に体を預けて、帰途に就いた。

 こうして、緑獄崩落の一日目は、終わりを告げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
今回も面白かったです。 とても厄介でしたね……。 一先ず1日目は無事終わった……のですかね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ